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第356話 新婚旅行(ピエル村)

~ライナス視点~


 両親も結婚後、新婚旅行に行っていたし、その話を子供の頃からよく聞かされていたので、自分も結婚したら、旅行に行くものだと決めていた。でも、ただ遠くに行くというのは面白くない。それで、考えた結果、ラーシャの故郷に行くことにした。これは結婚前から、ラーシャと話し合って決めたものだが、一番の目的はラーシャの故郷を通して、ラーシャを知ること。故郷というのはその人の生い立ちに関わってくるからね。夫として妻を知るのは基本中の基本だと思う。


 幸い、僕のことは、この王宮でほとんど話してきたし、王妃である母からも説明を受けてるだろう。だから今度は僕がラーシャのことを知る番だ。


~~結婚前の回想~~


「ラーシャはエルスラ共和国で生まれ育ったんだよね」


「ええ、そうです」


「エルスラ共和国のどのあたり?」


「ピエル村というところです」


「ふ~ん、ご両親は早くに亡くなったと聞いたけど」


「そうです。私達姉妹が幼い頃に、流行り病で……」


「そうかい……それは大変だったね。両親が元気な僕がいかに恵まれているか、よく分かるよ」


「でも、私達は村長さん夫妻にひきとられたから、幸運でした。それで早く自活できるようになりたいと、冒険者を目指したんです。妹は勉強を頑張りました」


「姉は冒険者、妹は勉強、なるほどね……」


「だから、私の故郷と言っても、ただの村で大したことはないんですよ」


「いやいや、そんなことはないよ。君の両親のお墓に手を合わせて、村長さん夫妻にお礼を言えれば、十分だ」


「でも、あんな長閑な村に、いきなり新婚旅行の一行が来たら、みんな驚きそうです」


「……確かにそれはそうだね。それなら、二人だけでお忍び旅行しようか?」


「お忍び旅行ですか!!」


「うん、実は父上もよくやるんだ。ミア内務大臣もそうだろ?」


「確かにそうですね……」


「それに二人きりの方がずっと気楽だよ。僕も軽装になれるし」


「でも、いいんですか?護衛とか付けなくて」


「な~に、僕もそこそこ訓練してきたからね。特に剣の腕は自信があるんだ」


「……でも」


「大丈夫だって、いざとなれば【結界】で防げるし、【転移】で逃げることもできる」


「【転移】が使えるのですか?」


「うん、父上から頂いたアイテムでね」


「それなら、移動は【転移】ですか?」


「いや、往路は馬車がいいな。ミローネに頼んで、エルスラ共和国行きの馬車に乗せてもらおう。それに僕の【転移】は一度行った場所でないと行けないからね」


「二人で、お忍び旅行ですか……、ふふ、楽しみです」


~~回想終了~~


さて、ミローネに頼んで、商会の馬車に乗せてもらうよう連絡するか。

隣国行きなら、結構出てるはずだからね。


――――

――――――


<王宮・応接間>


 ミローネはギルフォード商会の副会長に就任してるが、そのまま王宮住まいだし、会長の父上と連絡を取るため、頻繁に王宮に来ている。彼女と話をするのは非常に簡単だ。


「ミローネ、ちょっと頼みがあるんだけど」


「な~に、お兄様?」


「実は新婚旅行でエルスラ共和国のピエル村に行こうと思うんだけど、そっち方面の馬車に僕とラーシャを乗せてもらえないかな?お忍びで旅行したいんだ」


「まあ、お忍び旅行ですか!父上みたいですね」


「ふふふ、そうだね。それで、どう?馬車はあるかな?」


「う~ん、ピエル村は街道から遠いですね……生憎、ちょっと……」


「そうか……」


「あっ!それなら、飛行船をご用意します!」


「飛行船!」


「ええ、予備がありますから、それで往復したら、いいですよ」


「なるほど、飛行船か……、それなら、ちょっと運転練習させてくれないか」


「どうぞ、どうぞ、しっかり練習なさって下さい」


新婚旅行に飛行船かぁ。これはこれでアリだな。


――――

――――――


新婚旅行当日、王宮の裏庭に飛行船を準備


 これで、小型ということだけど、それでも、なかに簡易な宿泊施設もあり、普通にこの中で数日は暮らせるよなぁ。これなら馬車よりもはるかにいいじゃないか!


でも、これが飛行するとなると、目立つよなぁ。お忍びって感じじゃなくなる。


すると父上が声をかけてくる。


「これから、二人でお忍び旅行かい。いいなぁ」


「そうなんですけど、よく考えたら、飛行船って目立ちますよね」


「なるほど、じゃあ、君ら以外には見えないよう【隠蔽】してあげようか?」


「そうしてもらえると助かります!」



こうして、飛行船に【隠蔽】をかけてもらったので、お忍び旅行しやすくなった。



「それじゃ、ラーシャ、行こうか、道案内を頼むよ」


「はい、ライナス様」



さあ、新婚旅行の始まりだ。


――――

――――――


飛行船で移動中、僕は操縦席に、ラーシャは助手席にいる。


「空からの旅行なんて、凄いです……」


「本当に凄いよね。これは父上がつくったものなんだ」


「国王陛下はいろいろと、おできになるんですね……」


「本当に凄いよね」


「ああ、もう、王都を抜けますね」


「飛行船は速いからね」


「……ライナス様、運転は難しいですか?」


「いやいや、簡単だよ。君も運転してみるかい?」


「ええ!運転します!」


 こんな感じで、二人きりの飛行船移動は楽しい雰囲気で進んだ。やっぱりお忍びにして正解だったな。二人きりだと本当に気楽だ。お城だと常に衛兵やらメイドがいるからね。それで公に他国旅行となったら、相手国との日程調整、人の準備、護衛、大変な作業だ。そうなったら二人だけの時間も少なくなってしまうだろう。お忍びにして良かった!


「ライナス様、左に曲がるにはどうしたらいいですか?」


「ああ、それなら、ここをこうして」


「こうですか?」


「そうそう」


「もうすぐ国境だね」


「ええ!もう国境ですか!」


「飛行船は速いからね。ここから、また僕が運転するよ」


そこからは速度を落として、エルスラ共和国の郊外地区をゆっくりと進む。


「あっ!あの辺です。あそこがピエル村です」


「よし、高度を下げよう」


 ほどなくして、ピエル村に到着、飛行船は道外れの草むらに停めた。ここなら、大丈夫だろう。僕らが下りても【隠蔽】したままだから、誰にも気付かれないだろうけど、誰かがぶつかると不味いからね。ちなみに【隠避】だが、僕とラーシャにはかからない設定なので、僕らにはきちんと見えている。


「それじゃ、村長さんのところに行こうか?」


「はい、うわあ、懐かしいなぁ!」



 しかし、ピエル村というところは長閑な場所だな。確かにここへ、王家の馬車がたくさん入ったら、ひと騒動になるだろうし、落ち着かないだろうな。お忍びで来て本当に正解だった。


ラーシャの育ての親である村長さん夫妻はどんな人だろう。会うのが楽しみだ。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、評価、ブックマークをして頂けると大変有難いです。

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