第29話 難破船漂流
「お~い、船だ~!」
朝、海の砂浜でテネシアとイレーネが稽古をするのが日課になっていたが、船が島に近づいていると言う。急いで砂浜に行くと確かに船、でも様子が変だ。
「あの船、なんか様子が変だな」
「甲板に人が見えないし、帆も張ってない」
「なんかゆらゆら流されてきてるみたいです」
「難破船かもな……中にまだ人がいるかもしれない。助けにいくぞ!」
すぐ三人で船の甲板に転移して、船内をまわったところ、なんと三十人ぐらいの人が乗船していた。しかし皆ぐったりしていて元気がない。
「助けにきた! どうしたんだ」
「私たちは国から逃れてきました。どうか助けて下さい……」
そのまま意識を失ったので、とりあえず全員を甲板まで運ぶ。
みんなの手をつなげて。
「【転移】!」
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――――――
<島の館・広間>
全員を寝かせ、ヒールをかけていく。回復魔法を覚えてよかった。途中、薬草採取から戻ったミアも加わり、さらにヒールを重ねがけした。……しかし一人まったく動かない。
「これは不味い……」
ミアが意識を集中する。そして
「ハイヒール!」
上級の回復魔法で、これは「死んでさえいなければ」助かる可能性があるという奇跡の魔法らしい。何とか息を吹き返してくれ。
するとみるみる顔色が良くなり回復しだした。ハイヒールは凄いな……
「魔法で緊急は回避しました。すぐ薬草のおかゆを用意します」
その後、体調を取り戻した人に話を聞いたみた。
「私はドワーフのインカムと申します。実は私たちは本国から逃げてきました。本国は亜人差別が酷く、多くの亜人が虐げられています。私たちは有志を募って船で脱出を試みましたが、途中、嵐に巻き込まれ漂流していました」
「それなら、この島に住んだらどうだ。家や畑のインフラは整っているし、すぐにでも生活できる」
「本当ですか! それは有難いです!」
その後、三十人が正式に住民に加わることになった。亜人ということで、エルフ、ドワーフ、獣人と多種多様なメンバーだった。代表インカムにも今後の運営会議に加わってもらおう。ちなみに今回、皆を運んだ『島の館』だが、『山の館』にちなんだ命名で、大きな公民館のような施設だ。会議、居住、一時避難と多目的に使えるし、今後、島の中心施設になってゆくだろう。
<島の館・会議室>
僕、テネシア、イレーネ、ミアに、今回から、インカムを会議メンバーに加えることにした。
「インカムさん、本国の亜人差別はそんなに酷いのですか?」
「はい、まともな職につけず、搾取され、奴隷に落とされている者も多数です」
「えっ、奴隷なんているのか!」
確かに僕は異世界に来たが、自分の国(王女様の国)では奴隷を見なかったので、驚いてしまった。亜人達への差別も無かったし。
「ふざけてるな!」
「何とかならないのかしら」
僕の護衛兼側近である二人も竜人とエルフで亜人だ。最初こそ、外見の違いや能力の高さでびっくりしたが、付き合ってみると、人間と何ら変わらない。竜人のテネシアとエルフのイレーネにとって、亜人差別、亜人奴隷は他人事ではないのだろう。それで僕も助けたい気持ちが高まる。
「どうしたらいいだろう」
するとインカムが真っ直ぐこちらを見て、力強く言った。
「仲間たちをこの島に呼べれば助かります!」
なるほど、それが一番しっくり来る。向こうの国は亜人を虐げている。ここの島は新しい住民を受入れ可能。なら話は早い。
「よし、君たちの国の仲間を受け入れよう」
「何人ぐらいいるの?」
「もともと亜人五千人ぐらいの小国でしたが、後から人間に征服されました。元気な者は自分の力で脱出できるからいいのですが、自力で逃げられない仲間が不憫です」
「自力で逃げられない仲間?」
「はい、鎖でつながられた奴隷、檻に入れられた囚人、それと亜人を隔離した病棟にいる病人です」
「奴隷、囚人、病人か…… 囚人と病人が隔離されてる場所は分かる?」
「はい、分かります」
「……奴隷は一か所に集まってるの?」
「労働奴隷は鉱山施設、戦争奴隷は軍の施設です」
「……なるほどね、大変な環境だろうが、まとまっているのは非常に好都合だ」
会議は亜人救出、島への移住受け入れで決定。当然だよね。この後、自分とインカムが救出実行。テネシア、イレーネ、ミアが受け入れ準備で仕事を分担することにした。若干、テネシアが不服そうだったが、移住した住民の警戒も大切な任務だ。今回は自分のスキルに全振りすることにしたい。
【転移】スキルの限界に挑戦するぞ!
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