第352話 王太子結婚前
話は意外な方向に……
バハナ将軍が軍に加わり、その後、ダルト国からの動きは特に無かったが、内偵は継続させていた。現在、行政調査庁による内偵がダルト国の上層部を監視してるはずだが、どうなっているんだろうか?
ロルアス行政調査庁長官から報告を受ける。
「ダルト国の上層部はバハナ将軍が出撃して以降、なんの音沙汰もないので、相当焦っているようです」
「ふふ、そうだろうな」
「軍関係の施設も内偵しましたが、ダルト国の海軍の残兵力は少ないですね。軍船十隻ほどです」
「それなら、当分はしかけてこないだろう」
「……でしょうね」
「ダルト国の責任者、クスル提督と言ったか。どんな男なんだ?」
「……まあ、小物ですね。自分で敵地に乗り込む気概も無さそうですし、悪巧みばかりしてるようです」
「悪巧みか……また愚かなことを考えなければいいけどな」
「引き続き内偵を続けます」
「ああ、そうしてくれ」
行政調査庁の内偵は古株の旧隠密隊員によるもので、【隠蔽】【透過】【念話】【転移】アイテムを渡している。彼らなら、敵方の城でも、軍事施設でも、好きに入れるし、会話を聞くことができる。はっきり言ってしまえば、暗殺も楽に可能だ。(絶対にしないけどね)
こちらから、しかけることはないが、向こうがしかけるなら、即座に対応したいからね。いつ来ても迎え撃つよ。
そう言えば、兵力の増強、軍の再編等で慌ただしかったが、ライナスとラーシャの結婚まで、あと一カ月ぐらいとなったな。そろそろ、そちらの準備もしないとな。
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~ラーシャ視点~
あと、一月ほどで、ライナス様と結婚か……私が王太子様と結婚なんて、いまだに実感が持てないけど、まわりが式の準備やら、招待状の準備やらで、大忙しで、次第に結婚という二文字が意識の中心に占める割合が大きくなる。これまで王妃様からお妃教育を受け、王族の一員になる準備は整えてきた。
元々、冒険者だった私はお母様と一緒になってから、生活環境が劇的に変化した。冒険者から、お母様の専属護衛となり、王都、王城での生活が多くなったが、平民だった私が貴族となり、今度は王族になる。まるで夢のような話だ。
だけど、一点、気がかりがある。それはお母様のことだ。お母様は私と妹のサラを養女にしてくれたが、私が王太子様のところへ嫁げば、お母様と離れてしまう。今はまだサラがいるから、一人きりではないけれど、サラも連邦放送局の仕事が忙しいようだし、私がお母様のことをちゃんと見てあげたいと思う。今度、お母様と話してみよう。
<王都・ミア侯爵邸>
夕食、お母様、私、妹がそろう。
ミア「今日は三人、そろいましたね」
ラーシャ「サラは最近、忙しそうだったね」
サラ「連邦放送局で、軍関係の取材に行ってたんです」
ラーシャ「へぇ~そんなこともするの?」
サラ「今までは放送を流すだけでしたけど、最近は取材して自ら放送をつくるようになったんです」
ミア「番組も増えましたね」
サラ「今は王太子結婚式の準備ですね。そのうちお姉ちゃんにも取材にいきます」
ラーシャ「それは恥ずかしいから、やめて」
サラ「ダメですよ。お姉ちゃんは憧れの王太子妃になるんだから」
ミア「ラーシャが王太子妃になるなんて、夢のようだわ」
ラーシャ「それは国王陛下とお母様のお力添えがあったからです」
ミア「そんなことないですよ。あなた達の思いが通じたのよ」
ラーシャ「……」
ミア「?どうしたのラーシャ?」
ラーシャ「なんか、自分だけ、こんなに幸せになっていいのかと……」
ミア「ふふ、いいにきまってるじゃない」
ラーシャ「あの……ええと……」
ミア「どうしたの?」
ラーシャ「……お母様はずっと“一人“でいいんですか?」
ミア「何言ってるのよ。あなた達がいるじゃない」
ラーシャ「それはそうですけど、あの……結婚は考えたことはないのですか?」
ミア「結婚!?」
ラーシャ「お母様は知的で綺麗で、優しくて、こんなに魅力的なのに勿体ないと思いまして……」
ミア「……そうね。私は植物研究が大好きですし、恋愛とか、結婚には興味は無かったですね……」
ラーシャ「それなら、今まで気になる男性はいらっしゃらなかったのですか?」
ミア「……そうね。正直に言うと、尊敬する男性はいます」
ラーシャ「……それは……、国王陛下ですね?」
ミア「……嫌な娘ね。分かってたの?」
ラーシャ「それは分かりますよ」
ミア「でもね。私の陛下に対する思いは、恋愛とは違うのよ。尊敬、敬愛でしょうか」
ラーシャ「でも、好きなんですよね?」
ミア「な、何を言ってるんです!相手は国王陛下ですよ!」
ラーシャ「それを言うなら、私だって、相手は王太子様ですよ」
ミア「それに陛下は既に三人もお妃様がいらっしゃいます」
ラーシャ「……それなら、もし国王陛下にその気があったらどうですか?」
ミア「それは……そんなことはありませんよ……」
やはり、お母様は国王陛下に気があるんだ。でも肝心の国王陛下はどうなんだろう?今度、ライナス様に探りを入れてみよう。
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――――――
<王宮・ライナスの部屋>
ライナス王太子と会話する。
「もうすぐ結婚だね」
「そうですね」
「う~ん、楽しみだけど、緊張するなぁ」
「そうですね……」
「?どうしたんだい。何か考え事?」
「ええ、実は私の母のことなんです」
「ミア内務大臣のこと?」
「ええ、母は今まで国王陛下とのお付き合いが長いと伺ってます」
「そうだね。僕が生まれる前からだね」
「それでテネシア元帥、イレーネ宰相とも旧知の間柄ですよね」
「そうだね」
「それで、テネシア元帥、イレーネ宰相は国王陛下の妃となられてますけど、国王陛下は母のことをどうお考えかと思いまして」
「それは、恋愛感情ってこと?」
「恋愛感情かどうかは微妙ですけど、テネシア元帥、イレーネ宰相のような深い結びつきがあるのか気になるところです」
「……つまり父上がミア内務大臣をどう思っているのか、知りたいと?」
「まあ、そうですね」
「どうして、急に気になったんだい?」
「私が結婚して、幸せになるのに、母が一人のままでいいのかと思うようになりました」
「う~ん、父は既に三人も妃がいるからなぁ……」
「母は三人のお妃様と仲が良いですから、そのあたりはクリアできそうな気がします」
「そう?」
「問題は国王陛下が母をどう思っていらっしゃるのかと、三人のお妃様のお気持ちですね」
「まあ、そうだね」
「それで、ライナス様にお願いがあります。国王陛下にそのあたりの探りを入れてもらえないでしょうか?」
「ええええ!僕に!」
「こんなこと頼めるのはライナス様しかいません」
「う~ん、責任重大だなぁ……」
「難しいことはありません。国王陛下の本心を知りたいだけなのです」
「わかった。君の頼みなら、断れないよ」
「さすが、王太子殿下!私の夫になるお方です!」
「ははは、君も言うようになったな」
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~ライナス視点~
……とは言ったものの、あの父上の本音を聞き出すなんて、至難の業だよ。しかし愛するラーシャのため、玉砕覚悟で聞いてみるか。
<王城・執務室>
父上が一人で休んでいる。今がチャンスだな。
「父上、今、お時間、大丈夫ですか?」
「ああ、いいよ」
「実は折り入って、父上にご確認したいことがありまして……」
「なんだい?急に改まって」
父上が真っ直ぐ、こちらを見つめてくる、うわあ、聞きづらい。
「……実はミア内務大臣のことですが」
「ミアか?ミア内務大臣がどうした?」
本当に聞きづらい。ええい、ままよ!
「父上はどう思っておいでですか?」
「なんだ、藪から棒に!そりゃ、信頼できる側近だと思っているよ」
これは想定内の答え、でもこれではダメだ。
「いえ、仕事上のお話ではなく、人間として、いや女性としてはどうですか?」
「ぷっ!おい、なんで、そんなことを聞くんだ?何かあるのか?」
「いえ、テネシア元帥、イレーネ宰相をお妃にされてますが、どうして、ミア内務大臣はそうでないのか知りたいと思いまして」
「……それは成り行きみたいなものだな」
「それでは、父上はその機会さえあれば、ミア内務大臣をお妃にする気がないわけでも、ないんですね」
「……ただ、ミア内務大臣は恋愛とか、そういう間柄じゃないからなぁ……」
あれれ、父上が珍しく、弱々しいぞ。ここが押し時だ。
「でも、好きなんですよね?」(大きめの声)
「お、おい!父親をからかうもんじゃない!」(慌てる)
ここでやめとこう。父上はミア内務大臣に気があるよ。間違いない!
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