表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/1690

第4話 竜人の娘 ※キャラ挿絵付き

 森の生活もだいぶ慣れてきた。初期の水と食料は使い切ったが、水は近くの川から汲み置きしてるし、食料も木の実、キノコ、野草を中心に備蓄できた。残念ながら狩りの腕は素人で、ウサギやシカ等なかなか捕まえることができない。剣の練習をしてるが、野生の動物は勘が鋭く、あっという間に逃げてしまうのだ。



「たまには肉が食べたいよな……」



 毎日、植物ものばかりだとさすがに飽きてしまう。



「今度は魔法と剣を組み合わせるかな……それより罠かな……」



 そんなことを考えていたら、家の外から声が聞こえてきた。



「お~い、誰かいるか~?」



 声から察するに、どうやら若い女性らしい。

 扉の前にいる様だ。それにしても大きい声だな。


 声の印象から悪い感じはしない。

 そのまま開けても、たぶん大丈夫だろう。

 

 でも、それは日本の話。ここは異世界だ。

 何があるか分からない。



「ここは人里離れているし、用心した方がいいな……」



 こういう場合を想定して、事前にスキルを練習していた。



「外の木の枝に【転移】!」



 自宅から少し離れた木の枝に転移した。ここからは訪問者(後ろ姿)がよく見えるし、こちらを葉っぱで身を隠せる。ん? 確かに若い女性のようだが、頭の両側に角が生えてるぞ……


 頭に二本の角、その時点で人間じゃない。一体、何者だ?

 

 ジッと角を見た瞬間、女性の姿が消えた。



「えっ!!」と思う間もなく



 自分の後ろ側から「動くな!」という声がする。

 横目で見たら先ほどの女性だった。


 こちらに攻撃する意思はない。とにかく冷静に確認しよう。


「先程まで、僕の家の前にいたのに、どうして、今は僕の後ろにいるんだ?」


「んん? 後ろから気配があったからな。それで俊足を飛ばしたまでだ」


「俊足? それって魔法スキルか何かか?」


 まるで【転移】の様だった。


「いや、違うぞ。素早く動いただけだ」


 素早くって……人間じゃ無理な動きだ。


「ところで、こちらも聞きたい。なぜこんな木の上にいる? 

 見たところ、人間の様だが、簡単に登れないだろ? てか、どこから来た?」


【転移】だがから、途中経路なんて、眼中になかったが、

 改めて下を見ると、確かにそれなりの高さだ。


「僕は先程、君が訪問した家の中にいたんだ」


 家の方を指さししながら答えると、

 女性が目をパチクリし、怪訝な表情に変わる。


「ちょっと待て、家の中にいて、今、どうして、ここにいるんだ?」


 答えは【転移】だが、口で言うより、実演した方が早いな。


――――

――――――


「これで分かったかな?」


「いや、びっくりしたぞ!」


 訪問した女性と家の中で談笑する。あの後、再度、自宅に【転移】してから、

 扉を開けたら、びっくりしていた。まあ驚くのも無理はない。


 僕にまったく攻撃の意思がないこと。ここに一人で住んでることを説明したら、警戒を解いてくれた。僕の方も最初、身構えてしまったが、相手も攻撃の意思がないことが分かり、こうして、家に招き入れた。


 本当の悪党なら、扉を叩かず、家に侵入しようとするだろうし、木の上で僕の後ろを取った時に、刃物を突き立てるだろう。彼女はそれをしなかった。だから、普通に会話が成立すると思ったんだ。


 木の上に転移したのだって、相手を確認する為で、その後、家の中に戻り、普通に戸を開けるつもりだった。この家の扉に覗き穴は無かったもんでね。


「ここには一人で住んでるのかい?」


「そうです。まあ、そのうち活動範囲を広げたいと思いますが、もうしばらくは」


「そうか」


「ところで、どんなご用件で?」


「実は一人で着の身着のまま旅をしてたら、持ち合わせが無くなってしまって、何も食べてないのだ。何か食べるものを頂けないだろうか? それと休ませてもらいたい」


「大したおもてなしはできないですが、いいですよ」


 そう言って、木の実をテーブルに置いたが、凄い勢いで食べだした。相当お腹が減っていたのだろう。その後、落ち着いてから、詳しく話を聞いたところ、この女性はテネシアという名の竜人で、本当に一人旅をしていたようだ。あいにくこの辺りの地理には慣れておらず、どんどん森の奥に入ってしまったらしい。


「しかし、よくこんな森の家まで辿り着けましたね」


「なんとなく、家があるような気がしたんだ」


 へぇ~流石、竜人、野生の勘かな?

 先ほどの動きもまったく見えなかったし。


「ところで、家主よ、食べさせてもらって言うのもなんだが、

 この家に肉は無いのかな?」


「自分も肉を食べたいけど、狩りの腕が素人で狩れないんですよ」


「それなら、私が狩ってやろう。少し食べて元気が出てきた」


「本当ですか! それは助かります」


 その日、竜人の娘をベッドに寝かせ、自分はソファで寝た。だいぶ疲れていたようで次の日は昼近くに起きたが、起きてそうそう、狩りに出かけた。一応、ウサギやシカが出そうな場所は教えておいたが、どうだろうか?


 テネシアは特段、行き先を決めてないらしい。

 少し訳アリな感じがしないでもないが、そんな事を言ったら、僕も訳ありだ。

 このあたりはお互い触れない方がいいな。


 一人じゃ寂しいし、できればしばらく居てほしい。


――――

――――――


「家主~、シカを取ったぞ~」


 玄関からテネシアの声が聞こえる。扉を開けるとテネシアがいたが、

 肝心のシカがいない。どうやらシカは近くの川で血抜きしてるらしい。


「それでは、後で一緒に川に行きましょうか」


「そうだな。重いから二人だと助かる」


 どうやらテネシアは剣と槍が得意な様だ。

 今夜は久々のお肉か、楽しみだ。


――――

――――――


 川の前でシカをさばいているが、テネシアは手慣れたものだ。

 ここなら家を汚さないで済む。そろそろ作業が終わるな。


「それではテネシア、シカを持って帰ろう」


「そうだな。家主はこっち側を持ってくれ」


「大丈夫、重い荷物を持って歩かなくて済むから」


「んん?」


「片手にシカを持って、片手で僕の手をつないでくれるかい」


「うん? こうか」



「【転移】!」



「ええええ、なんだ、こりゃ――――!!」



 一瞬で僕とテネシアとシカが自宅前に到着する。


「おい、脅かすなよ」


「はは、ごめん、ごめん」


 いきなり【転移】でテネシアに文句を言われる。しかし、ぶっつけ本番だったが、今回、手をつなげば他人も【転移】で運べることが分かった。物を運べるのは知っていたが、人(正確には竜人だけど)は初めてだ。


 その日の晩はおいしいシカ肉を焼いて、たらふく食べた。いや~美味しかった。テネシアの話では、狩りは武器の腕だけではダメで、相手の気配を読み、逆に自分の気配を消すことが重要らしい。それとスピード。こればかりは一朝一夕でできることではないが、剣と槍を持って、これができるのは本当に凄い。


 就寝前、テネシアと話す。


「そう言えば、テネシアは僕の事をずっと、家主と言っているけど、

 ちょっと変な感じがするな」


 テネシアの滞在が一日、二日だったら、それでも良かったが、

 今の雰囲気だと、当面居てもらえそうだしな。


「そうか? 家の主なら、家主だろ?」


 僕の名前であるアレスを言えば、いいんだろうが、自分でつくった名前だし、正直、まだ自分の名前って感じがしない。それにこの世界で初めて会った存在に対し、名前を言っていいのか迷う部分もある。まだ自分はこの世界の人間になりきれてないんだろう。


 家主の代わり、アレスの代わり……

 あっ! あの呼び名はどうだろう。


「それじゃさ、君さえ良ければなんだけど、家主から家を取って、

 あるじはどうだろう?」


 僕はずっとこの家にいるつもりじゃないしね。


あるじか、いいよ」


「そうかい?」


「うちの故郷で、家の主は『主』『主人』等と言われていたからな。

 違和感は無いぞ」


 テネシアの故郷は古風なんだな。だが渡りに船だ。それに乗ろう。本名(というか、この世界で僕が適当につけた名前だけど)はもう少ししたら教えよう。


 僕が提案した主呼びは家主の代替に過ぎず、主従関係を示す主人の意味ではない。言わばコードネーム「アルジ」だ。せっかく異世界に来たんだし、こういう呼び名があってもいいよね。本名の「アレス」にも似ている。とにかくこの世界に慣れていこう。



※イラストレーターのだぶ竜様によるデザイン画※


挿絵(By みてみん)


 最後までお読み頂きまして、ありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、評価やブックマークをして頂けると大変有難いです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
持ち合わせがなくて何も食べてないと言ってますが、自分で狩りが出来るなら持ち合わせが無くても問題ないのじゃないかな?と思いましたね。
[一言] 女性から外の木の枝に【転移】して距離を取ったのに、いつの間にか後ろにいたのが解せぬ 女性も転移を使えるのか、単純に脚力によるものなのか、説明がほしい また、後ろを取られたのに、次のシーンでは…
[気になる点] 自然と主と呼ぶ娘と、呼ばれて疑問も持たない主人公って・・・。 最初は家の主という意味でもいいんだろうけど、相手の名前は聞いてるのに、主人公は名乗ってないんでしょうか? それとも、一宿一…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ