第101話 襲撃
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「リウちゃん、町の様子がおかしい。一度図書館に戻ろう」
桃太がもしも、昼に公園の戦いを経験していなければ、街の異様さに戸惑ったかも知れない。
しかし、桃太は車が一台も通らず、人が一人もいない状況から、一葉家に伝わるという勇者の秘奥、〝時空結界〟であると見抜き、とっさにリウの手を引いて逃走を図った。
(世界をズラす〝時空結界〟で壊れた器物は、結界が解けた時に戻ったけれど、……生命のある花や木は戻らなかった。じゃあ、人のいる建物はどうなるんだ?)
桃太が危惧した通り、まるで見えない壁にでもぶつかったかのように、自動ドアの直前で弾かれた。
ならばとスポーツジムを目指しても同じで、建物の中に入ることは叶わない。
「「GYAAAAA!!」」
そればかりか無数の呪符らしき紙の束を寄り合わせた、八本の足をもつ妖虎が道路を走り、槍の如き長いくちばしが生えた怪鳥が空を飛んで、襲ってきたではないか。
「黒騎士じゃないっ。迷宮のモンスターが地上に出たのか? 〝楽陽区〟の防衛はどうなっているんだっ」
「はうっ。トータさん、怪物の口元が見えますか? マイクとアンテナがついています。あれらは、モンスターでなく、一葉家の〝式鬼〟です」
桃太は、乂が一葉家にそんな技術があると言っていたこと思いだし、リウの手をより強く握りしめた。
「ウチを狙ってきたのでしょう。トータさん、巻き込んでゴメンナサイ。後生ですから、今から見ることは忘れてください」
しかし、山吹色髪の少女は手を振り払い、桃太を庇うように獅子と怪鳥に向かって一歩を踏み出した。
「そうだ、ウチが守るんだ。トータさんを、あに様に似ている人を、絶対に殺させるものか。〝天馬の沓〟、力を貸して」
少女はポケットから、白く輝く馬の沓を取り出して掲げた。彼女の黒い瞳が熟れたホオズキのように真っ赤に染まる。
「舞台登場 役名宣言――〝白騎士〟。もう二度と、あに様を殺させない!」
山吹色の三つ編み髪が風に巻き上げられるように逆立ち、ふんわりとしたセーターがぴっちりとした薄手の戦闘服に入れ替わり、白く無骨な鎧が装着される。
「〝白騎士〟だって!?」
リウの予想もしなかった変貌を見て、桃太は目を大きく見開いた。
(彼女が持っている金具、〝ペガサスの沓は、乂の短剣や紗雨ちゃんの勾玉のような〝鬼神具〟の名前か? しかも、昼間に戦った黒騎士と同じ鎧を身につけている? いや違う!)
白騎士は、可動域を確保する為か、それとも軽量化の為か、あちこちの装甲板が足りておらず、肌に張り付くように薄い戦闘服が剥き出しになっていた。
「リウちゃんが身につけた鎧は、四鳴家の新兵器、なのか?」
なるほど新聞記事に載っていた写真のパワードスーツに、蒸気機関を搭載したランドセルと、オルガンパイプ型の排気口をつければこうなるだろう。
しかし、鎧特有のカッコ良さと女性用らしい可愛らしさを備えた白いパワードスーツだが、秀麗なデザインと引き換えに、昼に公園で交戦した黒騎士と比較すると――いかにも中途半端な仕様に見えた。
「ウチが、あに様を守るんだ。あに様を傷つける者は許さない」
リウは絶叫するや、足をひきずるようにして、長いくちばしをもつ怪鳥の舞う空へ突撃した。
(ホバー機能もないし、サイボーグ技術を使っている様子もない。武装もシンプルな刃だけか?)
桃太と紗雨が交戦した黒騎士は、狩猟鬼、一目鬼という二つの戦闘モードを使いこなすに留まらず、長銃やら投網やら雷を放つナイフやらと、特殊な武器が盛りだくさんだった。
しかしリウが変身した白騎士の武器は、籠手に収納された馬の蹄に似た、諸刃のショートソード二本だけのようだ。
紙の怪鳥に空中戦を挑むには、あまりに心許ない。
「白騎士の方は、全体的に未完成……いや、黒騎士の完成度が〝高すぎる〟のか!?」
あとがき
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