第1798話 財政健全化8
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「父上、国の収支をご覧になって、いかがですか?」
「うん、いいんじゃないか、この数字なら」
今日は王城の執務室に来て、財務資料を広げながら、ライナスと王国の財政状況について話をしている。リベルトも同席しており、のんびりしたものだが、一応、仕事中、しっかりやらないとな。
と言っても、ロナンダル王国は日本と違い、財政状況がいいので、さほど心配はなく和やかなもの。この国はプライマリーバランスが取れ、有事に備えた貯えもきちんとされている。日本のように国債を発行してないし、借金もない。無借金国家は健全で実にいいものだ。
無借金が正常であり、借金が異常、だが、前世の資本主義では借金を正当化し、それをすることが正常であるように扱っていた。それを真に受けて「借金して一人前だ」なんてドヤるのもいたが、ほんと洗脳だよな。それに引き換え、この世界はそれがなく多くの人が正常な感覚なので安心できる。
借金のどこがいい? 貸主に頭が上がらなくなり、利払いで汲々とし、精神的余裕が無くなって悪想念が出やすくなる。人は借金すると切羽詰まり、道徳水準が低くなるのに。
さて、のんびりモードはここまでにして、
こういう時こそ、すべきことをしておかないとな。
「ところで、ライナス、国民負担率の算出作業はしてくれているかな?」
「ああ、国民負担率ですね、関係各所に命じて調べているところです」
国民負担率とは、国民全体の所得(国民所得)に占める税金(国税・地方税)と社会保険料(年金・健康保険・介護保険など)の合計の割合で、日本は2025年度(令和7年度)の見込みで約46%となっているが、ロナンダル王国はどのぐらいだろうか?
国民負担率=税収(納税額)÷国民所得(国民の収入)×100
この国は社会保険料がなく、税収は、商人の金納、農民の物納、土地所有者の金納が主なので、分子の算出は簡単だ。問題は分母の国民所得、日本のように所得税がなく源泉徴収してないので、一人一人の所得は分からない。だが事業者である商人が提出するデータから、いくら賃金を支払っているか分かるので、それを集めれば算出することができる。ギルフォード商会とその系列商会は記録がしっかりしてるのでいい。だが……。
「ただ、ギルフォード商会とその系列商会以外は時間
がかかっています」
やはり、そうか。中にはアバウトな記載もあると聞いている。従業員に払う賃金は経費にできるので、申告書に書くものだが、記載漏れがあったり、過剰に書いたり、適当に書いたり、するからな。小さいところは事務負担も考慮し、目こぼししてきたが、そろそろやめにした方がいいな。昔はそこまでチェックできる体制が整っていなかったが、今ならそこまでチェックできる。
ちなみにライナスとリベルトには、ギルフォード商会の系列店の存在を当初から教えている。このことは能鷹戦略により外部には公開していないが、ギルフォード商会の本部がある、この国の王家には、教えておくべきと判断したものだ。特にライナスは、昔から僕やミローネと本音ベースで話をしてきたので、能鷹戦略をし始めた頃から情報共有している。
「これを機に税務申告の記載をより明確にするといいかもしれないな。
チェック体制を厳しくして」
こう言っておけば、ライナスはやってくれる。
「そうですね。そのようにします」
おっ、即答してくれた。ライナスもそう思っていたんだな。
「ところで父上、国民負担率を算出して、どう運用したら、
よろしいのでしょうか?」
最初に言ったはずだが、改めて聞いてきた。いいんじゃないか。ボタンの掛け違いを防ぐ意味でもこういう姿勢は大事だ。問われずとも、僕は何度も説明する質だが、こういう時、「同じことを二度と聞くな」と言う人がいたりする。確かにその場で何度も同じ質問をされたら、そう言ってもおかしくないが、一カ月、二カ月、間が空けば、聞いてもおかしくない。考えが変わる場合もあるし、情報がアップデートする場合だってあるからな。
それに念押しも必要だ。僕は自分の発言に責任を持つので、そういうことはないが、中には「そんなこと言ったっけ?」ととぼける者がいたりするからな。報・連・相と同様、定期的な確認は必要だ。報・連・相しても、したっきりで音沙汰なしじゃね。舌切り雀になってはいけない。外交では前回までの合意事項を確認するが、あれは国と国だけでなく、人と人でもやった方がいい。現世は、とぼける奴、誤魔化す奴、無かったように流す奴、しれっと違うことをしだす奴が多いから。
「国民負担率が大きければ、文字通り国民の負担が大きくなっている訳だから、
そうならないよう注意する。僕の予想ではおそらく10~15%ぐらいだ」
前世の先進国クラブとされるOECD加盟38か国において、国民負担率の最高はルクセンブルクの約89%、最低はメキシコの約22%だ。この数字が大きければ、高負担の国、小さければ低負担の国ということになる。
それにしても、ルクセンブルクは高い。9割ぐらい国に持っていかれるのに暴動も何も起きないのか。まぁそれは当然だよな。その分、手厚い保障があり高福祉なんだから。ルクセンブルクの面積は神奈川県ぐらいで、人口は約68万人という小国だが、一人あたりのGDPで世界二位だ。
2024年度のルクセンブルクの一人あたりのGDPは約13.7万ドル、円安の影響があるにせよ、日本は約3.3万ドルだから、その差は大きい。ちなみに世界一位はリヒテンシュタインで、約21万ドルだ。GDPなんて気にする必要はないが、一応、データは確認する。
よく日本を小国と言う人がいるが、日本は196か国中、61番目に面積が大きく、人口も1億2千万人いて上から12番目だ。まったく小国ではない。アメリカ、ロシア、中国と比べたら、規模が小さいが、あの三国は実質、複数の国が合併してるようなもの。それをいいことに大国風を吹かせて他国を威圧している。これを無くすには複数の国に分裂した方がいい。その方が世界のためだ。
ルクセンブルクに話を戻そう。GDPの高さは金融業によるもので、いわば他人(他国)の労働成果の分捕り。あまり褒められたものではない。それに、フランス、ドイツ、ベルギーなど周辺国から多くの人がルクセンブルクへ通勤し、その稼ぎがGDPにカウントされるが、ルクセンブルクの人口にはカウントされないため、一人当たりGDPの数値が実態以上に高くなるという誤魔化しがある。だから日本の何倍も裕福というわけでは決してない。
アメリカの国民負担率は約36%と日本より低いが、メキシコは約22%でさらに低い。低負担だから国民にとって楽だろうが、その代わり低福祉であり、貧困層は置いてけぼりの状況だ。
メキシコの救急車は、公共のものと民間のものが混在し、特にメキシコシティでは公的救急車が不足しているため、911番に電話しても民間救急が来ることが多く、有料となるケースがほとんどだ。ちなみに有料となった場合の料金は高額だ。
あくまで一例(概算)だが、搬送費は3,800ペソ≒(1ペソ5.19円)約19,760円。日本円にするとそう高額ではないように見えるが、メキシコの平均月収は約7,000ペソであり、月収の約半額だ。だからトラブルがもの凄いことになっている。なんで、そんなに高いかと言うと、反社勢力が関わっており、人の弱みに付け込み、「助けてほしければ金を払え」がまかり通っているからだ。
日本の国民負担率、約46%にしても、これをそのまま額面通りにとれない部分がある。何しろ日本は多額の累積赤字(国債発行残高)があり、それで見かけの負担を少なくしてるからな。これも一種の誤魔化しだ。スウェーデンは約55%だが、返済計画次第では日本もこれぐらいいくかもしれない。いや、もっとかも……。
日本は中福祉中負担の国ということになっているが、いずれ中福祉高負担の国になる未来が見えている。だが、これはどこの国も大なり小なり同様の傾向がある。先に楽をすれば後で苦しむのは仕方のないことだ。
この世を生きる人は楽(先楽)が苦(後苦)の原因となることをもっとしっかり認識した方がいい。先に楽をすればするほど後が苦しくなる。これは世の理だ。
まだ算出中だが、おそらくロナンダル王国は10~15%ぐらいと予想され、メキシコより、さらに低くなるだろう。この国では年金や保険などの社会保障料を徴収してないからな。その分、国民が自分で貯め、自分で備えてもらうことにしている。いわゆる小さな政府だね。国民がしっかりすれば、その分、政府の役割は減る。
日本人の感覚からすると、大変そうに見えるかもしれないが、勤務先から源泉徴収されず、全額、額面通り俸給をもらえ、物を買う際、消費税を取られず、相続税などもない。だから、普通に働けば、余剰が生じるはずで、日本よりずっと貯金しやすい環境だ。
ただ、事業所(商人)が稼いだ分を、日本の大企業のように内部に貯め込む等したら、抜けてしまうので、そうさせないよう、ホワイト労働基準で最低賃金を決め、税逃れなど、おかしなことをしないようチェックしている。
そうそう、最高賃金も決めた。従業員に払わず、経営陣がガメるのを防ぐためにね。利益が上がっているにもかかわらず、経営陣が高額報酬を受け取ることによって経費算入して、見かけの利益を減らし、税を逃れるなんてことはさせない。この世界は個人に対する所得税がないもので、その抜け道は塞いだ。
前世では一人で1兆ドル(約150兆円)もの報酬をせしめた経営者がいたが、一人でそんなにもらってどうする? なんだかんだ理屈を付けて正当化したんだろうが、どう考えても大き過ぎる。兆って何、兆って? チョーびっくりだ。それを個人でもらう? わけわからん。こういう経営者がいるから従業員は貧しいままで格差が広がる。この世界では、そんな業突く張りなことはさせない。
それと税逃れしたくても、この世界には前の世界のようなスキームはないからな。株式はないので株主はおらず、配当金を支払うことはできない。株式だけのダミー会社をつくって、そこに資金を還流させることももちろんできない。子会社をつくって資金操作しようにも、そもそも株式上の子会社は存在しないしね。日本の天下り法人などは、親会社から子会社に売上を分散したりして税逃れに励んでいたが、それも当然不可能。
前世は虚構経済が蔓延っていたが、その大きな理由のひとつに株式がある。実体とは別に、上がったり下がったり、こんな訳の分からないもので世の中が振り回されていた。株式の問題点は実体とは別に動きまわること。いきなり10倍の価値になったり、いきなり半分の価値になったりする。はっきり言って、これは博打と変わらない。
労せずに大金を稼ぐ者が現れたら、真面目に働くのが馬鹿らしくなり、民の労働意欲が減退してしまう。これは労働推奨政策を採る我が国にとって致命的なことだ。株で儲かった話が広がれば、自分も株で儲けたいという人が増え、みんな株をやり出すだろう。もし皆が皆、仕事を辞め、株だけで生活しようとしたら、社会は機能するだろうか? いいや、絶対に機能しない。株の儲けは他人の労働成果の横取りであり、多くの労働者の存在の上で成り立っている。労働こそが実業であり、株は虚業に過ぎない。
また、株式は配当金が付くため不労所得につながりやすいが、僕はこれを否定する。なぜなら、これも他人の労働成果を簒奪するものだからだ。それと、所有と経営の分離というのもね……聞こえはいいが、要は経営に関わっていない現場知らずの人物が、大手を振って経営に口を出すということだ。こんなことされたら現場が混乱する。
前世の株式市場では、ハゲタカやハイエナのようなファンドが餌を狙ってうごめいていた。彼らに狙われると、株を買い占められ、経営に口を出され、最悪、乗っ取られてしまう。乗っ取っても、長期的に経営する気はさらさらなく、適当にリストラして、見かけ上、立て直したように装い、それで株が上がった頃を見計らって叩き売るだけだ。その後、その企業がどうなろうが、彼らの知ったことではない。
株式に限らず、紙幣、債券、金券など、本来、価値のないものに価値を与える行為、いわゆる信用創造を僕は明確に否定する。これらが虚構経済を生みだし、世の中を乱す。だからすべての取引は実際に価値がある物同士の交換を基本とする。その際使うのが硬貨だが、硬貨はそれ自体に金属としての価値があり、信用創造にはあたらない。これも一種の物々交換と同じだ。
とにかく実体経済だけで回る世の中にし、虚構経済が入り込む隙を作らない。今のところ、この世界にそれはないが、引き続き、ずっと監視しないとな。というのも、前の世界と同様、この世界の人にも、しっかり欲があり、この欲こそが虚構経済を生み出す原因であることを知っているからだ。
人には、働きたくない、怠けたい、楽したい、という怠惰の性質があり、そこから、働かなくても、お金が手に入る方法を考えるようになり、それがさらに発展して、無からお金を生み出す信用創造に行き着くことを、僕は前世の歴史で学んだ。この世界でも油断すれば同じことが起こりうる。
無から有は生み出せるだろうか?
答えはNO。そんなことは絶対にあり得ない。僕のスキル【創造】にしたって、あらかじめ原料(素材)とエネルギー(魔力)が必要だ。それを元に再構成してるに過ぎない。信用創造でお金を作っても、それは既存のモノやサービスや労働と置き換わるだけであり、別に新たにモノやサービスや労働が生まれたわけではない。お金の価値が生まれたように錯覚されがちだが、お金が作られれば、その分、モノやサービスや労働の価値が下がる。
だから、無人島のように、モノやサービスや労働がないところで、大量にお金を作っても、交換するものがないから、何の価値もないことになる。つまり、お金だけでは何の価値もなく、信用創造は成立しないということだ。
信用創造が成立するには、モノやサービスや労働があることが前提だが、もう一つ重要かつ決定的な要素がある。それは作ったお金にモノやサービスや労働と交換するだけの価値があると大衆に信じ込ませることだ。普通に考えて紙切れに紙切れ以上の価値はない。それにそれ以上の価値があると信じ込ませるわけだから、これは限りなく詐欺に近い。
いや、詐欺じゃないでしょ。どの国もやっている合法的な行為だ。
来たね。自己ツッコミ。確かに前世のどの国もやっているし、それゆえ、それが当たり前の感覚になっているのは、よく分かる。だが、冷静によく考えてもらいたい。紙切れには紙切れの価値しかない。それを国が「価値がある」と決め、皆、そう信じ込まされている。だから、ある日、国が「価値がない」と決めれば、一瞬で価値が無くなってしまうだろう。信用創造とは砂上の楼閣のようなものだ。
合法的な行為? 国が法律を作っているんだから、自らの行為を合法とするのは火を見るよりも明らか。殺人は違法だが、国が死刑と判断すれば合法となる。別に国が決めたからといって、それが道徳的に正しいとは限らない。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。
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