表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Rapuel~AIで異世界攻略~  作者: 不是夜
一章
2/7

アップデート

 目下(もっか)、俺はエンターナの森で探索をしながら、近くの街に向かっていた。

 ラプエルは抱えるのもあれなので、ラプエル自身に相談してみると、近場にある(つた)を利用して背負えばエネルギーの節約に繋がると、有難(ありがた)い回答をくれた。


 ……今となっては仕方がないが、こうなるなら移動用の車輪でもつけておくべきだった。

 予算不足に想定外の出来事が重なってのことなので、仕様がないが。


「にしても腹、減った……」


 最近、ろくに食べていなかったせいで栄養が足りていないのだろう。体力的には先の睡眠で回復しているものの、早く食料になるものを見つけないと餓死してしまいそうだ。

 それに、飲み水も早めに見つけなければ。今は喉が(かわ)いていないとは言え、人は二日水分を全く取らないと危険だと、以前ネットで見たことがある。


 それからしばらく、水の音が聞こえてこないか耳を()ませながら食べられる山菜(さんさい)や果実を探していると、倒木の表面に何やら赤いものを見つけた。

 倒木(とうぼく)の側まで()け寄り、休憩も兼ねて一旦腰を下ろす。それから近くにあった木の枝を手に取り、俺は微妙(びみょう)な表情でその赤い〝かさ〟を枝の先でつついた。


「いや……腹は減ってるけど、さすがにこれは……」


 それは、まさに毒と言わんばかりの明るい色をしたキノコ。形はシイタケに似ているが、色が全く違う。なんか、カエンタケみたいな。触るのも(はばか)られる見た目をしていた。

一応、もう一本木の枝を手に取ってキノコを()み、ラプエルにスキャンしてみる。

ラプエルの機能の一つだ。検索によって安全かどうかがわかる。


「マガノダケ。エンターナ原産のキノコ。形はシイタケに似ており、(わず)かな光量で色彩(しきさい)が変化するため、肉眼では動いているように見える。食用」

「へえ、食用なのか……これが」


 これこそ、ラプエルの機能の一つだ。検索によって安全かどうかがわかる……のだが。

「……マジで言ってる?」


 スキャンしたのはダメもとだった。いやだって、今の説明だと異世界原産のキノコが検索エンジンに引っかかったってことだよな? いやいやいや、流石にそんなわけ……。


「食用」


 俺が苦々しい顔をしてキノコを元の位置に戻すと、ラプエルがもう一度教えてくれた。そういうことを聞き直したかったわけじゃないんだけど。


「……つーかこれ、食用なのか」


 色合(いろあ)いが毒々しいし、何よりラプエルの説明通りと言えばそうなのだが、動いている。そう見えるだけと言われればそんな気もするが、今すぐこれを口に放り込む勇気はなかった。


「……仕方ない、他に食べられそうな物でも探すか」

「食用です」


 背負い直したラプエルが、やけに俺にこのキノコを食わそうとしている。

 食わないって。……とりあえず、まだ。

 

 それから更に、体感二時間半後。俺はマガノダケのある倒木の元へ戻ってきていた。


「……二時間も歩き回って、見つかったのはこれだけかよ」

「現在の時刻は十四時です。実際の歩行時間は五十八分となります」

「…………」


 ラプエルに返事を返すことなく、手元の成果に視線を降ろす。右手の中に(にぎ)られているのは、水筒(すいとう)代わりにしている浄水器(じょうすいき)に入った水一リットル。ここから少し離れたところで川を見つけたのだ。ラプエルの周辺機器の一つ、瞬間浄水器が早速役に立った。


 水の確保ができたことは大きい。服を今着ているスーツの一張羅(いっちょうら)しか持っていないために、川に飛び込んで魚や(かに)を探すのは断念(だんねん)せざるを得なかったが、釣り竿(ざお)や罠を手に入れれば、簡単に食料を得ることも可能かも知れない。……そこまでは良かったのだが。


「他に食べられそうなものといえば……なぁ」


 この森、食料らしきものがキノコしかなかった。しかも二種類のみ。

 一つはこのマガノダケ(なんか戻ってきたら緑色になってた)。

 もう一つは松茸(まつたけ)っぽい形に、新鮮なエノキのような純白。ヒガンダケ(ラプエル曰く、昇天するほどおいしいキノコ。人生に一度しか味わえない美味しさ)。江戸時代のフグかよ。


 既に腹が減り切って胃が痛くなってきた俺に、選択肢は残されていなかった。

 俺は渋々、スーツの内ポケットからライターを取り出し、

「……焼いてしまえば食えないこともないか」

「マガノダケは熱に弱く、加熱すると栄養素が壊れるのでオススメできません」


 ……なん、だと?


「いや、キノコは生だと食中毒を起こすって聞いたことが……」

「マガノダケはマッシュルーム同様、生のまま食べることが可能です」

「マジかよ」


 ごくりと息を呑む。森の空気が美味しい。……もう今日はいいんじゃないかな。別に今すぐ食べなくても死ぬわけじゃないし、浄化済みの水だってある。


「食用」

「さっきからやけに食べさせようとしてくるよね⁉」

 勢いのまま、もうどうにでもなれと、青色に変色しつつあるキノコにかぶりつく。


 ……味は意外とクリーミーで美味しかった。

 食感は思い出したくもない。

 ただ、これだけは言わせてほしい。あれは絶対に、口の中で動いていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ