第395話 叙爵式~三公爵の女子会~
「テネシア・サングローネ・ギルフォード、公爵位を授与する。合わせて、勇者のような妃として、『勇妃』の称号も授与する」
「はは!謹んでお受け致します」
「イレーネ・べネサス・ギルフォード、公爵位を授与する。合わせて、賢者のような妃として、『賢妃』の称号も授与する」
「はい!謹んでお受け致します」
「ミア・セレイド・ギルフォード、公爵位を授与する。合わせて、聖者のような妃として、『聖妃』の称号も授与する」
「はい、謹んでお受け致します」
ロナンダル王国、王城、謁見の間で、国中の貴族を呼んで、三人の公爵位の叙爵式を行ったが、一緒に『勇妃』『賢妃』『聖妃』の称号も授与した。彼女達の立場は僕の側妃という形式になっているが、もっと上位にしたい気持ちがあったのだ。そして、ただ『側』にいるだけでなく、それぞれ勇者のように、賢者のように、聖者のように、至上の品格を持つ存在として、まわりにも認めてもらいたかったのだ。
側妃を上書きし、『勇妃』『賢妃』『聖妃』の呼称が普通になることを期待しよう。公爵位の方はとっくの昔から、その資格はあったから、称号授与のタイミングに合わせたのだ。
さて、まだ続くぞ。
「バハナ・カート将軍、男爵位を授与する」
「はは!謹んでお受け致します」
彼は本当によくやってくれている。敵軍を自軍にスムーズに引き込めたのは彼の人徳の要素が大きい。お陰で僕も精神系スキルの使用をかなり抑えることができた。エルメス帝国対応の一番の功労者と言っていいだろう。戦って勝つより、戦わずして勝つ方が何倍も価値がある。
「シバ領鉱山責任者ネイス・ポントア、騎士爵位を授与する」
「はは!謹んでお受け致します」
彼はシバ領鉱山がまだ公になっていない頃から、鉱山労働者の管理監督を地味によくやってくれた。もっと早く爵位をあげたかったが、貴族たちから見れば、微妙な立場だったので控えていたに過ぎない。鉱山責任者を監獄の看守みたいに蔑む者もいたからね。その分、多めの俸給で埋め合わせし、ヨウス領に立派な山荘も用意した。彼には特別に【転移】アイテムも渡してるので、休日は山荘でリフレッシュできたことだろう。ストレスのかかる仕事には報酬と待遇で報いるのは当然だよね。
また彼には業務のため【念話】【鑑定】の他、【精神支配】アイテムも制限付きで渡している。「悪事をしない」「真面目に仕事をする」「鉱山責任者に従う」だけは鉱山労働者に設定することができるのだ。当然解除も可能にしている。それでも、月一回は僕が出所の最終チェックをしてるが、そろそろ彼に全部任せてもいいかもな。
すでにシバ領の鉱山と言えば、日陰の存在ではないし、王国の稼ぎ頭の一角でもある。これで彼も前より堂々と胸を張って業務を遂行できるだろう。
「ハークレット・ブラスト内務省娯楽広報部長、騎士爵位を授与する」
「はは!謹んでお受け致します」
現在、王国の広報活動は連邦全土に及んでいるが、それも彼が芸能人をまとめて、うまく補佐しているからだ。前の世界で言ったら、彼はマネージャーであり、プロデューサーであり、そしてスカウトであり、三面六臂の働きで本当によくやってると思う。本職の吟遊詩人の活動をする時間がほとんどなくなってしまったが、裏方でも本領を発揮するタイプだったので、引き続き頑張ってもらおう。
ちなみにバハナ将軍に男爵位を授与したのは純粋な実績以外に、政治的判断もある。現在、王軍隊(海軍)のほとんどが元エルメス帝国の軍人で占められているが、たとえ他国出身であっても貢献があれば、差別しないで評価するという王国の姿勢を見せたかったのだ。海軍トップの将軍が王国から認められれば、指揮下の軍人達も安心するだろう。そうなれば王国への忠誠心は強化される。またバハナ将軍にはギース領に使用人付きの邸宅を与えた。聞けばエルメス帝国にいた時でも、これだけの待遇は無かったとのことだ。
バハナ将軍のような才能と実績のある人間を評価しないなんて、本当に変だよな?ひょっとしてエルメス帝国って、あまり人を大切にしないのかな……まあ、これだけ沢山の兵士達が寝返るんだから、お察しだけどね。
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<王都の離宮(旧ミアの侯爵邸)>
テネシア、イレーネ、ミアの三人が応接間でお茶を飲んでいる。
テネシア「ついに公爵になったな……」
イレーネ「そうですね。前から話は出ていましたけど、本当になりましたね」
テネシア「しかし勇者のような妃、『勇妃』って、ふっ恥ずかしいよな~」
イレーネ「私なんか賢者のような妃、『賢妃』ですよお! 叙爵式で『えっ誰の事?』って思いましたよ」
ミア「でも、お二人ともその称号はお似合いです。確かにテネシアさんは勇ましい勇者のようですし、イレーネさんは知的な賢者のようです」
イレーネ「そう言うミアさんは聖者のような妃、『聖妃』をどう思ってるんですか?」
ミア「明らかに分不相応です。……でも聖女よりは聖妃の方がいいですね」
テネシア「確かに、勇、賢、聖の方に目が向きがちだけど、私らにとっては、それに続く『妃』の方が重要だからな」
イレーネ「つまり、アレス様は目立つ文字で皆さんの注目を集めて、同時に『妃』の印象を強くしたかったのかもしれませんね」
テネシア「ふっ、確かに主はそういう事、考えそうだもんな。そう言えば、側妃式の時と合わせると、今回で妃の称号を頂くのは二回目になるな」
ミア「ふふ、二回目の結婚式をしたようなものでしょうか」
イレーネ「他国の多妻婚の妃より、余程大切にされてる感じが伝わってきました」
テネシア「主の気持ちは十分に分かっているけど、こういう場で改めて表明されると、悪い感じはしないな」
三人はお茶を飲みながら、感慨に浸っていたが、隣室から赤ん坊の泣き声が聞こえてきた。
ミア「あらあら、ちょっと見てきます」
そう言うと、隣室で赤ん坊をあやし、抱っこしながら、応接間に入ってきた。
テネシア「へぇ、結構、大きくなったな」
ミア「ええ、もうすぐ一才になります」
イレーネ「確か、メルーシャちゃんでしたよね?」
ミア「ええ、だんだん動きまわるようになってきました」
テネシア「ここも王宮と同格の建物だから、使用人達に面倒見てもらってるのかい?」
ミア「仕事中はそうですけど、それ以外はなるべく私が見るようにしてます」
イレーネ「それだと大変ですよね」
ミア「でも、アレス様も頻繁に顔を出されますから、割と平気です」
テネシア「主は私らが子供を生んだ時も頻繁に来てくれたっけ」
イレーネ「しかし、可愛いですよね」
赤ん坊(メルーシャ)の顔を見ながら、イレーネの表情が和らぐ。
テネシア「考えたら、私らの下の子も、もうじき王立学園に入学だな」
ミア「テネシアさんのトアラちゃんとイレーネさんのテセルス君でしたね」
イレーネ「二人とも一緒に育ちましたからね。一緒に入学するのを楽しみにしてます」
テネシア「子供が成長するのは本当に早いよなぁ」
イレーネ「本当ですねぇ」
ミア「私もそう思います」
ここで、メイドが新しいお茶とお菓子を持ってきた。そして、三人のカップにお茶を注ぐ。
テネシア「ふぅ~このお茶、おいしいよな」
ミア「ふふ、ダルト王国産の銘茶なんですよ」
イレーネ「このお茶が入手できるようになったのも、アレス様のお陰ですね」
テネシア「それにこのお菓子、ビスケットだっけ?お茶に合うよな~」
ミア「こういうものを味わえるのも他国との友好関係があるからなんですね」
応接間でお茶をすする音がしばし続く……
イレーネ「……前から気になってたけど、聞いてもいい?」
イレーネがミアを見ながら問いかける。
ミア「ええ、なんでしょう?」
イレーネ「私とテネシアさんはアレス様の妃になれて、王宮に住んでますけど、ミアさんは離宮のままで大丈夫なの?ひょっとして私達に気を使って……」
ミア「ふふふ、いいえ、違います。私の希望でここに住んでます。この場所はアレス様が貴族になられて最初にお住まいになった場所ですし、いつもこうして、アレス様はじめ私達側近が内輪話をする貴重な場所でもありました。皆さんが憩いの場として集まるこの場所を大変気にいっているのです。それに私には娘のサラがいますので、帰ってくる場所を守りたいですし、ライナス様に嫁いだラーシャの実家でもありますからね」
テネシア「……この場所を守ってくれるミアには感謝しかないけど、ミアは主と離れて暮らすことに抵抗はないのかい?」
ミア「……私は若い頃からあまり恋愛や結婚を意識してきませんでした。それは今もそうです。こんな私が結婚、出産できたのですから、それだけでも望外の喜びなんです。確かにアレス様のことは敬愛していますが、ずっと近くにいたい。独り占めしたいという感覚は希薄ですね。むしろ今ぐらいの距離感の方がうまくいってると思います」
イレーネ「それって精神的結び付きみたいなものですか?」
ミア「……そうかもしれません。物理的に近くにいなくても、いつも同じ方向を向いてて、近くにいるような感じでしょうか」
テネシア「……なるほどな。主には四人の妃がいるけど、お互いの関係の形はそれぞれなんだな」
ミア「……それはアレス様が結婚された年齢とも関係してると思います」
テネシア「結婚した年齢?」
ミア「私はアレス様と同じ人間種族なので、よく分かるのですが、人間は二十代で結婚した時、三十代で結婚した時、四十代で結婚した時で微妙に違います」
イレーネ「どう違うのですか?」
ミア「メリッサ様と結婚された時は若い二十代、この世代の人間は未熟ですが、伸び盛りと可能性があります。メリッサ様はそんなアレス様の勢い、可能性、将来性に惹かれたんだと思いますし、アレス様も自分を認めてくれるメリッサ様に心を動かされたんでしょう」
テネシア「確かにあの頃のメリッサ様は主に一直線だったからなぁ……」
ミア「二十代の結婚は相手への憧れ、恋慕みたいなものでしょう」
イレーネ「それじゃ三十代の結婚は?」
ミア「アレス様は三十代でテネシアさん、イレーネさんと結婚されましたが、人間は三十代になると、まわりの状況が見えてきて、自分や相手を客観視できるようになってきます。二十代よりは大人になってますよね。この頃になると勢いや憧れだけでなく、より具体的な行動で相手を見るようになります」
テネシア「つまり?」
ミア「大人になったアレス様はまわりの状況がよく分かるようになり、二人のことが大切な存在だと分かるようになったのかもしれません」
テネシア「私らはもっと前から主を大切な存在だと思っていたんだけどな」
ミア「……正確に言えば、アレス様は心の中では二人の大切さにもっと早く気づいていたと思います。でもそれを奥にしまっていたのかもしれません」
イレーネ「?なんででしょう。口で言えばすむ話ですよね」
ミア「すでにメリッサ様と結婚してる負い目がありましたし、恐らくアレス様は種族の年齢差を気にされていたんだと思います」
テネシア「ああ……、それはあるかもな」
ミア「いずれにしても三十代になって、大人になりハードルを乗り越えられるようになったのでしょう。二十代の頃より責任が取れる立場にもなっていましたし」
イレーネ「アレス様もいろいろ考えていたのですね……」
テネシア「それじゃ四十代の結婚は?」
ミア「それは私ですね。この年の結婚になると、若い頃のようなベタベタするような熱いものではなく、お互いを尊重し、節度をもった感じの結婚になりますね」
テネシア「確かに主は年を追うごとに余裕を持った感じが出てきたな」
ミア「その余裕こそが成長の証ですね。私もアレス様と同じ年代なので、よく分かります」
◇ ◇ ◇
~アレス視点~
応接間の外の廊下
先ほど、叙爵式を終え、三人がここに集まってると思い、途中から中に入ろうと思ったけど、完全に女子会のような雰囲気になっていたので、入るのを止めて、廊下で聞き耳を立てていた。
う~ん、この中には入りづらいよなぁ。また日を改めるか……
昔は直接、応接間の中に【転移】してたけど、現在はミアの家族サラが同居してるし、ラーシャも割と来ているから、家族団欒中に入るのを避けるため、転移先は玄関を入ったあたりに変えたんだよ。それで使用人にミアが手隙(休憩中)であることを確認してから、部屋に入るようにしたんだ。
この四人なら、僕が途中で入ってもいいんだけど、話題がアレだから、邪魔しないでおこう。
テネシア「あれ、いつも大体、このぐらいのタイミングで主が来るよな?」
イレーネ「まだ仕事をしてるのでしょうか?ふふふ」
テネシア「いいや、仕事が早い主のことだ。仕事なんてとっくに終わってるはずだ」
イレーネ「それじゃ、なぜ?」
テネシア「おおかた廊下で聞き耳でも立ててるんじゃないの~?」
ギクッ! テネシアの奴、相変わらず勘は鋭いな。
しかたない。今、来た風を装って、中に入るか。
ドアを叩こうとしたら、ドアが開く。
ミア「ふふふ、お待ちしてました。アレス様」
僕「……やあ、丁度、“今“、来たところなんだ」
ミア「ふふふ、そうですね。そういうことにしておきましょう」
そしてイレーネも笑みを浮かべながら――
「アレスさま、“ずっと“お待ちしてましたよ」
とどめにテネシアが――
「主の気配は壁の向こうでも丸わかりだよ。ふふふ」
やれやれ、この三人にはかなわないなぁ。
愛すべき僕の大切な妃達、これからも大切にしていきたい。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。




