第100話 結界
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出雲桃太は、八大勇者パーティのひとつ、〝S・E・I 〟を擁する四鳴家が開発したという、新型パワードスーツについて並々ならぬ興味を抱いた。
他の新聞社の記事はないか探したものの、機密事項なのか注目されていないのか、残念ながら見つけることはできなかった。
(他に記事で気になったのは、異界迷宮カクリヨの、第七階層〝鉱石の荒野〟に建設中の新型工業プラント〝ケラウノス〟だ。冒険者組合が建てている施設なのに、四鳴家と〝S・E・I 〟が私物化していないか?)
桃太があれこれと探しているうちに、閉館を告げる音楽が流れ始め……。
「当館は間もなく閉館します。お忘れ物をなさいませんよう、ご注意ください」
遂には退去案内を告げられたため、桃太は山吹色髪を三つ編みに結った少女、リウと共に図書館を出た。
「それにしても、リウちゃんは珍しいね。俺は人に見せようとコピーをとりにきたんだけど、最近は紙の本よりも電子書籍の方が利用されているみたいだから」
「は、はわわ。異界迷宮カクリヨでは、精密機械が使えないと聞いたのです。だから念の為に、電子データ以外にも保存しておこうと思って。それにトータさん。ウチはどちらかというと、紙のテキストが好きです」
桃太はもう、リウを疑うことをやめていた。
交戦した黒騎士が使う木炭と同じ、特徴的な〝森林の匂い〟を感じたのは、緊張による誤解だと結論づけた。
「リウちゃんの慎重さは冒険者に向いていると思う。キミも育成学校に入るんだろう?」
「はい、亡くなったあに様の遺志を継いで、冒険者になりたいんです」
桃太がかつて冒険者に憧れたような、希望に輝く瞳でリウはそう答えた。
彼女が語るところによると、彼女の兄は一族自慢の傑物――だったという。
「ウチの一族は貧乏なのに、父と母が亡くなった後も、ずっと親戚が面倒をみてくれたんです。でも、あに様が死んで、落ち込んじゃった。だからウチが代わりに頑張ろうって〝焔学園〟に入学を決めたんです。こんな立派な島を作るくらいだから、すっごく儲かるんですよね?」
「ど、どうだろう。俺もまだ研修生だから、わかんないや」
桃太はいまだ研修生のため、収入はかつかつだった。
だが、個人と組織では、まったく意味合いが異なるだろう。
(英雄、獅子央焔が護国の為に、冒険者組合を設立して半世紀以上……)
桃太もクーデター鎮圧後から、華々しく持ち上げられたからこそわかる。
当初は組合員の為に求められたはずの権益は、とめどなく肥大化し、今や日本政府をしのぐほどになっていた。
(亡くなった弘農楊駿や、姿を消した獅子央賈南は、冒険者組合を支配することで、巨利をむさぼっていたようだ。啓介さんたち、四鳴家は、彼らに取ってかわりたいみたいだけど……。お金と権力は人を狂わせる)
桃太は気分を変えようと伸びをして、所在なげに立ち尽くすリウに手を伸ばした。
「リウちゃん。もう暗いから、駅まで送っていくよ。人通りも少ないし、女の子一人だけじゃ危ないからさ」
「トータさん。おかしいです、人が少ないどころか、一人も見当たりません」
桃太はリウの指摘を受けて、言葉を失った。
先程まで夕刻の喧騒に満ちていたコンクリートの街路は車も通らず、猫や鳩も姿を消して、図書館の隣にあるスポーツジムさえ静まりかえっている。
(世界がまるで灰色に染まったようだ。昼の公園と同じように、〝鬼の力〟で世界をズラす〝時空結界〟を張ったのか。だとすれば、犯人は一葉家か、四鳴家。そして狙いは俺か!?)
あとがき
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