第108話 偽りと真実と
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「出雲桃太、あのロバ野郎に政治的な後ろ盾は一切ない。五月の総会で代表選挙が終われば、夏には私が冒険者組合のトップだ。そうなれば、奴は家族もろともこの世から消してやる。そうとも、日本の未来は、私の思うがままだ!」
四鳴啓介は裸の上半身を見せつけ、オレンジ色の髪をかきあげながら、自信たっぷりに大言壮語を吐いた。
そうして酒に濁った瞳を、部屋の入り口で警備する娘へ向ける。
「おい、柳家の娘。前祝いだ、酌をしろ。お前にも私の寵愛をくれてやろうというんだ。光栄に思えよ?」
「やめてよ、アタシは護衛として雇われているだけ。アンタを慰めろなんて事項、契約書にはなかったでしょ」
されど、桃太と同期の研修生であるサイドポニーが目立つ娘、柳心紺は啓介の誘いをがんとしてはねつけた。
「さっきから聞いてれば、デタラメばかり。陸羽ちゃん達に嘘を吹き込んだのは、アンタだったのか。出雲が呉君を守れなかったのは事実だけど、二人は最後までお互いを助けあっていた!」
「キシシシ。わからぬ奴だ、四鳴家が白と言えば黒でも白になる。冒険者界のサラブレッド、八大勇者パーティとはそういうものだ!」
啓介の放った暴言に、心紺は心底軽蔑したとばかりに冷え冷えとした視線を送った。
「アンタ、酒はほどほどにしなよ……」
「酌をしないというのなら、代わりにお前の従姉や、友人を呼んでもいいんだぞ?」
「静香姉さんや遠亜っちに手を出してみろ。アタシだけじゃなくて、柳の一族全てが敵になると思えっ」
心紺が交戦も辞さないとばかりに拒絶すると、圭介は怒りのあまりオレンジ色の髪をかきむしり、顔を真っ赤にして立ちあがろうとした。
そんなグループ代表を、彼の周囲にいる薄着の娘達は必死で寄りかかって止める。
「御主人様、まずいですって。柳静香は、七罪家が雇った孝恵代表の護衛で、腕利きの魔剣使いです」
「彼女の同僚には、西方無双と名高い槍の名手、北宮潤もいます。〝神の雷塔〟と〝百腕鬼〟が完成前の大事な時期に、トラブルを抱えるのはよしましょうよー」
「チッ。そんなに護衛がしたいなら、いつまでも突っ立っていろ。お前もじきにわかる。あの英雄モドキも、叔母が引き立てた離岸亜大、いや、奥羽亜大も、所詮は寒門のロバだ。決して貴族のサラブレッドになれないのさ」
心紺は、『そんな四鳴家の歪んだ成金思想こそ、獅子央焔に嫌われた理由じゃないか』――と、口に出しかけたが、庇ってくれた娘達の好意を台無しにするのも悪いと、心の中でボヤくにとどめた。
(出雲君……、四鳴啓介と〝S・E・I 〟の戦闘員は、〝鬼の力〟に飼われた食用鶏になっちゃってる)
柳心紺は、出雲桃太のレジスタンスに加わり、勇者パーティ〝C・H・O〟との戦いを乗り越えた一人だ。
故に、〝鬼の力〟の危険性を重々知っていたし、八岐大蛇を巡る真実の一端にも勘づいていた。
(〝鬼の力〟にずっと浸かったせいか、もう舞踏を見ても理性を取り戻せないみたい。第七階層に建設中の工業プラント〝ケラウノス〟を抑えて何をしたいのかな。出雲、お願いだから死なないでよ)
心紺は、四鳴家が桃太に仇なすことを見抜いていた。
彼女の実家は、クーデターを起こした〝C・H・O〟と交流があったことを口実に圧力をかけられ、人身御供のような契約を結ばされたのだが……。
柳心紺は〝S・E・I 〟の内情を知る為に、自ら望んで啓介の護衛を引き受けた。
(それに四鳴家が鎧の情報を奪ったという、一葉家のことも気になるよ。あの古い家に、そんな技術があったっけ?)
あとがき
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