第5話 エルフの娘 ※キャラ挿絵付き
竜人の娘、テネシアが来てから一か月ほど経過したが、ここの生活が気に入ったのか、居ついてしまった。日中は森で狩りをすることが多いが、それ以外にもあちこち探索している。
自分は相変わらず木の実、野草類の採取が多いが、最近はテネシアと一緒にシカを獲る機会も増えてきた。テネシアは、遠方は槍を使い、近接では剣を使う。一度、クマが出たことがあるが、その時は右手に剣、左手に槍と器用に両手で使いこなしていた。
今日はテネシアと遠出することにした。僕が【転移】を使えるので、テネシアが遠出を希望したのだ。彼女は探求心が旺盛のようで、僕も日々いい刺激を受けている。
【転移】の際、手をつなぐのが少し恥ずかしいが、向こうは全然気にしてない様子。う~ん漢だな。しかし、ずいぶん遠くまで来た。今回は相当、山の奥で、まったく未知のエリアだ。一人なら不安だが、武器を扱えるテネシアがいるので心強い。二人で大木の枝の上で小休止してると猛獣のような雄叫びが聞こえてきた。
「何だ。あの緑色の集団は!?」
テネシアが遠くを指さす。あれ? なぜか分かるぞ。
「あれはゴブリンだ! あの統率のとれた動きだと上位種もいそうだな……」
初期備品の本に記載されていたが、なぜか頭に情報が浮かぶ。
神様からのギフトか? この世界の言葉を使えるのと一緒か。
「ゴブリン! 強いのか?」
「少数なら雑魚だ。だが統率が取れた集団で、武器を持っていると厄介だ。
しかも上位種ならCランクぐらいはいくだろうな」
テネシアの問いにツラツラ答える自分に内心驚いているが、
それを当然の様に思う自分にも驚いている。何とも不思議な感覚だ。
この段階なら、遠くでゴブリンが騒いでいるだけなので、
放置でもよかったが、目を凝らすと一人の女性が戦っているのが見えた。
「うわ、無茶だ!」
「主、どうする?」
「本当はあまり関わりたくないが、女性を見殺しにはできないし、
【転移】があるので連れて帰ることができる」
「よし、やるか!」
テネシアと手を握る。
「【転移】!」
テネシアと共に一瞬で女性のすぐ近くまで転移する。
ゴブリンに囲まれた状況だが、不思議と焦りはない。
「助けます!」
助太刀を申し出ると女性がコクリと頷いた。
近くで見ると動きが速い。この女性も強そうだな。
【転移】で現れるやいなや、テネシアの剣がうなりをあげる。そして、目の前のゴブリンがバタバタ倒れていく。もの凄い速さだ。狩りの時とは次元がまったく違う。
先に戦っていた女性をよく見ると耳が長く、どうやらエルフのようだ。彼女は両手に短剣を持ち、スパスパとゴブリンの首筋を切っていく。こちらも相当な腕前だ。自分は二人の間に挟まれて、自分の近くに来る分だけは、どうにか片付けていった。
十五分ほど続いただろうか。アドレナリンが上がりすぎてて、時間の感覚がはっきりしない。あっという間のような気もするし、止まった長い時間のような気もする。まわりを見渡せばほとんどのゴブリンが地に臥していた。
「全部やったか?」
「いや、まだです。ゴブリンジェネラルとゴブリンキングがいます」
エルフの女性が冷静に答えた。
ゴブリンジェネラルはCランク、
ゴブリンキングはBランクにも匹敵するらしい。
頭に情報がすぐ浮かぶ。
目の前に二体のゴブリンが近づく。
このゴブリンはこれまでのと違って大きいし強そうだ。
「やるか?!」
テネシアの問いに、女性が冷静に答える。
「そうですね。ここまできたら最後までやりましょう」
二人とも勇敢だな。
「大きい相手だし、武器だけだと厳しいかも……」
自分がそんな風に言うと、テネシアは「大丈夫だよ、主」と陽気に答えた。
この自信は何なのだろう。しかし、その理由はすぐ分かることになる。
「ファイヤーアロ――!」
テネシアの手から炎が燃え盛り、それが炎の矢となって、
ゴブリンジェネラルに襲い掛かる。
「ウギャア――――!」
あっと言う間にゴブリンジェネラルが炎に包まれ黒炭となった。
何だ、この力は? 魔法か?
「残るはゴブリンキングか! ファイヤーアロー!」
テネシアの炎の矢がゴブリンキングに命中するが、必死に耐えている。
何か前に障壁のような魔法結界を張っているな。
「それなら、これはどう。エアカッタ――!」
エルフの女性が風魔法を起こし、切れ味のするどい風の刃が飛んでいく。それがまるでブーメランのようにゴブリンキングの後方にまわり、魔法障壁のない背中に突き刺さる。うわっエグい攻撃だ。
「ギエエエ――――!」
その瞬間、前方の魔法障壁も消え、
テネシアから発せられた炎に包まれてゴブリンキングは倒れた。
ふぅ、どうにか全部倒したな。(ほとんど、二人が倒したが)
「ご助力頂きありがとうございます」
エルフの女性が丁寧に礼を言う。それを聞いて僕とテネシアは目を合わせ、
ニッと笑うが、こんな場所で悠長に過ごしたくない。
「無事で良かった。それでは安全な場所に帰りましょう」
「この近くにお住まいですか?」
「ここから遠いですが、すぐ帰れます」
「???」
「とりあえず、手をつないで下さい」
両手で女性二人と手を繋ぐ。
両手に花状態だが、今はそんな事を言ってる場合ではない。
「【転移】!」
僕ら三人がその場から消える。
――
――――
僕ら三人が家の前に現れる。
「えっ!? ここはどこ!?」
エルフの女性が声を上げる。
「ここは僕の家です。転移魔法で戻ってきました」
「えっ……転移魔法!?」
テネシアの時もそうだったが、驚き方が半端ない。
「もう大丈夫ですよ。家で休みましょう」
少し動揺しているエルフの女性を家に入れ、
お茶にすることにした。
「僕はここに住んでる人間のアレスと言います。
こちらは竜人のテネシアです」
テネシアからアルジ呼びされてるうちに、アレスである実感が生まれ、
最近、本名を打ち明けた。(打ち明けたって言うのも何か変だが)
「私はエルフのイレーネと申します。先ほどは本当に助かりました」
「どうして、あんなところにいたんですか?」
思わず聞いてしまった。
「一人旅をしているのですが、洞窟で休もうとしたら、
ゴブリンと遭遇してしまいました」
ゴブリンの住処に飛び込んだのか。そりゃ運が悪い。
「しかし、短剣をあんな自由自在に使いこなせて、凄いな。
風魔法もあるし」
テネシアは戦闘に興味があるようだ。
「テネシアさんこそ、長剣を豪快に振り回して凄かったです。
火魔法もお見事でした」
二人とも魔法を使えるんだな。本当に凄い。
「でもアレス様の転移魔法は今まで見たことがありません!」
この二人の魔法も凄かったが、この二人から驚かれる
転移魔法って、どうやら相当珍しいみたいだな。
それで、様、呼びなのかな。
話によるとエルフの女性、イレーネも一人旅の途中で、テネシアと似た感じらしい。行き先はあるような無いような? 武器は短剣と弓で、相当な手練れだ。戦闘で疲れただろうから、家でゆっくりしてもらおう。
ベッドが足りないな。至急作るとするか。
そう言えば、テネシアは僕が本名の「アレス」を明かした後も、主呼びを続けている。どうやら慣れてしまったようだな。まあ、いいか。アレスもアルジも似たようなものだ。
二人とも僕と種族は違うが、外見はほとんど人間と変わらない。変わっているのは、竜人であるテネシアは角、エルフであるイレーネは耳ぐらいだな。見た目は若い。(二十代ぐらい?)
本棚の本で調べたら、この種族は寿命が長いようなので、
外見で年齢は判断できないみたい。
でも、不思議だな。この本を読むのは初めてなのに、入ってくる情報は
初めての感じがしない。まるで、昔の事を思い出したみたいだ。
二人について、いろいろ聞きたい気持ちはあるが、聞けば僕のことも話さなくてはいけなくなるので、細かい事は聞かないでおこう。不思議とこの二人は安心できそうな感じがするんだよな。
※イラストレーターのだぶ竜様によるデザイン画※
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