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第1818話 行動経済学3

 続きです。

「次はハロー効果だ。これは人が何かを判断する際に、見た目や一部の特徴に左右されてしまうことを表した理論だ。過去の経験や直感などに認識や判断が左右されることで、認知バイアス(認知の歪み)とも言われている。その例を示そう」


 パネルを提示する。


□-----------------------


・見た目が良いから、人柄が優れていると考えてしまう

・年を取っているから、正しいことを言うと考えてしまう

・肩書や地位があるから、間違いないと考えてしまう

・信頼できる人からの紹介だから、信頼できると考えてしまう


□-----------------------


「どうだ?」

「……こういうことはよくそうです」


「だろう。誰しも大なり小なり意図せずやっているはずだ。でも、よく考えてごらん、見た目や看板が優れていても中身がそうだとは限らない。これらは合理的な判断じゃないんだよ」


 前世の中国は共産党主導の統制経済だったが、多くの外国企業を誘致することができたのは、外面だけ自由経済を装ったからだ。人は中身を見ず、外見だけで判断しようとする性質があるからな。ハロー効果の悪用だ。


 あの国は、羊頭狗肉、張子の虎、浮華虚飾、面張牛皮を地でいく国だ。発表している統計数字も鉛筆を舐めて良く見せている。2025年のGDP成長率が5%だって? 海外の投資が引き揚げ、不動産バブルが崩壊し、企業は連鎖倒産し、失業者があふれ、消費は低迷してるのに? 対外的にも、米国との経済戦争、各国による中国デカップリングの影響で、悪いデータばかり。出生率も日本より低い。国連の発表値では1を切っている。


 そのような状況で成長率5%なんて、どこの国も信じないだろう。2023年に死去した李克強前首相は現役の時、国家統計局が発表する経済統計を信用せず、「鉄道貨物輸送量・電力消費量・銀行の融資残高」をみて経済の動きを判断していたといわれ、この三つの指標が「李克強指数」と命名されている。一国の首相が自国の経済統計を信用しないというのは普通のことではない。


「どうしてそうなるのでしょうか?」


「それは人が物事を中身、本質ではなく、外見・外面だけで判断する悪い癖があるからだ。これは一生かけて徹底的に直さないとな。中身、中身、中身、中身を見ないと。それと思考放棄だな。ある程度思考して、その後は面倒くさくなって思考を放棄する。これも人の悪い癖だ。怠惰というね。本当に優れた人かどうかを見抜くのは大変なこと。それが面倒だから、怠惰病を発症して、地位や肩書なんかで安易に判断してしまうんだ」


 外見・外面だけで物事を判断する。

 すべきことから目を背け怠ける。

 他人に威張り、他人の悪口を良い、他人を攻撃したがる。

 あれこれ、欲しい欲しい、と欲しがる。

 自分の殻に閉じこもり、他者から学ぼうとしない。

 他人はどうでもよく、自分さえ良ければいいと思う。


 等々、人には悪い癖があるが、

 これらを生きてる間、どれだけ直せるかだ。

 中には、


 他人のモノを奪いたい。

 他人の不幸を見ると快感を抱く。

 傷つけたい、壊したい、という衝動にかられる。

 どうでもいいや、とすぐ自暴自棄になる。


 なんて、どうしようもない癖を持つ人もいるが、

 こんなのもさっさと直さないと。


 長所だけ見て長所だけ伸ばせばいい、と主張する人がたまにいるが、無責任もいいところ。短所を放置して長所だけ伸ばしたら、偏りがどんどん大きくなってしまう。精神的成長はバランスを取ることが大事だ。そのためには短所にも目を向けないと。


 多くの人は、人生の目的を、自分の長所を見つけ、それを伸ばすことだと考えるが、実際は違う。自分の短所を見つけ、それを直すことの方がずっと大事だ。それをしないから、何度も何度も輪廻転生を繰り返すことになる。


 短気とか、怒りっぽいとか、嘘を言うとかもそう。それをそのままにして、他の分野でうまくいっても、短所がなくなるわけではない。短所こそ改善点であり、人生において優先的に取り組むべきことだ。

 

 さて、数があるから、次にいくとしよう。


「次はサンクコスト効果だ。これは今までに費やした費用や時間が無駄になることをもったいないと考え、さらに多くのコストをかけてしまうことを表した理論だ。人がサンクコスト効果状態の心理に陥ると、非合理な判断を下す可能性が高くなる」


「どんな場合があるのでしょうか?」


「例えば、ある事業を起こし、進めているとしよう。そして、年々赤字が酷い状況になっているとする。合理的に判断すれば、すぐ撤退するべきだが、そうすると、それまでの苦労が無駄になるため、なかなか止められない状況だね。第三者なら、そんなことはないが、当事者は思い入れがあるから、そう簡単にいかない。理屈では分かっていても、感情が付いてこない、ということだ」


「……ありそうなことですね」


「他には、赤字続きでも、いつか成功して投資金額を回収したいと考えて、不採算の事業から撤退できない、とか、ギャンブルに負け続けているのに、次こそ当たるはずと考えてやめられない、などもサンクコスト効果の事例となる」


 これは経済に限らず、あらゆる面にあてはまるが、第二次大戦で日本が止め時を失ったのもこれがあると推察する。終戦の1年ぐらい前から、もう負けると分かっていたが、ここで止めたら、これまで命を落とした戦友に申し訳が立たないという心理が働き、止めることができなくなっていた。


 戦後生まれで、当時の事情を知らない人は、「もっと早く止めれば良かったのに」と軽く言うが、その状況になれば、そのような事は言えないだろう。それだけサンクコスト効果は強い。わかっちゃいるけど、簡単にやめられないのだ。


 と言いつつ、当時の日本は水面下で終戦に向け、アメリカに協議を打診していたんだよな。日本は終戦を希望していたが、国体(国家体制)の維持を条件としたため、無条件降伏を要求するアメリカと話が合わず、合意できなかった。無条件降伏とは「何をされても構わない」ということであり、常識的に考えて呑めるものではない。「侵略者が国を解体し、好き放題する」というなら、白旗を揚げるわけにはいかないだろう。何となれば、それを避けるために戦ってきたわけだから。


 結局、日本は原爆を二発投下され、何万人という大虐殺を受けて、無条件降伏したが、これで、めでたし、めでたし、というわけでは決してなかった。無条件降伏だから、占領軍に何をされても受け入れるということだ。すべての日本人の生命も財産も占領軍の手の内に入ってしまった。


 8月30日、連合国軍最高司令官ダグラス・マッカーサーが厚木に到着。その3日後の9月2日、東京湾に入った戦艦ミズーリ艦上において降伏調印式が行なわた。マッカーサーは、以後、政策立案は連合国総司令部GHQが行なうと日本政府に通告。GHQは本部を皇居の隣に移すと、9月11日、事前通告なしに東條英機元首相をはじめとする37人を戦争犯罪人として逮捕、拘留した。前日、アメリカ議会では、昭和天皇を戦犯として裁く決議案が提出されているが、それを受けてのものだろう。


 そのような緊迫する状況で、9月27日、占領軍の最高司令官マッカーサーと天皇陛下の会談が行われた。そこでどんな会話が交わされたのか、公式の記録はない。だが、マッカーサーは回顧録に次のように記した。


「天皇の話はこうだった。『私は、戦争を遂行するにあたって日本国民が政治、軍事両面で行なったすべての決定と行動に対して、責任を負うべき唯一人の者です。あなたが代表する連合国の裁定に、私自身を委ねるためにここに来ました』 ――大きな感動が私をゆさぶった。死をともなう責任、それも私の知る限り、明らかに天皇に帰すべきでない責任を、進んで引き受けようとする態度に私は激しい感動をおぼえた。私は、すぐ前にいる天皇が、一人の人間としても日本で最高の紳士であると思った」

                  

 また、この時、同行していた通訳がまとめた天皇の発言のメモを、

 翌日、藤田侍従長が目を通し、回想録にこう記した。


「……陛下は、次の意味のことをマッカーサー元帥に伝えられている。 『敗戦に至った戦争の、いろいろな責任が追求されているが、責任はすべて私にある。文武百官は、私の任命する所だから、彼らには責任がない。私の一身はどうなろうと構わない。私はあなたにお委せする。この上は、どうか国民が生活に困らぬよう、連合国の援助をお願いしたい』


一身を捨てて国民に殉ずるお覚悟を披瀝になると、

この天真の流露は、マッカーサー元帥を強く感動させたようだ。


『かつて、戦い破れた国の元首で、このような言葉を述べられたことは、世界の歴史にも前例のないことと思う。私は陛下に感謝申したい。占領軍の進駐が事なく終わったのも、日本軍の復員が順調に進行しているのも、これすべて陛下のお力添えである。 これからの占領政策の遂行にも、陛下のお力を乞わなければならぬことは多い。どうか、よろしくお願い致したい』」とマッカーサーは言った。

                      

 会見は当初、15分の予定だったが、35分にも及び、会見終了後、マッカーサーの天皇に対する態度は一変した。感動した彼は予定を変えて、昭和天皇を玄関にまで出て見送ったのだ。


 なぜマッカーサーは感動したのか?


 それは、敗軍の将は捕らえられると、我が身可愛さで、自らの保身を最優先し、責任を回避する行動を取るのが常識だったからだ。それなのに日本の天皇は全責任が自分にあり、自分はどうなっても構わないと述べ、国民の生活を最優先するよう懇願したからだ。おそらくマッカーサーの中で衝撃が走ったことだろう。


 当初、マッカーサーは日本の占領政策を徹底的に厳しくやるつもりだったが、天皇陛下との会見を受けて、緩和の方向に働いたのではないかと推察する。その証拠に天皇陛下は戦犯に指定されず、東京裁判にも出廷することはなかったからね。事実上、GHQは天皇陛下に戦争責任はないと判断したのだ。GHQには言いたいことはいろいろあるが、この点は英断だった。


 とと、話を戻そう。                       


「次はアンカリング効果だ。これは最初に提示された情報や数字を基準にして、物事を判断してしまうことだ。例えば、『大銀貨一枚(一万円)の服が今なら70%オフ!』」と店頭で表示されているとしよう。本来、その服に大銀貨一枚の価値があるかは分からない。それにもかかわらず、先に提示されている大銀貨一枚を基準にすると、『70%オフで安いから買おう!』」と判断してしまうことだな」


「これも思考放棄を促す手法ですね」


「そうだな。他に『期間限定』『本日限り』なんてのもそれにあたる。情報が少ない状況において、人は最初に与えられた情報に頼り、それを基準として判断する傾向があるんだ」


 断片的な情報で物事を判断すると、間違った方向に進むことになる。


「次は現在志向バイアスだ。これは将来得られる大きな利益よりも、今すぐに手に入る利益を優先してしまうことだ。例えば「今10万円受け取る」か「1年後に11万円受け取る」か尋ねられた際、目先の10万円を選択することが、現在志向バイアスの具体例として挙げられる」


「えっ、でもそれは普通ではないですか。1年後の11万円より、

 今の10万円を取るのは」


「いや、普通じゃないよ。お金が今すぐ欲しい状況なら、そうだろうが、そうでなければ、別に1年後でも構わない。それで1万円手に入るんだから、そちらの方が得だ」


「うむむ……」


「言いたいことは分かるが、だから、手元にお金がない人は損をする。この事例のように少し待てば、より多くのお金が手に入る選択肢があっても、それを選ばないからね。それは現在志向バイアスにかかった状態なんだ」


 この世界に銀行はなく、利息もないが、日本では銀行があり、現在の定期預金の金利は1%にも満たないことが一般的だ。だが、低金利の状況下にもかかわらず、多くの人は高金利の他の商品を選ばず、低金利の定期預金を選ぶ傾向が強い。


 これはリスクを避けたいというプロスペクト理論だけでなく、現状思考バイアスもかかっているからだろう。それが悪いと言っている訳ではないが、利益を求める経済学とは相いれない要素があることは間違いない。こういうところも行動経済学なら説明がつく。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。

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