第105話 切り札の応酬
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「あ、あに様。うちも戦います。鎧がなくても、この武器があれば!」
「リウちゃん。その馬の蹄鉄に似たU字型の短剣、大事なんだね。しっかり持っていて」
桃太は、少女リウをマウンテンパーカーに包んで抱き上げると、東京湾内部に作られた人工島〝楽陽区〟の街並みを駆け抜けた。
昼の交戦時にも公園全域を覆っていたようだが、世界をズラす〝時空結界〟は、かなりの広範囲に亘って展開可能なようだ。
桃太の眼前に見覚えのある、赤と白の花が咲くツツジの生け垣が目に入る。ひので荘はもうそこだ。しかし。
「トータさん、前方、鳥の〝式鬼〟が空から来ます!」
「後ろに戻るか。いや、虎が来るのかっ」
桃太とリウは、目的地まで後少しというところで、遂に追いつかれた。
前方では、〝錐嘴鳥〟と呼ばれた長いくちばしの生えた怪鳥二体が空を旋回しながら、紙の翼から鋭利な針を射出し――。
後方からは、〝八足虎〟の名前通りに、八本足を生やした妖虎が全身を刃で覆い、凶器を一斉掃射してきた――。
「リウちゃん、ごめんよ。ちょっと狭いけど我慢してね」
桃太はリウを生垣に押し込むと、彼女の盾になるように立ちはだかった。
「トータさん、やめて。あに様、いやあああ!」
リウは兄に似た少年に数百、数千もの刃と針がつき刺さるという、絶望的な光景に悲鳴をあげるも――。
「大丈夫、心配しないで」
桃太は、最強の切り札で迎撃した。
「さあ、反撃と行こうか。〝生太刀、草薙〟!」
桃太が右手刀を掲げて薙ぐように振るうと、彼を中心とした半径二メートルの空間を衝撃波が満たし、幾度となく反射と増幅を重ねた。
八本足の虎型の〝式鬼〟がハリネズミのような体から放った剣も――、
長いくちばしを持つ鳥型の〝式鬼〟が翼から放った針も――、
数千本に及ぶ飛び道具が、球状の振動に巻き込まれ、黄金と白銀の光に包まれて消えた。
「広範囲ノ鬼術ダト!? ソレデハ、小娘モ巻キ込ムゾ!」
〝式鬼〟の喉元に仕込まれたマイクから、勝ち誇った声が響くが、的外れもいいところだ。
「そいつはどうかな? 狙ったモノだけを撃ち落とすから、必殺技なのさ!」
桃太が振るう〝生太刀、草薙〟の正体は、一定範囲内を完全にコントロールする衝撃波に他ならない。
(強固な装甲を貫通し、敵味方を識別し、標的だけを薙ぎ払う広範囲技。これならリウちゃんを守れる、リッキー、俺は今度こそ、守ってみせるぞ!)
桃太の技は、白いマウンテンパーカーに包まれたリウに傷一つつけることはなく、迫る脅威を完全に排除した。
「あ、あ、貴方は、やっぱりっ!」
しかし、山吹色髪を三つ編みに結った少女は、桃太の背中を見ながら、喜びとも悲しみともつかぬ声をあげた。
大技を放った反動で、額の十字傷を隠していたバンダナが宙に舞い、顔の印象を変える幻影も解けてしまったのだ。
「キ、キキ、キサマカアアアア! 出雲桃太、〝C・H・O〟ヲ潰シ、僕ノ出世ヲ台無シニシタ悪党ハ!!?」
元〝C・H・O〟の構成員らしき術者も〝式鬼〟を通じて桃太の顔を見て、怨みの声をあげた。
「「〝錐嘴鳥〟ヨ、〝八足虎〟ヨ、偽リノ英雄ヲ殺セ。コレゾ四連爪牙、空ト陸ノ一斉攻撃ハ避ケラレマイ!」」
〝式鬼〟の使役者は、四重音声で桃太の殺害を宣言し、空と陸から一直線に突撃させる。
あとがき
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