第99話 四鳴家とパワードスーツ
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山吹色の髪を三つ編みに結んだ少女リウがあれやこれやとメモを取る間。
桃太も額に巻いたバンダナの下、黒い目を光らせて新聞記事と睨めっこしていた。
「……言っちゃあ悪いけど、勇者パーティ〝S・E・I 〟は、レジスタンスがカクリヨで戦っていた頃、本当に勝てていないんだな」
様々な新聞の記事と照らし合わせて見ても、四鳴家のクライマックスは、やはり〝C・H・O〟討伐を表明した瞬間だけだ。
桃太自身が率いたレジスタンスはもちろん、他の勇者パーティにも戦果で及ばない。
もしも桃太が外部協力員になっていなければ、「冒険者組合の覇権を握りたい」と野心を燃やしても、一笑されたに違いない。
「トータさん。それは不運だっただけです。御当主の啓介様と、副当主の朱蘭様の折り合いが悪くて、実力を発揮できなかったんです」
リウの見せてくれた記事には――、
四鳴啓介が〝S・E・I の手勢を率いて攻め、
一葉朱蘭が〝J・Y・O〟の援軍と共にかけつけて説得し、
奥羽亜大なる指揮官が守る〝C・H・O〟拠点を降伏させた。
――という、クーデター中の戦いが紹介されていた。
見出し通りに箇条書きにすれば、そうおかしなものではない。
しかし、記事の内容を精読すると、まったく違う風景が見えてくる。
「ひどいな。〝S・E・I も、〝J・Y・O〟も、不要な落とし穴を掘ったり、無駄な障害を作ったり、進軍先に割り込んだり、お互いに戦闘の邪魔ばかりしているじゃないか。いつもこんなことばかりしていたら、勝てるはずがない」
桃太が新聞記事を見る限り、二つの勇者パーティは互いを邪魔する合間に敵と交戦しているようにしか見えなかった。
「リウちゃん、詳しいんだね」
「はううっ。勉強しましたから。でも、もう心配ありません! 〝S・E・I 〟には、新しい英雄である出雲桃太様や、天才と名高い矢上遥花様が参加されましたし……」
「そ、そうなんだ」
桃太は照れてそっぽを向いた。
彼も、恩師である遥花も、あくまで外部協力員だ。
それでも、リウの期待を否定する気にはなれなかった。
「しかも、四鳴家は新しいパワードスーツを開発したという情報が、ネットやSNSで評判になっているんです。噂だけじゃないんですよ。ほら、この記事を見てください」
「ええーっ、パワードスーツだって!?」
桃太はパワードスーツと聞いて、思わず身を乗り出した。
昼に交戦した黒騎士のことを思い出さずにいられなかったからだ。
『四鳴家、第七階層〝鉱石の荒野〟に建設中の新型工業プラント〝ケラウノス〟にて、異界迷宮カクリヨを切り裂く秘密兵器〝パワードスーツ〟を開発中!?』
早速、リウが見せてくれた新聞記事を覗き込むと、以上のようなタイトルの短い記事と写真が載せられていた。
「へえ。カッコイイし、触ってみたい」
「はううっ。ですよね、可愛いですよね」
桃太はつい歓声をあげたものの、はてと首を傾げた。
デザインは黒騎士とは似ているが、その色は白く装甲も薄く、そもそも蒸気機関を載せたランドセルがない。
(ここからバージョンアップして、あの黒騎士を完成させたのかな? 自転車と大型バイクくらい違う気がするけど……)
あとがき
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