第104話 結界内の死闘
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額の十字傷と正体を隠した少年、出雲桃太は、山吹色の髪を三つ編みに結った少女、リウを守り、一葉家の刺客が操る〝式鬼〟の撃破に成功した。
「はうっ、トータさん。おかしいです」
「な、なにが!?」
桃太は、リウが素っ頓狂な声をあげたことで、自分の正体がバレたかと勘違いしそうになったが、そういうわけでもないらしい。
「式鬼がいなくなったのに、結界がとけません」
「まだ、どこかに襲撃者が隠れているのかもね」
桃太は周囲を警戒したまま、腕の中にいるリウを優しく抱きしめる。
「はうう」
心地よさそうに頬を染めるリウの温もりを感じながらも、桃太の意識は冷え冷えと冴えていた。
(そうだ、二体で終わるはずがない。レジスタンスの指揮官だった遥花先生や、参謀の祖平なら、こういった場合、必ず伏兵を用意するはずだ。〝式鬼〟を操っている襲撃犯め、お前はいったいどこに隠れている?)
桃太はかかとで道路を踏んで衝撃の波を発し、ビルの狭間を走らせることで、潜水艦のソナーが如くに周囲を索敵した。
「見つけた。空に鳥が二体、陸に虎が二体と、術者が一体。呪符で作られた存在だからか、読みづらいな」
桃太の声は小さかったにも関わらず……。
「クソガキ。サッキカラ、何ダ? オマエハ危険過ギル!」
「GUU!」
「GYAAA!」
式鬼を操る術者は、桃太に自分の存在と戦力を見抜かれたことを勘づいたらしい。自身の全戦力、二匹の妖虎と二羽の怪鳥を差し向けてきた。
「トータさん、鎧も無いのに四体なんて無理です。あ、あに様、ウチを捨てて逃げてっ。この刃があれば囮役くらいはできます」
桃太は、馬の蹄に似たナイフを握ったまま、殿を務めようと覚悟を決めた少女の額をぴんと指で弾き、大地を踏みしめた。
「いいや、逃げるならリウちゃんも一緒さ」
「はううっ」
桃太は背筋を伸ばし、今は亡き親友に心の中で呼びかける。
(そうだろう、リッキー?)
桃太がリウをお姫様抱っこしたまま駆け出すと、つい先ほどまでいた場所に呪符の剣がザクザクと突き刺さった。
「取引ダ、ソノ娘ヲ置イテユケ。ノルナラ命ハトラン、金モヤロウ」
「やーなこった。あっかんべってね」
「ナラバ、死ネ!」
桃太の軽い煽りに引っかかるあたり、式鬼を操る使役者の狙いは、本当にリウらしい。
怪鳥が高速飛行で退路を塞ぎ、妖虎は呪符の剣を機関銃のようにばら撒いてきた。
「その手の技は、伏胤の時に経験している。リウちゃん、舌を噛まないよう気をつけて。全速力で走るよっ」
「はうう。わかりまひたっ」
桃太は〝斥候〟の役名に恥じない脚力でビルの壁を蹴ると、いくつかのコンビニや平家の屋根を駆け抜けて剣の弾幕を潜り抜けた。
途中で裏道に降りて、目指すは〝ひので荘〟だ。
たとえ屋内に退避できなくとも、紗雨や乂が異常に気づくかも知れないし、最悪の場合でもリウを隠せると踏んだのだ。
(ともかく情報が必要だ。〝時空結界〟はどこまでが範囲内だ? 〝式鬼〟にはどんな攻撃手段があって、どんな迎撃手段が有効だ? 戦いの中で学んでやるぞ。英雄、獅子央焔が遺した〝勇者の秘奥〟を相手取るだなんて、ワクワクするじゃないか!)
あとがき
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