第106話 リウの正体
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「「〝錐嘴鳥〟ヨ、〝八足虎〟ヨ、偽リノ英雄ヲ殺セ。コレゾ四連爪牙、空ト陸ノ一斉攻撃ハ避ケラレマイ!」」
〝式鬼〟の使役者は、四重音声で桃太の殺害を宣言し、空と陸から一直線に突撃させる。
「そうとも、俺は英雄なんかじゃない。だけど、女の子をこんな風に襲うなんて許せない。精一杯、足掻かせてもらうさ!」
桃太は足先で道路の石ころを手元まで蹴り上げ、サイドスローで怪鳥と妖虎に向けて投げつけた。
「我流・手裏剣!」
「ソンナ石ガ効クカアア!?」
本物の手裏剣ならばいざ知らず、石ころと見て油断したのだろうか?
使役者は〝式鬼〟四体に回避もせずに受け止めた。
それが、桃太の意図通りとも気づかずに。
「ばーんっ。なんてね」
「「GYAAAA!?」」
桃太が指を鳴らすや、石から発した衝撃波が紙の肉体を蹂躙し、二体の怪鳥を道路に叩き落とし、二体の妖虎を側溝へ激突させる。
「コ、コンナ技ガ使エルナンテ、聞イテイナイゾ!」
「そりゃあ、初めて使う技だからね」
桃太は、〝C・H・O〟の幹部だった黒山犬斗や、昼に公園で交戦した黒騎士から、〝鬼の力〟を込めた弾丸の攻撃を幾度となく受けてきた。
そうして今日、紗雨が石を使った〝水遁の術〟という見本を見せてくれたことで、桃太は彼なりの新技を編み出したのだ。
「ただの石ころでも、こうやって衝撃を利用すれば、麻痺爆弾として作用する。判断が遅いぞっ。我流・長巻!」
桃太は落下した怪鳥一体の首を、手から長く伸ばした衝撃の刃で刎ね、もう一体の怪鳥には、跳び蹴りからのかかと落としを見舞って粉砕した。
「あと二体!」
「オノレ、動ケエエ!」
妖虎が痺れから回復したのか、姿勢を低くして正面から襲いかかり、八本ある足の爪で桃太を切り裂こうとした。
されど桃太は左足を踏みこみ、半身になって避けると同時に腰を回転させ、背骨から右の足先へ衝撃を伝えながら妖虎を蹴り上げ、腹部を爆発させた。
「クソ、マダ一体イル!」
「いいえ。もう、いない、です」
最後の妖虎の首は、桃太のマウンテンパーカーを着た山吹色髪の少女が、馬の蹄鉄に似たU字型の刃で切断していた。
「チイイ、〝時空結界〟ヲ解除。〝式鬼〟ドモヨ、命尽キルマデ暴レルガイイ!」
遠方で車の走りだす音が聞こえて、電灯のスイッチが入ったかのように、灰色の世界が元の世界に切り替わった。
「出雲桃太様、踊りましょう。式鬼も鬼の一種だから、ダンスで祓えます」
山吹色の髪を三つ編みに結った少女はずっと離さなかった短剣を捨てて、桃太に向け擦りむいた手を差し伸べる。
「そうなのかい? 確かに祓った方が良さそうだ」
虎と鳥。四体の式鬼は使役者の最後の命令に従って、再生しようと暴れていた。
「……リウちゃん、ごめんね。黙っていて」
「謝らないでください。隠していたのはウチも同じ。リウの字は、大陸の陸に、羽根の羽と書くんです」
桃太はリウの言葉に、ハッと気づいた。
その名前は、亡き親友の名前に酷似していたからだ。
図書館で初めて会った時、見覚えがあったのも当然。友が過去に見せてくれた写真に、彼女の姿が混じっていたのだろう。
「うちの名前は、呉陸羽。呉陸喜の妹です。出雲桃太様、四鳴啓介様の命により、今日から貴方の護衛となります」
「リウちゃん。護衛じゃなくて、友達になって欲しいな」
「はい。ご命令とあらば……」
「……」
桃太の差し出した手を陸羽は握りしめ、ワルツを踊る。
先程までとは違い、二人の距離は近いのに、心はひどく離れていた。
あとがき
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