第102話 白騎士 対 式鬼
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図書館で出会った少女リウが白騎士に変身したことに、桃太が戸惑っている間にも――。
「あに様、あに様、あに様あああ!」
山吹色の髪を三つ編みに結った小柄な少女リウは、赤く染まった瞳から涙をこぼし、泣くように叫びながら、無数の白い紙で形作られた鳥の化け物、〝式鬼〟を相手に猛攻を続けていた。
「GAAAAA!」
されど彼女の戦闘法は、一切の防御を考えない危ういものだ。
隙だらけの連続攻撃を読まれたか、槍めいたくちばしに鎧の隙間を突かれ、薄い戦闘服が裂けて、真珠のような肌が見えて赤い血がしぶいた。
「いたくない。まもる、ぜったいにころさせないっ」
それでもリウは〝鬼の力〟を用いた治癒の活性化術で無理やり傷を埋めて、呪符を重ねた怪鳥の体にひたすら刃を突き刺してゆく。
(初心者にありがちな、〝鬼の力〟まかせの未熟な戦い方だ。公園で戦った時のリッキーを思わせるクレバーさは、まだない。彼女は黒騎士じゃない)
桃太は、再び胸の内に蘇ったリウへの疑惑を投げ捨てた。
「リウちゃん、危ないよ。俺と一緒に逃げよう」
「駄目だよ、あに様。〝式鬼〟を使っているのは、四鳴家の鎧を狙っている一葉家のスパイだもの。大丈夫、心配しないで。ウチは強くなったから、ちゃんと倒せるよ!」
リウは遂に怪鳥を地面に叩きおとし、桃太に見せつけるように、呪符を束ねた羽根をもぎ取った。
「あにさま、また二人で暮らそうよ。家族だもん、もう誰にも奪わせない」
「GYA!?」
山吹色髪の少女は、半ば壊れた笑みを浮かべながら小さな手で刃を振るい、空飛ぶ〝式鬼〟の首をはねた。
「あに様。ねえ、褒めて。ウチはその為に強くなったんだ!」
「リウちゃん、俺はお兄さんじゃない。今は自分の身を守ることに集中して!」
桃太は、リウが〝鬼の力〟を暴走させるあまり、彼と兄の判別がつかなくなっているのではないかと不安になった。
案の定、彼女の意識が離れた瞬間、物陰に潜んでいたらしいもう一体の式鬼、八本足の白い妖虎が飛びかかる。
「ナマズ女カラ、連レテコイト命ジラレタ時ハ、ドウナルカト思ッタガ……。小娘メ、スキダラケダ!」
「あ」
式鬼は、首元につけたアンテナ付きマイクから嘲笑い声を発すると――。
鋭い爪を閃かせて、白騎士の背部ランドセルをズタズタに切り裂いた。
オルガンパイプのような排気口が折れ、蒸気機関が停止。濃厚な森の匂いを漂わせながら、白騎士の鎧はぼろぼろと崩れ始めた。
「〝錐嘴鳥〟ヲ倒シタコトハ褒メテヤル。ダガ、異界迷宮ノ奥デ捕ラエ、我ガ〝式鬼〟ニ変エタ〝八足虎〟ノ敵デハナイ。半殺シデ、スマセテヤロウッ!」
「ああっ」
妖虎は身動きの取れなくなった少女に、のこぎりのような歯が並ぶ大口で食らいつく。
「リウちゃん、怪我させてごめん。あとは俺がなんとかする」
「GYAAAAA!!」
が。妖虎の牙がリウの白い肌を赤く染める直前、桃太の伸びた右足がギリギリで届く。
回し蹴りが虎の口元に直撃。足の甲にこめた衝撃波が、呪符で形作られた顔をビリビリと破って半壊させる。
「〝式鬼〟のことは知らないが、このマイクとアンテナのデザインには見覚えがある。異界迷宮カクリヨでも使える特別性だろう?」
かつて三縞凛音が使っていた義眼と義耳、そして昼に交戦した黒騎士のマイクや義腕にも、類似の技術と素材が使われていた。
「〝式鬼〟の後ろにいる奴、お前はC・H・O〟の残党か!?」
あとがき
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