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Rapuel~AIで異世界攻略~  作者: 不是夜
第二章
6/7

スタート

「にしても、これからどうするかな……」


 ラプエルの充電が十分じゃない以上、俺は決断を(せま)られている。

 まずもって考えなければならないのが、この場から離れるか否か、だろう。


 昨晩は寝込みを襲われることなくどうにか今日を迎えられたが、それがシュラフの迷彩効果のおかげだとしたら、ここを安全な場所だと見做(みな)して留まっているのも得策じゃない。


 何の行動も起こさない前提なら、再度寝袋に包まってラプエルの充電が回復するまで待つのが最善だろうが、それはそれで腹だって減るし、何より生産性がない。

 こんなところでも社畜根性(しゃちくこんじょう)()みついているなと我ながら気が滅入ってくるが、もう我が身に深く根を下ろした性分なのだからしょうがない。


 一日が日本と同じ長さとも限らないし、行動を起こすならなるべく早い方がいいだろう。

 考えがまとまったところで、俺は焚火(たきび)の跡を適当に片付けると、ラプエルを背負って歩き出した。



 それから体感で十数分後、歩き続けて息が切れてきた頃。


「……まさか、道路?」


 鬱蒼(うっそう)と生い茂る木々の隙間から、開けた道らしきものが見える。

 鼻の頭に垂れてきた汗を手の甲で拭い、息切れしていたことも忘れて走り出すが、足がついて来ず、結局歩いて向かうことにした。いや、木の根っことかで足場も悪いし。


「……やっぱり」


 足元に注意しながら、なるべく最短距離を辿(たど)って樹木の間を通り抜けると、明らかに人によって舗装されている道に出た。しゃがみ込んでよくよく地面を観察すると、靴跡や、蹄鉄(ていてつ)と車輪の跡らしき形跡まで見受けられた。ってことは、馬車が通ってるのか?


 何にせよ、これはかなり幸先がいい。最近使われた跡のある道ということは、近くに町なんかがある可能性が高いだろう。人がいれば、この世界のことだって分かるはずだ。

俺は周囲に人目がないか一応確認してから、胸の前で小さくガッツポーズする。


「ここはセオリー通り右か……? いやでも、靴の向きは結構こっちに向いてるな……」


 そこまで悩むこともなく、フィーリングと人に会いたい一心で左を選択。

 最悪来た道を引き返すこともできるし、元々森を出られる保証がないまま彷徨(さま)おうとしていたわけで、それと比べれば道を間違えるなんて些末(さまつ)なことだ。

 ラプエルの充電を再確認。〈7%〉……ダメだ、まだ使い物にならない。

 とはいえ俄然やる気が出てきた俺は、これまでの獣道染みた道なき道とは違って歩きやすい舗装道を、早歩き気味に進み始めた。




 ──と。意気揚々とペース配分を考えずに歩き出して、再度息切れしてきた頃。


 道の先で、中世ヨーロッパの町を思わせるレンガ造りの壁が出迎えてくれた。中世ヨーロッパ風といってもそれは俺の想像で、どちらかといえば、日本で流行っていた異世界モノのライトノベルや漫画に登場する関所と表現した方が適していたかもしれないが。


 しかも、遠くに見えるあれって──。


「明らかに人と馬車の列……だよな?」


 誰にともなくそう呟く。

俺の背丈の三倍近くありそうな大きな門の前に上背のある人影が二つあり、そこに遠目からでも分かる長蛇の列ができている。ざっと見ただけでも五十人は並んでいるだろうか。


(検問でもやってるのか?)


 そんなことを考えながら歩いて行くと、思っていたより早く列の後ろまで辿り着いた。

 と、列が遠目に見ていた時よりも減っていることに気付く。


 どうやら、さっきの俺の予想は的中していたようだ。丁度一組の馬車と一行が、検問を済ませて町の中へと入っていく様子が最後尾から伺えた。

何にせよ、ようやく人に会えた。ラプエルの充電が尽きてからの心細さが一気に薄まる。言葉が通じるかは気になるが、情報収集のためにもまずは色んな人に話を……。

聞きたいところなんだが……。 


(それにしても……)


 列に近付くにつれ、薄々と気付き始めていた事態に俺は脳内で頭を抱える。

 いや、決してコミュ障とかではない。

 確かに俺は友達は少ない方だったが、営業で無理難題を吹っ掛けるためのコミュニケーション術は(SEなのに)一通り教わっているし、コミュ力は人並みにあると思っている。

 これまで人に話しかけるのに必要以上に緊張したり、躊躇(ためら)ったりはしなかった。

 それでも、だ。


多分、今の状況になったら誰もが話しかけるのを躊躇するだろってくらい。


(一個前の人、話しかけ辛ぇー……!)


 スキンヘッドの後頭部にクマの爪痕みたいな傷があって、両肩にはメロンかってくらいの筋肉が乗っかってる。世紀末かよって言いたくなる風貌の癖に帯剣してるし。鬼に金棒、スキンヘッドにロングソード。どっからどう見ても堅気のお方じゃない。

 だからといって、この人をスルーしてもう一個前の人に話しかけたとして、それによって軋轢(あつれき)が生まれるといった可能性も捨てきれない。

ここは、腹を括ってスキンヘッドに話しかけるしかないか──。


「あのー、すみません……」


 この世界に来て初めてのコミュニケーション、絶対に落とすわけにはいかない。

 第一声は腰を低く、さながら営業を取るときのように。

スキンヘッド改めスキンヘッドさんを顧客第一号だと仮定する。

まずは下手に出て相手の様子を伺い──、


「あ……?」

「すみません、人違いでした。ほんとごめんさない、すぐ消えるんで命だけは」


 営業でも感じたことがないほどの凄まじい圧で(にら)み付けられた。

 この人怖い。絶対、話しかける人を間違えた。ほらもうよく見たら話しかけられたくないオーラしか出てないし、研ぎ澄ましてんのかってくらい目付き鋭いし。


 平謝りをしながら平行移動で列から一時撤退。スキンヘッドさんはすでにこちらに興味をなくしてくださったようで、チッと舌打ちをしながらも前へ向き直ってくれた。ぶつぶつと文句を言っているようだったが、言語が違うようでよく聞き取れなかった。


 言葉が通じるだろうという希望的観測が見事に打ち砕かれ、俺はがくりと肩を落とす。列の二つ前の方々が俺の方を見て何やら話しているようだったが、内容が分からないため結構怖い。スキンヘッドさんもきっと同じように思ったことだろう。

 ……となれば、俺が取れる方法は一つしかない。


 ついに前の人──スキンヘッドさんの検問が終わり(意外なことに何事もなく通った)、ついに俺の順番が来た。門の横に立っていた、俺よりも二十センチは背の高い兵士らしき人が近くまでやって来て、俺の前にずいっと手を突き出してくる。


「〇▲◇?」


 やはり言葉はよく分からない。

日本語もきっと通じないだろう。なら、やはりできることは一つだ……!


「ハロー、えーと……マイネームイズミキタツキ。ナイストゥミーチュー……ソーリー」


 ……万策尽きた俺は、そっとラプエルを地面に下ろし起動させた。


「──システム起動中。……状況をスキャンしています」


 ふっ。まさかこんなところで奥の手を使うことになるとはな……。


「状況確認完了──自動音声翻訳システムを起動します」


 ラプエルは二百ヵ国語以上の言語が翻訳可能であり、その中には通常使われないであろうオリジナルな言語まで含まれている。例え翻訳対象が異世界の言語であっても、二百ヵ国語以上の言語から学習したAIは、ほぼほぼ最適な翻訳を導き出す。


「もう一度言う。身分を証明するものは持っているか?」

「な、聞こえるだろ?」

「誰に何を言ってるんだお前は。もういい、おいお前、こいつをしょっ引け」

「ノーノ―ノー! アイムノットハブパスポート、イェー!」

「さっき普通に喋ってたろうが」

「それは……世界共通言語の方が伝わりやすいかなと」

「……頭でも強く打ったのか?」


 普通に心配された。スキンヘッドさんとの落差でちょっと泣きそうになる。

 あとこの世界だと世界共通語といっても通じないんだったな。ラプエルもそこまで忠実に翻訳してくれなくともいいものを、つくづく融通が利かないやつだ。


「いえ、大丈夫です。それで、えーと……」

「身分証明書がないなら、身体検査の後、証明書を発行することになる」


 こっちだ、ともう一人の兵士が門を潜った先で手招きする。


「分かりました。それでお願いします」


 門を潜ってすぐに左へ曲がり、壁に設けられた木製のドアの中へ。関所の兵士(看守?)に案内された部屋は、机と椅子が二つあるだけの質素な部屋だった。


 ジャケットを脱いで身体検査を行った後、名前や年齢、職業──まあ今は無職なのだが──など、簡単な質問に答えると、無事に滞在許可証を貰うことができた。これがあればこの町にいる間、問題を起こさない限りは身分証明書として使うことができるらしい。


 その後、ラプエルについて説明を求められたが、これは元々考えてあった「故郷で使われている調理器具です」という言い訳が上手いこと通り、出身地を聞かれるだけで済んだ。日本は当然の如く知らないと言われたが、極東の国と言えば、何となく分かってくれた。


 できればこちらからも、もっと話を聞きたかったが、俺が幾つか質問をすると、

「田舎から来たところ悪いが、こっちはこっちで忙しいんでな。質問があるのなら、中央道を真っ直ぐ行った先にギルドがあるから、そこへ行って聞いてくれ」

 と、あしらわれてしまった。


 俺の後ろに人はいなかったと思うけど、なんてことを言えるはずもなく、俺は「ありがとうございました」とだけ告げて、ラプエルをスリーブ状態にしてからその場を後にする。


 残り充電は変わらず7%と表示されていたが、節約するに越したことはない。スリーブ状態でも、自動音声翻訳システムが必要な状況になれば勝手に起動してくれるし。

 中央道がどの道かはすぐに分かった。町を入り口から見て縦に分断するようにして、石レンガで舗装された太い道が続いていたからだ。


 こちらもある程度想像通りといえばそうだが、中世ヨーロッパ風──或いは異世界もののテンプレっぽい街並みだった。中央道の左右には雑貨や食べ物など、様々な種類の露店が立ち並んでおり、パンのような匂いが漂ってきてお腹が鳴る。

 そういえば、森で動くキノコを食べてからこの方、何も食べていなかった。


(なんか食べたいけど、俺、金持ってないしなあ……)


 歩きながら思考を巡らせる。ラプエルの付属品を売る? いや、できればそれは避けたい。オーバーテクノロジーをこの世界に広めることに抵抗があるという建前染みた理由もあれば、単純にできることの幅が狭くなってしまうという懸念点もある。

目先の金を稼ぐのに手っ取り早い方法が、何かないか……。


「きゃっ!」


 軽い衝撃と共に共にそんな声が聞こえてきて、俺は我に返る。

 しまった、物珍しさに気を取られていて前をよく見ていなかった。


「すみません……! だ、大丈夫ですか?」


 反射的に頭を下げながら足元を見下ろすと、そこには一人の少女が倒れていた。


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