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第1831話 人生学校ゲーム4

 続きです。

 ここはギルフォード商会のとある正規店の玩具売場。

 その棚に並ぶ商品を夫婦のお客さんが物色していた。


「どう、あなた、いっぱいあるでしょ」

「ああ、たくさんあるねぇ。流石、ギルフォード商会だ」


 娯楽商品と言えば、ギルフォード商会。この世界では特許や著作権の類はないので、他の商会もギルフォード商会を真似て類似商品を販売しているが、品質の差、品数の差、接客の差、そして信用の差は埋めようがない。お客さんはそれらをトータルして購入先を選択する。


「こんなにたくさんあると、目移りしちゃうよ」

「ふふ、そうよね」


 棚には、リバーシ、チェス、トランプ、将棋、囲碁、かるた、花札、ヨーヨー、コマ、メンコなど、様々な玩具が並んでいる。どれも庶民の手に届きやすい価格帯であり、未成年のお客さんもいる。富裕層向けの高額商品も置いてあるが、数は少なめ。


「あっ、将棋がある」

「こっちには、花札よ」


 こういう場に富裕層が来て高額商品を買うケースもあるが、一般層と軋轢が生じることを避けるため、ギルフォード商会は富裕層を得意先と位置づけ、訪問販売(御用聞き)に力を入れている。富裕層は貴族が多く、馬車で来るケースがほとんどのため、近隣混雑を避ける狙いもあった。


 一見すると差別に見えるがそうではない。たとえ貴族であっても、店内で買うなら、平民と一緒に並ばなければならないし、その他特別扱いは一切しない。そうなれば貴族は不満を持ち、ギルフォード商会から離れていくだろう。店頭販売と訪問販売の二つの商法は、平民と貴族の両建てを狙ったものだ。


 ちなみに平民の富裕層は馬車で来ないし、並ぶのを厭わないので、普通に店に来て買うことが多いから、店にもきちんと高額商品は置いてある。それに富裕層でない平民であっても、高額商品を買うケースは増えている。ちょっとした贅沢をしたいと思う平民は増えているのだ。それに騎士爵などの下位貴族は平民上りがほとんどなので店買いが多い。


「リバーシとトランプは買ったでしょ。何かもう一つ買いたいわね」

「そうだね。できれば、家族みんなで一緒に楽しめるものがいい」


 そこへ店員がそっと近づき、声をかける。


「お客様、何かお探しでしょうか?」


 店員はのべつ幕無しに誰にでも声をかけるわけではない。

 遠くから様子を見て、購買意欲の高そうなお客さんを見抜き、

 プレッシャーをかけないよう、やんわりと声をかけるのだ。


 これに旦那さんが応じる。


「家族みんなで楽しめる玩具はあるかな?」


 店員が微笑みながら答える。


「ご家族とおっしゃいますと、4人ぐらいですか?」

「いや5人だよ。子供3人いるからね」


 日本の合計特殊出生率(2024年)は1.15、こども家庭庁の創設にもかかわらず、9年連続で低下し、社会問題となっているが、この世界でそれはなく、結婚した夫婦は2人、3人と当然のように子供をつくる。誰でも普通に結婚し、子供をつくり、子育てできる社会が実現できているのだ。


 合計特殊出生率とは、15歳から49歳までの女性の年齢別出生率を合計した指標で、1人の女性が一生の間に産む子どもの推定平均人数を指す。主に少子化の傾向を示す指標として用いられ、人口置換水準とされる2.07を下回ると人口減少の要因となる。日本の状況は超少子化であり、危機的状況と言っていい。


 子供1人産むのがやっとの社会と、子供を2人、3人普通に産める社会、家族と共に過ごせない社会と、家族と共に過ごせる社会、どちらの方が本当の意味で豊かだろうか。真の豊かさとは、GDPや付加価値や労働生産性などの経済的指標だけで計れるものでは決してない。


「お子さんは学校に入学されていますか?」

「そうだね」

「でしたら、ちょうど新しい商品が入っております」


 店員が奥の棚からひとつのゲーム(長方形の箱詰め)を持ってくる。開封されていないが、表紙にタイトルとゲーム盤が描かれているので雰囲気は伝わってくる。


「これは“人生学校ゲーム“と言いまして、遊びながら、

 道徳を学ぶことができる優れた商品です」


 商品の性質上、当初、霊性研究所の講義参加者を中心に販売していたが、

 評判が良かったため、店頭でも販売するようになっていた。


 道徳と聞いて、奥さんが応じる。


「えっ、ゲームなのに、道徳を学べるんですか?」

「はい、他のゲームと趣が違いまして道徳性を重視した商品です」

「どんな内容なのかしら?」

「はい、かいつまんで説明しますと――」


 店員が商品について丁寧に説明をする。ギルフォード商会と言えば、お客さん目線の接客で知られるが、それを可能にしているのが豊富な商品知識だ。どこかの世界のどこかの国では丁寧に接客すると、コスパが悪くなり、付加価値が下がるため、省く傾向があるが、ギルフォード商会ではそれはない。すぐ利益に結びつかなくても、店の信用向上につながり、それが将来の利益として返ってくることを知っているのだ。


 今だけ金だけ自分だけではなく、

 将来を見据え、信用醸成を心がけ、お客さんを大切にする。


 店員の説明を聞いて、旦那さんが口を開く。


「なるほど、徳と業……ですか、いい教えでしょうが、子供たちには

 少し難しそうですね」


 徳と業については、聖王陛下が受信機テレビや書籍などで広く説いているので、言葉自体はそこそこ知られている。ただ、その深い意味の理解となると個人差が大きい。だが、これはあらかじめ想定されたことであり、難なく店員が答える。


「でしたら、徳と業について書かれた書籍をご購入されたら、いかがでしょうか。

 本とゲームをセットでご購入頂けるなら、割引が適用されます」


 そう言いながら、店員が書籍『徳と業』を提示する。これは通常、本売場に置いてあるものだが、セット販売が企画されたため、一部の本がこちらへ移された。逆に本売場では一部のゲームが置いてある。通常、別商品をタイアップさせるのは、売り方や売上の配分など調整すべき課題があり、大変だったりするが、ギルフォード商会の場合、別商会を入れず、同商会でできるので容易に行える。


「割引は会員特典になりますが、会員登録はされていますか?」


 夫婦が互いに目を合わせてから、一緒に答える。


「「はい」」

「では大丈夫です。他に何か、ご不明な点等はございますでしょうか?」


 奥さんが口を開く。


「為になるのは分かったけど面白いの?」


「そうですね……為になるのは間違いありませんが、少々、慣れが必要だと

 思います。慣れてくれば面白くなるでしょう」


「どういう意味かしら?」


「例えば、絵を描く場合、最初はよく分からないので面白さが少ないですよね。ですが、描いているうちに、絵がうまく描けるようになり、面白くなっていきます。このゲームもそれと似た感じがあるかもしれません」


 この商品は「面白さ」より「為になる」を重視した商品だが、

 慣れれば、独特の面白さがある。店員も自分で試し、それを実感しているのだ。


 馬には乗ってみよ人には添うてみよ、ギルフォード商会の店員は商品の良さを自ら体験した上で販売する。だから販売に説得力が生まれ、売上が伸びるのだ。商品についてろくに知らず、その体験をしたこともないのに、「これはいい商品です」と言うことは、自分を騙し、お客さんを騙して売るのに等しい。


――

――――


~アレス視点~


 城のプライベートエリアの一室にて、

 夫婦5人で人生学校ゲームに興じている。


 当初、霊性研究所の参加者を対象に会場で販売していたが、評判が良かったので、店頭でも販売することになった。娯楽商品はこれまで多く出してきたが、基本的には前世の仕様やデザインやルールをそのまま利用してきたんだよな。だが、今回はそうじゃない。僕流に大幅にアレンジした。


 他の娯楽商品と違い、道徳性を重視しているので、特殊な商品となっているが、既に道徳向上政策を何十年も続けており、金儲けより大切なものがあることを理解してる人は相当増えたことだろう。この状況なら、ゲームの趣旨を理解し、共感してくれる人は一定数いるはずだ。


「財布を落として、業を1ポイント解消かぁ。

 喜んでいいのかい? 変わったゲームだな」


 そう言い、テネシアがチラっと僕を見る。


「私もさっき、泥棒に大金を盗まれて、業を3ポイント解消しましたよ。ふふ。

 何か変な感じですよね」


 そう言い、イレーネがチラっと僕を見る。

 これは僕に説明を求めているな。それでは要望にお応えして――


「世間一般の常識では、お金が無くなることは悪いことして捉えるが、実は過去世の業の解消になるから悪いことではないんだ。但し『何で自分がこんな目に遭うんだ』『自分はついてない』『ふざけるな』と悪く思えば、それにより業を積むから、折角の業の解消効果が薄れてしまう。だから悪いことがあっても、悪く思わないことが大切なんだ」


 大事なことなので強調しよう。パネルを提示する。


□-----------------


 悪いことがあっても、悪く思わない

 悪く思うから悪くなる


□-----------------


 そもそも、この世に悪いことはない。


 そう言うと、「だったら、悪いことをしてもいいんだ」と早合点する者がいるが、そうじゃない。そういう者に自制(悪いことをしない)を促すために「悪いこと」を定めているのだ。


 皆が皆、悪いことをしなくなったら、悪はなくなるが、

 そういう世の中ではないので、悪が存在する。


 メリッサが口を開く。


「そう言えば、そういうことが本に書いてましたわね」


 書籍『徳と業』は妃たちにプレゼントした。また、この本に限らず、僕が書いた本はいつでも気軽に読める場所に置いてあるので、それを読めば、僕の基本的な考えがある程度分かるはずだ。


「そうそう、付属の説明書にも一応書いたけど、本を読めば、さらにいい」


 次の番のミアがルーレットを回し、コマを進める。


「失恋して業を2ポイント解消、でした。

 これも、失恋して良かった、ということですか?」


「ということになるね。現実で起きたら、中々そうはならない

 だろうが、実際のところ、そうなんだ。」


 みんな、狐につままれたような表情だが、現世視点と霊的視点では価値観が逆転するからな。このゲームをすることにより、これまで常識だと思っていたことがひっくり返るだろう。


 さて、次は僕の番だ。ルーレットを回し、コマを進める。


「家が火事になって全財産失う。業を10ポイント解消か。やったね」


 すると、テネシアが呆れたように言う。


「火事を喜ぶって……変なゲームだな。これ」


 ついに言われてしまった。はっきり言うなぁ。


「まぁ、それが普通だし、現実に火事が起きたら、こうはいかないだろう。でもね。魂意識はおそらくそうなんだよ。不幸と呼ばれる現象が起きると喜ぶ。業を解消し、魂の成長に役立つからね」


「ふ~ん、魂意識ね……」


 家で妃たちに面と向かって、こういう話はしづらく、してこなかったが、徳と業の講義に妃たちを招待して以降、少しずつするようになった。今回はゲームを通して、さらに考えを共有したいと思う。


 イレーネが口を開く。


「ということは、このゲームは、その魂意識の体験になる、ということですね」

「そうだね。プレイヤーが魂で、ゲーム盤上のコマが僕ら、ということだな」

「ということは、私が私を動かしているということですね」

「そうそう、ありていに言えばそうなるね。魂意識が自意識を動かしている」


 パネルを提示する。


□-----------------------


 自意識  自分だと思っている普段の意識

 魂意識  普段の自分では意識できない魂の意識


□-----------------------


 どちらが本当の自分か、と言えば、魂意識が本当の自分だ。だが魂意識のままだと、現世の修行に支障をきたすため、自意識という仮想の自分(制限された自分)を作り出し、その経験を通じて魂の成長を図っているのだ。


 万能の自分では修行にならない。

 能力を封印された自分だからこそ修行になる。


 次はメリッサの番。

 ルーレットを回し、コマを進めると――

 

「見知らぬ人からお金をもらい、徳を1ポイント解消する、ですね。

 ……ということは知らない人からお金はもらわない方がいいと?」


「うん、そうなるね。何かして、その対価としてもらうならいいが、

 何もしてないのにもらうと徳の解消になるから、いいことではない」


「……そう考えたら、少し怖くなりますね」


「だろ。だから、基本的に理由なく、お金はもらわない方がいいし、もし、もらうにしても少額にとどめ、お返しをした方がいい。そうすれば、マイナス効果を相殺できる」


 徳と業のことを知らない人は、人からお金をもらえば、「ラッキー」と言い、大喜びするが、喜んでばかりいられないのは、これがあるからだ。宝くじ当選などもそう。金額が大きければ、その分、多くの徳を解消することになってしまう。


 霊界でも通じる「徳」が、現世でしか通じない「得」になってしまうのだ。

 これは本当にもったいないこと。


「お金はいくら稼いで貯めても、あの世に持っていくことはできない。この世限定のものだ。それに対し、徳はあの世に持っていくことができ、あの世の暮らしを良くしてくれる。どちらが良いかは考えるまでもないだろう」


 一息つく。


「現世で善行し、徳を積めば、来世、高級霊界に行くことができる。これは現世でたくさんお金を貯めることより、はるかに素晴らしいことなんだ。仮に世界中のお金を集めたって、これに比べたら全然大したことはない」


 だから前世で、お金を集めることに血道をあげ、お金の力で世界を支配しようとしてる連中が哀れで仕方ない。ただただ、業を積むだけであり、高級霊界から遠ざかっていくだけだ。


 僕の言葉を聞き、妃たちが神妙な顔になる。きっと、それぞれ思うところがあるのだろう。内観や内省は心を育ててくれる。どんどんやるといい。これはその切っ掛けづくりのゲームでもある。

 

 タダでもらえるならもろとけ


 これは前世のとある芸人が親族の生活保護受給騒動の会見で発した言葉の一部だが、生活保護は「資産や能力その他あらゆるものを活用しても最低限度の生活が営めない場合」に受ける制度であり、扶養能力のある家族がいる場合はそれが優先されるため、この言葉は不適当ということになる。騒動を受け、この芸人は謝罪し、受給された保護費の返還を表明する事態となったが、こんなことをすれば、徳を解消し、業を積むことになる。


 タダほど高いものはない。


 賢明な先人たちはそれをちゃんと知っていた。

 このような有難い言葉を右から左に抜いてはいけない。


 ただ、注意点がある。不幸と呼ばれる現象に遭うと業を解消できるので、意図的にそういう現象に遭う行動をしようとするケースがあるが、その場合、自分の身を守らなければならないという縛りがある。命や健康や日常生活を犠牲にしてまで、それをしてはいけない。そうすれば、それで業を積むことになる。


 怪我をすれば業を解消できるが、だからといって、わざと怪我をするのはダメ。お金を失うと業を解消できるが、だからといって、わざと一文無しになり、生活できなくなったら、生きることが難しくなり、万一、それで命を断ったら、大きな業を積むことになる。


 不幸と呼ばれる現象が起きても、不幸と思わず、幸せに思えれば、業を解消し、さらに、徳を積むことができる。だが自ら進んで、不幸と呼ばれる現象に遭うよう行動するべきではない。というか、むしろ避けるべきだ。


 まとめると、不幸を甘受するのはいいが、自ら不幸(と呼ばれる現象)を望まない。不幸(と呼ばれる現象)が起きても、自分を不幸と思わない。そして、そのような状況でも、いかに自分が幸せだと思えるかだ。それが魂の修行となる。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。

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