第1825話 天下りの弊害
続きです。
「義父上、ご講義、お疲れ様でした」
「君の方こそ、お疲れ様、サラ」
放送局員への講義を終え、局長室の応接ソファに座り、ゆるりと一休み中。隣に座るサラと慰労し合うのはいつものこと。僕の話を聞いて局員たちが善の意識を強く持ち、それが世の中に広がれば幸いだ。
みんな善い人、みんな仲良し、みんな幸せ。
世のため人のために働くことによって、自ら光となり、まわりを光で照らす人をライトワーカーと呼ぶが、ぜひそうなってもらいたい。光で照らされた人たちも、やがて自らの光に気付き、光り輝くようになる。間違っても、その反対、ダークワーカーになるべきではない。前の世界の放送局にはこれが多かった。陰の奉仕者という意味ならいいが、人々をネガティブな方向に導く仕事人という意味ならダメ。
「父上のお話、為になりました」
「お教え、ぜひ役立たせて頂きます」
正面に座るシルエスとタイタスも声をかけてきた。今回はこの二人も来てくれたんだよな。二人とも放送に強く関わり、自らも番組に出演して情報を発信し、互いにコラボする間柄だ。二大陸の代表が仲良くすることは世界平和につながる。
これこそが本来のあるべき外交の姿。仰々しく対峙し、しかめっ面で交渉し合うのはあるべき姿ではない。外交というと、何か相手から取ること・奪うことと勘違いしてる人が多いが、そんなことをしたら友好関係が遠のくだけだ。
「放送は人が命だからな。確かな人を選び、確かな研修をし、
確かな仕事をしてもらう」
「確かに人は大事ですね。すべての基本だと思います」
僕とサラの言葉にシルエスとタイタスが頷く。
連邦放送局長のサラ、連邦王のシルエス、聖帝国の皇帝で、かつ聖帝国放送局長のタイタス。期せずして放送と行政のトップがそろったので、ちょっと組織について話をしよう。
「組織は人が集まることになって成るものだが、単に集まっているわけでなく、ある目的を持って行動するために集まっている。目的を達成するには、組織としてまとまり、連携し、それに見合う実務能力が必要だ。皆もよく分かってるよね」
三人とも小さく頷く。
「だから、人を新たに採用する際は、組織の目的、信条、理念などを理解し、賛同、共感していることが不可欠だ。これがないとボタンの掛け違いにより『こんなはずじゃなかった』と、後々行き違いが生じるだろう。こうなるとモチベーションが低くなり、ミスやトラブルを起こしやすくなる。これは組織にとっても、入った人にとっても、いい事ではない」
サラが口を開く。
「それを防ぐために、しっかり面談するわけですね」
「そう。単なる人数合わせでなく組織に合った人を選ぶこと。これが組織作り、組織運営にとって、もっとも重要なこととなる。他がどんなによくできていても、組織に合わない人を入れたら、すべて台無しになってしまうからね」
組織は人によって築かれる城のようなもの。構成する人に組織にそぐわない人物がいたら、城を支えず、城は傾いてしまうだろう。それこそ工作員のような人物をうっかり入れてしまったら、目も当てられない事態になりかねない。
孫氏の兵法では「敵を知り己を知れば百戦してあやうからず」と説いているが、実はこれだけで終わりではない。これを実現させるための具体的な方法として、間諜の重要性を説いている。そして、孫氏は間諜を5種類に分類した。
生間 敵国に潜入し、情報を持ち帰る生きたスパイ
因間 敵国の住民や郷里の人を利用するスパイ
内間 敵国の役人や官吏を買収して利用するスパイ
反間 敵国のスパイを逆に利用し、自国のスパイにする
死間 敵に偽情報を信じ込ませるために、虚偽の情報を持ち込み、
わざと殺されるスパイ
幸い、今は平和なご時世でスパイが暗躍する時代ではなくなったが、前の世界はそうではなく、世界中でスパイが活発に活動している。特に日本はスパイ天国と揶揄され、昔からスパイにやられ放題だ。平和な島国で長年、日本人ばかりの環境にいたから、スパイと聞いてもピンとこず、どこか他人事のように捉えている人が多い。だが今は、日本人のふりをして日本人に近づき、重要な情報を聞き出したり、デマを流したり、おかしな方向に導こうとする工作員がそこかしこにいる。
それを防ぐ法律がスパイ防止法だ。これは国防や外交上の機密(国家秘密)を外国に漏洩した者や、その収集行為に対して厳しい罰則を科す法律だが、日本ではスパイ活動そのものを禁じる包括的な法律がないため、安全保障上の対策として制定が急がれている。
丁度今、日本で衆議院議員の選挙が行われているが、一刻も早くスパイ防止法を制定したいなら、スパイ防止法の制定に賛成してる候補者や党に票を入れるといいだろう。日本の法律改正は、国会(衆参両院)にて提出された法案が委員会および本会議の審議を経て、出席議員の過半数(原則)の賛成で可決・成立するが、ここでネックだったのが委員会だった。
法律を改正するには、その前段階として法務委員会で審議する必要があるが、解散前の委員長ポストに、スパイ防止法の制定に反対する人物が就いていたため、仮に審議を要請しても、なんやかんやと理由を付けて審議入りを遅らせることが目に見えていたのだ。
解散前でも衆議院はスパイ防止法に賛成の勢力が過半素を占めていたが、それでも首相が解散権を行使したのはこれが理由だ。スパイ防止法に限らず、改革のための法案が委員会で止められたら、先に進むことができない。この事実を多くの人に知ってもらいたい。
早期に、スパイ防止法、自国の国旗損壊罪、憲法改正などを進めたいなら、
それに賛成する勢力に票を入れるしかない。それもできるだけ多く。
一般的な勝敗ラインは過半数である233議席とされるが、今回はこれでは足りない。一応、法案を通せるラインだが、これでは解散前と同じであり、委員会で止められてしまう。だから実質的な勝敗ライン(目標ライン)は安定多数244議席もしくは絶対安定多数261議席であろう。
244議席あれば、すべての常設委員会で半数を確保した上で委員長を独占し、261議席あれば、すべての常設委員会で過半数を確保した上で委員長を独占できる。だから261議席あれば、委員会、衆議院を難なく通すことが可能。口には出してないが、おそらくこの数字が本命であろう。
ただ、問題は参議院とその委員会だ。仮に今回、衆議院で大勝したとしても、ここは議席が足りておらず、ねじれた状態のまま。それでも、国会(参議院)の方は賛成勢力を集め、過半数を狙えるだろうが、問題は委員会。肝心の法務委員会の委員長ポストに反対勢力の人物が就いているのだ。これは凄く痛い。
参議院も衆議院のように解散できればいいが、残念ながら参議院にその制度はない。だが、そうなると、次の参議院選挙がある2028年まで改革が進まないということになる。移民、少子化、国防、エネルギー、農業、食料など、待ったなしの課題が山積する状況下において、2年も待っていられるだろうか。
だが、これを解決する手段がある。それは今回の衆議院選挙で賛成勢力が3分の2(310議席)を確保することだ。そうすれば、参議院で否決されても、衆議院で再可決すれば法案が通る。憲法改正だけは衆議院の優先権がなく、両院それぞれで3分の2以上必要なため、2028年以降になるだろうが、それ以外はどんどん進めることができる。
だが、こう考えると、つくづく前の内閣は酷かった。一度ならず二度も国政選挙で敗れ、衆議院も参議院も過半数割れにし、おまけに委員会の重要ポストを奪われ、与党なのに何もできない状態にしてしまったからな。今さら愚痴を言っても始まらないが、あと一年、いや半年でも早く、今の首相だったらと、思わずにはいられない。特に昨年の参議院で負けたのが地味に効いている。
今回の選挙を含め、ここ数年が日本にとって正念場だ。
売国勢力を駆逐し、日本を日本人の手に取り戻せるかがかかっている。
とと、話を戻そう。
選挙期間中なんで、ついつい熱くなるね。はは。
「採用する際は、組織に合うかどうか見定め、人物本位であるべきだ。単にお友達とか、誰かの紹介とか、コネとかで採用しないように。コネ採用は本当に良くない。これをすると組織がガタガタになってしまう」
三人が神妙に互いに顔を見合わせる。立場が立場だから、そういう依頼がこれまでまったく無かったことはないだろう。僕だって「いい人がいるんですよ(だから裏から入れて)」という話はこれまでさんざん聞いてきた。でも、そういう立場だからこそ、自らを律する必要がある。
「とにかく、ノーチェックで、コネ採用することはしないようにな」
三人とも真剣な表情で聞いてくれている。
大物である彼らにこんなことが言えるのは僕ぐらいだろう。
僕らは鶴の一声を出せる立場にあるが、客観的に見て、これが良くないことを知っている。本当に能力がある人であっても、ポンと要職に就けたら、まわりの不満は高まるもの。経済学の見方なら、優秀な人材を入れれば、売上アップにつながるが、行動経済学の見方ではそうはいかない。どんなに優秀であっても、後から来た人が易々と自分の上に就けば、面白くないと思い、モチベーションがだだ下がりとなるだろう。そうなれば売上はアップするどころかダウンする。
日本のとあるプロ野球チームが、お金にものを言わせて、他球団から実力者を引き抜き、チームの一線でプレーさせたことがあったが、思ったほど勝てなかった。経営陣は「なんでだ?」となったが、おそらく頭が数字だけの経済学だったんだろう。心を加味した行動経済学でないとうまくいかない。
前世のある調査機関が、出世した人のタイプを調べたところ、強力な後ろ盾つまりコネを持つ人、他人の成果を奪う人、他人に責任を押し付ける人の3タイプが多かったという。これはある意味、衝撃だ。普通の感覚に従えば、出世するのは、仕事ができる人、人格の優れた人と思われるが、実際はそうではなく、そういう人を騙し、成果を奪い、追い落とした人が上に就くことが多いという結果だ。
非合理極まりないことだが、
現実社会は合理性より非合理性で動くことが多い。
もちろん例外はあるだろうが、妙に納得できることではある。組織のトップには、仕事ができ、人格の優れた人が就くべきだが、僕が見たところ、どうもそうなっていないようだったからな。「なんでこの人が?」というトップがやたら目に付いた。横柄で傲慢で自己中で性悪なトップはごろごろいる。逆にそうでないトップを探す方が難しいかもしれない。
これは特に日本について言えることだが、コネ採用の最たるもの「天下り」が組織のガバナンスを乱し、これが組織のガンとなっている。少し考えたら分かるが、その会社で一度も働いたことのない人物がコネにより易々と入社し、しかも、社長、役員などの重役の席にポンと就くのだ。こんなおかしなことがあちこちの会社でまかり通っている。
ほとんどの場合、その社長や役員はお飾りとなり、本来すべき組織の運営やチャックがまったくできず、それを見て部下たちは溜息を吐き、やる気を失うだろう。自分たちより仕事を知らず、仕事ができない人物が自分の上司になるんじゃ、そうなるのも当然。
ある会社では、銀行から天下りした人物が社長に就任し、ほとんど仕事をしないで高給を得ていたが、そういう状態が長年続いたので、従業員はそういうものかと諦めて気にしなくなっていた。ところが、ある時、社長が交代し、新しく社長になった人物が、「これではいけない」と一念発起し、改革することを決めた。この人物も銀行からの天下りだったが、それまでの怠けタイプではなく、仕事タイプだったのだ。
仕事をするなら、いいのでは?
いやいや、仕事を知らない人物が権力を持って仕事しだしたから、組織は混乱することになった。これまでうまくいっていたことを思い付きで変え、業界の法や慣行を無視して、暴走しだしたのだ。普通なら誰か止めそうなものだが、その社長は声が大きく威圧的で、口答えする者は容赦なく閑職に追いやった。
やる気のある無能ほど、組織にとって害悪なものはないが、天下りの中には、こういうタイプがいるから厄介だ。自分で自分のことを有能な正義漢だとでも思っているのだろう。
現場をまったく知らない人物が出世するだけでも問題なのに、そういう人物を平気でトップに天下りさせる日本社会。今や感覚が麻痺して問題視すらしなくなっている節があるが、これがどれだけ経済に損失を与えてきたことか。また、社会に嫌な雰囲気を蔓延させ、人々の気持ちを落ち込ませてきたことか。
天下りは、社会を内側から蝕む病巣だ。こんなものはこの世界に要らない。
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