第103話 式鬼を操る者
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「〝式鬼〟の後ろにいる奴、お前はC・H・O〟の残党か!?」
桃太が妖虎のあごを蹴り砕きながら問いかけるも、姿の見えない術者は〝式鬼〟を空中で一回転させることで、器用に道路へと着地させた。
「ナゼワカッタ? サテハ貴様、レジスタンスノ参加者カ? 黒山ガ出世ヲ約束シテクレタノニ……。アノ時トイイ、マタ僕ノ仕事ヲ邪魔スルノカ!」
桃太はマイクから聞こえた使役者らしき者の発言に、堪忍袋の尾が切れそうになった。
そんな彼をあざ笑うように、妖虎は八本の足を目まぐるしく動かしながら、付近のビルを駆け上る。
「ドウダ。鎧ヲ着タ小娘ナラバ、イザ知ラズ、貴様デハ追イツケマイ。コウヤッテ振リ回セバ、拐カスノモ容易イ!」
「おいおい〝斥候〟を甘く見てもらっちゃ困る。この通り、おいかけっこは得意なんだ」
されど、桃太もまた〝斥候〟の役名を担う冒険者だ。
ビルとビルの狭間を蹴り上げながら跳躍し、白い紙が重なる八本足の虎を、瞬く間に追い詰めてゆく。
「ハア!? ナラバ、貴様カラ死ネ!」
桃太の追跡から逃げられないと見たか、八本足の妖虎は二四時間営業のスポーツジムが入ったビル屋上で足を止めた。
「野生ノ〝八足虎〟ヲ超エル〝式鬼〟の真価。攻防一体ノ奥技ヲ見セテヤロウ!」
式鬼の喉元に付いたマイクから、再び使役者らしき男の自信満々な声が響き、〝式鬼〟は自らの肉体を構成する呪符を剣のように伸ばして、ハリネズミのような防御態勢に変化する。
「そうかい。戦闘中に事前準備が必要な技なんて、良い的だ。我流・鎧徹し!」
桃太は怖れずに妖虎の肉体に手を伸ばし、両手から衝撃波を送り込み、剣山じみた外皮の内部から崩壊させた。
「フ、フザケンナ。技ヲ撃ツ前ニヤルカ普通!? コノ牙デブチ殺シテ……」
「だまれ、〝C・H・O〟で黒山の仲間ならば、俺の親友を奪った仇だ!」
式鬼は大口を開けて噛み付くも、桃太は衝撃を宿した右の拳で、呪符の牙ごと虎の顔面を粉砕した。
「そもそも〝式鬼〟だかなんだか知らないが、女の子をいじめる悪党はぶちのめす。我流・直刀」
桃太は原型を留めなくなった妖虎を膝で蹴り上げ、ビルの屋上から二車線道路の向かい側まで吹っ飛ばした。
「コ、コンナ、クソガキ如キニ。GAAAAAッ!?」
空いた駐車場で爆発音が轟き、黄金と白銀の光に包まれながら、呪符が燃え落ちる。
(声の様子からして、使役者は近くにいるのか?)
桃太は気になったものの、それよりも恩人の命を優先すべきだと決断。
ビルを垂直に駆け降りて、リウの元へ駆けつけた。彼女は熱に浮かされたように顔を桃色に染めて彼を出迎えた。
「あに様、〝式鬼〟とは異界迷宮のモンスターを捕まえて呪符に変える技術です。あの強さ、かなりの深層のはず。お強くなられたのですね」
「トータだよ。これでも冒険者の端くれだからね」
桃太はリウがまとう鎧の残骸をはらい落としたが、恐怖からか右手に持ったナイフだけは握りしめて離さない。
桃太はリウのこわばった手の甲をそっと撫でて、左の手を引いた。
「リウちゃん。起き上がれるかい?」
「はう、はううう。トータさん、あまりウチを見ないでください」
山吹色の三つ編み髪の少女の顔が、火にかけたやかんのように真っ赤になる。
彼女は白騎士の鎧下へ、肌に張り付くような薄い戦闘服を着ていたため、鎧を脱ぐとボディラインが露わになるのだ。
「ごめん、ごめん。リウちゃん、このパーカーを使って」
桃太は、熟れた林檎のように顔を真っ赤に染めたリウに、白いマウンテンパーカーをかぶせた。
そして、脚立から落ちた彼女を受け止めた時のように、両手で小さな体を抱き上げる。
「ありがとうございます。トータさんって、本当にC・H・O〟を倒した英雄、出雲桃太様みたい」
「あっはっは」
桃太は額の傷を隠している以上、まさか本物ですと名乗るわけにもいかず、笑って誤魔化した。
あとがき
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