ストア
久々の投稿。
「いったぁ……もう、どこ見て歩いてんのよ!」
土を払いながら立ち上がった少女が、金髪を振り乱しながらこちらを睨み付けてくる。
染めてある感じじゃなかった。純正のブロンドだ。幼さの残る端正な顔に、今はこれでもかというくらいの憤懣を表している。ただ、それでも全く恐さはない。
「ちょっと、聞いてるの? あなたに言ってるんだけど」
「すみません」
我に返った俺は少女に深くお辞儀する。
スキンヘッドさんといい、今日は謝ってばっかりな気がする。
「……まったく。まあいいわ。おじさん、この町初めてなの?」
俺が着ている服装が珍しいのだろう、少女がじろじろとこちらを眺め回してくる。こちらとしても、少女のエプロンドレスの様な装いは日本で見たことのないデザインだったが、あまり嘗め回すように見ると警察のお世話になりそうなので自重しておいた。
警察がいるのかどうかは知らないけど。
「実はそうなんだ。極東の方からはるばるね」
それを聞いた少女が、納得したように一つ頷いた。
「そ。遠くから来る人はみんな、バーソルトの出店を見て驚くのよね」
「出店というか売り物というか……バーソルト?」
「あなた、町の名前も知らずに来たの? てっきり何か売りに来たのかと思ったのに」
「いや、今知った。売りたいものはなくはないけど……」
ラプエルの機能を使えば、売り物を用意すること自体は容易いだろう。
生きるために金が必要な以上、それを惜しむ気もさらさらない。
ただ、出店しようにも異世界に宛てなんかあるはずがないし、どうしたものか。
「ふぅん。でも、それなら運が良かったわね」
額に手を当てて唸る俺に対し、少女がどこか得意げにそう告げる。
「運が良かった?」
「ここバーソルトではね、商品さえあれば誰でもお店を構えることができるの。例えば品物を並べる店舗が布切れ一枚だったとしても、それがどんな売り物であっても、ね」
言いながら、少女が上手にウィンクしてみせる。
異世界に着てから、食べるものがなくて変なキノコを食べることになったり魔物に襲われたりと散々だったのだが、ようやく運が回ってきたということだろうか。
というか、どんな売り物でも売っていいということは、普通に露店で売っている商品の中に危険物や薬物が混じっていても問題ないということだろうか。
いや、それはそれで少し気がかりではあったが、今重要なのはそこじゃない。
「凄いな。ってことは、場所代や権利費なんかが払えなくても金を稼げるってことか」
「まあ、そうはいっても大抵は趣味でやってるような小さな店が多いんだけどね。ちゃんとした店舗を構える人も中にはいるわ。あなたは前者になりそうだけど」
「……なるほど」
確かに少女の言う通り、この町には中央道を逸れた道にまで沢山のお店が並んでいるが、その大半がごく小規模なものだった。具体的に言えば、レジャーシートくらいの大きさの布を地面に直に広げて、その上に雑貨や服などを並べている店が多かった。
道行く人たちもそういった店には目もくれることなく歩いている。
店主がいる店もあれば、品物の側にお金を入れる箱が置いてあるだけの店舗もあって、趣味とそうでない人の差はそういうところなんだろうか、となんとなく思う。
「どっちにしても、この町に滞在するならまずはギルドに行った方がいいんじゃない?」
「滞在するのにギルドに行く必要があるのか?」
「あなた、ギルドもない田舎から来たの……? あ。そっか、極東から来たって」
極東がどんな田舎なのかは知らないが、妙に納得される。
とはいえこれ以上話を続けるとボロが出そうだった(極東からどうやって来たの? とか聞かれたら答えられる自信がない)ため、俺は言葉を濁しながら頷いた。
「ああ、うん……そうなんだ」
「なら、ますます行った方がいいんじゃない? 冒険者登録もしてないだろうし、この町のことだって私が説明するよりもずっと詳しく教えてくれるわ」
なんだかんだ言いながら、面倒見のいい子なのだろう。ついでにギルドの場所を聞くと、それくらい自分で探しなさいよと文句を零しながらも丁寧に道筋を教えてくれた。
「ありがとう、助かったよ」
お礼を言いながら手を振り、俺はギルドがあると言われた方へ向かって歩き出した。
少女もぶんぶんと手を振ると、大きな声で別れを告げてきた。
「またね、変な恰好のおじさん!」
「目立つ恰好なのは自覚してるがおじさんはやめてくれ! 達樹だ」
「タツキ……名前も変わってるのね。私はソティアよ。お店、開いたら教えてね!」
「ああ、分かった!」
最後にそんな会話を交わすと、俺は少女と別れて中央道を歩き始めた。
ソティアに教えて貰った道をしばらく進むと、三方に太い道の繋がる広場に着いた。
広場の中央には噴水があり、冒険者と思わしき方々が串焼きを頬張っている。肉の匂いに釣られそうになりながらも俺は何とか視線を引き剥がすと、
「建物の外見とか聞き忘れたけど……多分ここだよな」
真正面にそびえる巨大な木造建築物を前に、誰にともなく呟いた。
高々と掲げられている看板の文字は全くもって読めないが、いかにもというか、どこかで見たことがあるというか。町の入口ほどとは言わないが大きく重そうな扉から、剣や弓を持った人が頻繁に出入りしているのも印象に一役買っているのだろう。
しかし、実際にそんな人たちがいるのを見ると、どことなく入りづらさを感じる。テンプレっぽいチンピラに足を引っかけられたりしないだろうか、なんてことも思ったり。
とはいえ、折角ここまで来たんだ。そもそも商売を始めないことには飯にもあり付けないし、と決意を新たにして、俺は恐る恐る扉を潜った。
中は意外にも明るく、外から見た以上の広さがあるように感じた。
イメージとは大きく違わないが、どことなく居酒屋っぽさを覚える。居酒屋といえば、上司に無理に飲まされて悪酔いしたときの気持ち悪さが蘇りそうになる。……と、これは思い出しちゃダメなやつだった。思考を頭の端に追いやりながら奥へと進んで行く。
昼間だというのに酒が入っている者。席に着いて談笑している冒険者たち、かと思えば受付ではキャビンアテンダントみたいな恰好のお姉さんがあくせくと人を捌いている。居酒屋以外で例えるなら、どことなく役所とファミレスを足して二で割ったみたいな感じだった。もうちょっとハローワーク的な所を想像していた身としてはギャップを感じる。
「あのー、ここって冒険者ギルドで合ってますよね……?」
カウンターに辿り着いた俺は、手が空いてそうな受付のお姉さんに声をかけた。
「はい、初めての方ですか?」
満面の営業スマイルを浮かべたお姉さんがこちらを振り向く。
制服の胸元が大きく開いていて、目のやり場に困る。
それにしても綺麗な人だ。というか、ギルド勤めの条件に顔面偏差値七〇以上とかありそうなくらいに可愛い、或いは美人な人が揃っている。こんな人たちと一緒に仕事ができたら仕事内容がどんなであれ楽しいだろうな、なんて思わず考えてしまう。
「そうです。いくつか聞きたいことがあって、ここに来れば色々教えてもらえるって町の入口の人に聞いて来たんですけど……」
「そうでしたか。私、当ギルド案内担当のミサリーと申します。私に分かることでしたら何でもお伺いしますよ」
「ありがとうございます。えっと、じゃあまずは──」
「ちなみに私たちスタッフの住所、年齢、スリーサイズ等の個人情報はお答えすることは出来ません」
……なるほど、お姉さんも苦労してるんだな。
そんな格好していたら男どもがよってくるに違いない。
「いえ、そういったことを聞きに来たわけじゃなくて……」
「私には興味ないと言うことでですか?」
(どうゆう意味だ⁉ もしかして口説かれている?)
「おい、ラプエルもしかしてあのお姉さん俺に脈があるんじゃ無いのか?」
「……99.9%からかわれているだけです」
「なるほど、脈ありの可能性有と」
「えーーと、大丈夫ですか? さっきのは冗談ですよ」
(はい、わかってましたよ)
「えっとですね、ちょっと聞きたいことがありまして」
俺は気を取り直してお姉さんにこの世界について色々聞いたがたいした収穫は無かった。
「お役に立てなくて申し訳ありません。冒険者の方々なら色んな国を渡っている方々もいますので日本? という国についても何か知っている方もいらっしゃると思いますよ」
「例えばあの方など」
お姉さんが指した方向にはあのスキンヘッドの男がいた。
「え⁉ いやいやあの人は冒険者というより山賊かそれに準ずるかたでしょ?」
「とんでもない! スー・キンヘッドさんは泣く子も黙り込むほどこの村で慕われているベテラン冒険者ですよ」
泣く子も黙るってそれこそ悪人の代名詞なんじゃ……。
俺は受付の人の話を半信半疑でスキンヘッドさんもといスー・キンヘッドさんに二度目の会話を試みる。
「おお、坊主無事に検問通り抜けれたんだな、俺のアドバイスが役立ったか?」
スー・キンヘッドさんが俺に気づき先に話しかけてくれた。
「あ、アドバイスですか?」
あのときラプエルを起動していなかったから何っているか知りようも無かった。
「おん? 看守の質問は形式的だから俺の受け答えを聞いていれば大丈夫だって言っただろ、それにできるだけ大きな声で応えていたつもりなんだが」
(あれは怒鳴っているわけでは無かったんだ)
「いやー、ありがとうございます。ははは、それでは」
「おい、あんちゃん俺に聞きたいことがあったんじゃ無いのか?」
しまった、つい本能的に逃げ出してしまうところだった。
「……なるほど、それは大変だったな。とこでお金はどうするつもりだ?」
情報収集するにもまずは生きるために金が必要だ。
「あてはないです」
俺は昨日まで会社で仕事中だった。当然金など持っているはずも無く。もし仮に持っていたとしてもこの異世界で使えるとは思えない
「だよな、……なあ賭け事は得意な口か?」
「賭け事ですか?」
「そうだあんたの国の物を軍資金にあそこでやっているゲームに参加するんだ」
俺は一つのテーブルで盛り上がっている団体に目を向ける。そこにはこの世界のカードゲームだろうかトランプみたいなもので白熱していた。
「俺は点で賭け事には向いてなくて……いや、もしかしたら……」
「お、なんだ坊主おまえも参加するのか?」
金髪の目つきの悪い男性が声をかけてきた。
「あ、ああ参加せてもらう」
俺は空いていた椅子に座った。そしてポケットからライターを取り出し机の上に置く。
「俺はこのどこでも火が付く魔道具をかける。金貨百枚はくだらない代物だ。レートは金貨一枚どうだ」
男たちは突然のことに戸惑い顔を見合わせる。
「なるほど? 運が良ければ一金貨で魔道具が手にはいるって訳だな」
金髪の男が先に理解して簡潔にまとめてくれた。
俺はコクリと頷く。
「試合はさっき君たちがやっていたゲーム、早い者勝ちだ」
俺が説明を終えると先ほどより大きな盛り上がりになる。
「よし、俺から挑戦させてもらうぜ」
歴戦のギャンブラーの風格を漂わせている男性が俺の向かいに座り込む。
「「勝負!」」
俺たちは山札からカードを引いていく。
今回するゲームはポーカーに近い。大雑把に説明するなら強い同じカードを多くそろえられた方が勝ちというルールだ。
カードの交換は二回、カードを交換するたびに金貨一枚を出すことになる。
運ゲーだ。だがもちろんこっちは命がかかっているんだ。何の秘策も無くゲームをしているわけではない。
「俺の勝ちだ」
俺は順調に勝利していった。
金貨十二枚。もしこの金貨を換金できれば六十万はするはずだ。思わず口がにやける。
「すげえな坊主。なんて幸運なんだ⁉」
「いい手でもしっかりと降りてやがる!」
「ああ、何せ大切な物をかけているんだ。運が味方してくれなきゃこまる」
そんなことを相手に言っているが俺がこんなに運が良いわけがない、もちろんズルをしている。
(相手の点数3、勝てます)
ラプエルにはスーパースローカメラがついておりカードの位置を正確に捕捉するが可能なのだ。
こうして相手のカードが何を引いたのかこちらからは丸わかり。
この勝負もらった!