第1791話 聖王料理3
続きです。
ひじきの納豆がらめがまだだったので、手際よく、ささっとつくる。
ひじきと納豆を混ぜて、醤油と昆布だしで味を付ければ、出来上がり。
納豆に抵抗がある人も、ひじきを加えることによって、納豆っぽさ(見た目・臭い・舌触り)が弱まるのでお勧め。また、ひじきは、カルシウム、鉄分、マグネシウムなどが豊富で、納豆に不足する栄養素を補ってくれる。
ごはんも炊けたし、これで全メニュー完成だ。
「陛下、できましたね」
「うむ、手伝ってくれて、ありがとう」
「いえ、こちらも勉強になりました」
「じゃあ、皿に盛りつけていこう」
今回は和食なので、漆塗りの木製食器が用意されている。料理は作って終わりではない。皿に盛りつけて並べないとな。特に和食は見た目が大事。綺麗に盛り付ければ、それだけで味が一段と良くなる。テーブルに運んでもらうのは皆に手伝ってもらおう。
「みんな、料理をテーブルに運ぶのを手伝ってくれるかい」
「「「「は~~い」」」」
妃たちが立ち上がり、料理をテーブルに運んでいく。根が王族のメリッサも普通にやってくれるのが嬉しい。こういう体験は人生にとって有益であり、彼女もそれを理解してるのだろう。食が自分の口に届くまで、実に多くの人の手が関わっている。自分でその一部を行えば、想像しやすくなるはずだ。
作物を育ててくれた人、状態をチェックしてくれた人、運んでくれた人、売ってくれた人、買い物にいってくれた人、料理をしてくれた人など、多くの人のお陰で僕らは食を頂くことができる。
「料理長、僕らも一緒に食べよう」
「かしこまりました」
料理人は作るだけでなく、ちゃんと味も確認しないとな。
よし、配膳が済んだ。僕らも席に座ろう。
ふふ、待ちに待った食事タイムだ。と、その前に、
「じゃあ、食の祈りをしよう」
僕の掛け声に従い、皆、胸の前で両手を組む。
これは教会のお祈りと同じポーズだ。一呼吸置いて、
「「「貴重な命を頂き、申し訳ございませんでした。どうか来世において幸せで
ありますように。命を繋ぐ糧となって頂き、ありがとうございます」」」
皆で声を合わせ、お祈りを唱える。何度もやってるから一度で声がそろう。
「「「いただきます」」」
さあ、食べよう。今唱えた「食の祈り」は、
(謝罪)貴重な命を頂き、申し訳ございませんでした。
(供養)どうか来世において幸せでありますように。
(感謝)命を繋ぐ糧となって頂き、ありがとうございます。
という、三つの意味があり、命に真正面から向き合うものだ。食べ物を物としてではなく、命として捉える。そうすれば自然と重みを実感し、このような気持ちが生じるものだ。僕らは命を食べている。食べることは殺生(悪行)にあたるが、生きるためなので必要悪となる。
だが、必要悪と言っても、「あたりまえ」のこととして捉えるのは違う。僕らの命は他の命の犠牲の上に成り立っている。毎食、その事実を認識し、犠牲になった命に対し、謝罪し、供養し、感謝することは大切だ。有難いことであり、「ありがとう」の気持ちが必要だ。
ただ、命を奪われた生き物の立場を慮れば、「ありがとう」だけでは足りない。想像するといい。仮に自分が何者かに食べられて、「ありがとう」で済むか?
たった一つしかないかけがえのない命を奪われて、感謝だけでは物足りない。
そこには謝罪と供養もあってしかるべきだ。
謝罪というと、重く悪いイメージを持たれがちだが、これにより罪が解消されるため、その性質は善想念である。罪を犯し、どーんと沈み込む罪悪案は悪想念寄りだが、謝罪がそれを解消してくれる。謝罪しない人はいつまでもカルマを背負ったまま、カルマの重みから解消されたければ、謝罪しなければならない。
悪いことをしたら謝る。
実に当然の話だが、その当然のことが意外にできていない。
僕らは過去世で感謝と謝罪を十分してこなかった。
だから、ここにいる。感謝は善想念っぽいので、する人は多いが、
間違った理解により、謝罪を避ける人が多いのは気になる。
謝ったら負け? 馬鹿を言うな。謝ったら勝ちだ。
そこだけ切り取ると敗者のように見えるが、人生の勝利者となる。
謝ることによって罪人になるのではなく、
謝ることによって罪人でなくなるのだ。
謝った人は先を進み、謝らない人はその場でずっと足踏みすることになる。
この瞬間だけは真摯な態度で臨む。だが、その気持ちをずっと引きずることはしない。食事中は気持ちを切り替え、明るく楽しい時間を過ごす。日本の善寺などでは、食事も修行とされ、その間、無言で黙々食べるが、そこまではしない。
人生は修行だが、いかにも修行してるぞ、という必死な感じのスタイルは取らない。修行ではない感じで修行するのがいい。必要以上に、力まず、焦らず、重くなく、義務感を持たず、自然体で無理なく修行していきたい。
努力もそう。努力してるぞ、と気張るのではなく、努力してないように努力するのがいい。善行と同じで、意識して「ほら、やってるだろ」と思いながら、やってるうちは、まだまだ本物ではない。いかにも、やってます、は、本当は、やってない。やってるように見せてるだけ。
今回のメニューはこれ。
・ごはん
・かぼちゃのスープ
・里芋の煮っころがし
・ひじきの納豆がらめ
・海苔と大根のサラダ
・大根、にんじん、ごぼうのきんぴら
・こんにゃくステーキ
和のヴィーガン食で、食器も和式を使用している。ごはんを食べるよう
になってから、和食は度々出ており、皆、箸を器用に扱えている。
「どれから食べてもいいが、とりあえず、海苔と大根のサラダだな」
メリッサが口を開く。
「サラダは前菜ですものね」
「そうそう。なぜサラダを先に食べるかというと、サラダには食物繊維が豊富に含まれているから、腸に入るとそれが余分なものを絡めとって取ってくれるんだ。先に食べると先に腸内に入って、食物繊維が網のように広がってくれるから都合がいい。食物繊維は消化酵素で分解されずに腸まで届くんだ。今回の場合、どの料理も食物繊維が豊富だから、あまり気にしなくてもいいが、一応ね」
テネシアが口を開く。
「食物繊維といったら、きんぴらも多そうだね」
「そうだね。これも食物繊維のかたまりだ。あと、食物繊維は腸で栄養の吸収を阻害するから、血糖値の上昇を抑える働きがあり、また腸内の善玉菌の餌にもなる。さらに、かさ増しで満腹感をもたらし、食べ過ぎ防止にもなる」
パネルを提示する。
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食物繊維の主な働き
・血糖値の抑制
糖の吸収を穏やかにし、食後の血糖値の急激な上昇を抑える
・コレステロール低下
脂質を吸着して体外への排出を助け、血中コレステロール値を下げる
・満腹感の持続
胃の中で膨らみ、食べ過ぎを防ぐ
・腸内環境の改善
腸内の善玉菌のエサとなり、善玉菌を増やす(水溶性食物繊維)
・整腸作用
食べ物のカサを増やし、腸のぜん動運動を促して
便秘を予防・改善する
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「食物繊維はそれ自体、栄養が無いにもかかわらず、健康にいい働きをするから、第6の栄養素と呼ばれるんだ。ちなみにその前にくる5つの栄養素は分かるかな?」
イレーネが答える。
「炭水化物、たんぱく質、脂質、ビタミン、ミネラル、ですか?」
「おお、そうそう、よく覚えているね」
僕は食事中、よく栄養や健康の話をするが、
それをちゃんと聞いてくれていたということだな。
ミアが口を開く。
「こんにゃくステーキ、肉っぽい感じがしますね。
肉じゃないのに面白いです」
「ふふ、だろ、見た目と味付けをそれっぽくしたからな」
味付けに使ったニンニクはオリエンタルヴィーガンが避ける五葷の食材だが、健康効果が高いので僕は避けていない。ニンニクを食べると肉を思い出して、肉を食べたくなるという考えもあるが、逆にこれで肉を食べたような気がして、肉を食べなくて済むとも考えもある。
焼き肉のたれは、醤油、みりん、砂糖、ごま油、にんにく、生姜、りんご果汁、レモン果汁など、動物性の素材を使わなくても作ることができるが、これを野菜炒めの調味料に使えば、肉を食べたかのような感覚を持つことができる。
よく、焼き肉を食べてパワーを付ける、と言ったりするが、実際は肉を食べても、パワーは付かない。むしろ疲れやすくなる。パワーが付くのは、一緒にニンニクやニラを食べるからだ。その昔、とある日本のプロ野球選手がパワーをつけるため、毎日のように焼き肉を食べたが、成績が伸び悩み、心機一転、焼き肉を減らし、納豆や野菜を多く摂るようになったら、成績が上がったということがある。
肉ばかりでは体が壊れてしまう。肉を食べるなら、その3倍の野菜を食べないと。重さに換算すると、1日あたり肉200g、野菜350gが目安で、重さだと1.5倍になるが、野菜は料理で縮むので、その倍、つまり見た目、3倍ぐらいが丁度いい、ということになる。このバランスを崩し、肉が過多になると、腸内環境が悪くなり、体調も悪くなる。
だが、実際のところ、毎日3倍は大変だ。そこでお勧めなのが、肉から大豆(加工食品)への転換。こうすれば、肉の量が減るので、3倍要件は緩和される。これはあくまで個人差があるが、体調と相談しながら、自分にとって丁度いい量や比率を見つければいい。
「デザートはあるの?」
テネシアが訊ねてきた。
そう言えば、出していなかった。
「じゃあ、ぶどうを出してあげる。最後にね」
「最後か、それも意味があるんだよね」
「そう、最初にサラダを食べるのは、食物繊維の多いものを食べて血糖値の上昇を抑えるため、最後にデザートを食べるのもそう。糖分の多いものを後にすると、先に食べた食物繊維が糖分を絡めとってくれるので、糖分の吸収が緩やかになる」
「じゃあ、いきなりデザートを食べたら、健康に良くないってことだね」
「そういうこと。すきっ腹で甘いものを食べたら、血糖値がドーンと上がり、
体に負担がかかる」
あと、皆にこれも言っておくか。
「甘味の正体は糖分であり、糖分は体に必要ではあるが、オーバー摂取になるリスクが高いから、日常的に控えるべきだ。それには自然本来の甘味に満足できる舌をつくることだ。デザートでなくても、それぞれの料理に甘味が含まれているから、それを味わえるようにしよう。最初にデザートを摂ると、それで味覚が麻痺して、甘味を感じられなくなるから良くない。健康のためには極力デザートを少なく摂り、摂るにしても、最後のタイミングがいい」
舌の味覚は、特定の味が続くと、感度が落ちてくる。だから、甘いものが続くと、甘く感じなくなり、より甘いものを欲しくなってしまう。だから、甘いものを食べるなら、最後にちょこっとがいい。
「果物を摂る際は、ジュースより、そのままの方が健康にいい。ジュースにすると、搾りかすが出るだろ。あれにも栄養が含まれているし、食物繊維が豊富だから、それなしで摂ると、栄養が偏り、かつ血糖値の上昇が大きくなる。ぶどうの皮には、アントシアニン、レスベラトロールなどのポリフェノール、食物繊維、カリウム、葉酸などが豊富に含まれ、強力な抗酸化作用によるアンチエイジングや生活習慣病予防、美肌効果、腸内環境改善、むくみ解消などが期待できるから、捨てるなんてことはしない」
特にレスベラトロールは、強力な抗酸化作用と抗炎症作用を持ち、アンチエイジング、シミ・シワ予防、美白・弾力改善、血流促進による肌のくすみ改善、動脈硬化予防、生活習慣病予防、疲労回復、認知機能低下抑制など、美容と健康に多岐にわたる効果が期待される成分だ。長寿に関わるサーチュイン遺伝子を活性化させ、細胞の修復や若返りを促してくれるので意識して摂取したい。
ミアが口を開く。
「一物全体食ですね」
「そう、一物全体食は命に対する敬意を表すものだが、栄養面でも合理的
だからね。一部を食べるより全体を食べた方が多くの栄養を摂れる」
サーチュイン遺伝子を活性化する食べ物は、ぶどうの他、ピーナッツ、アーモンド、カカオ、緑茶、蕎麦、セロリ、ケール、大豆、いちご、くるみなどがあり、これらは「サートフード」と呼ばれている。
但し、ぶどうは皮、ピーナッツ、アーモンドは薄皮にレスベラトロールが多く含まれているので、これを捨てると、アンチエイジング効果が大幅に失われる。美食を重んじ、口当たりのいい美味しいところだけ食べると健康を損なうということだ。
ぶどうと言えば、グルメ大国フランスはアルコールと動物性脂肪の摂取量が多いのに、心疾患死亡率が低いことから、フレンチ・パラドックスとして知られているが、これはフランス人がよく飲む赤ワインに理由があるとされている。赤ワインはぶどうを皮ごと使って作るが、それにより、レスベラトロールを多く摂り、アルコールと動物性脂肪による健康被害をカバーしてるのだろう。
ジャンヌ・カルマンさんという人がかつていた。
この人は人類史上もっとも長生きしたとされるフランス人女性で、122才まで生き、ギネス記録にも認定されている。85才でフェンシングを始め、100才を越えても自転車に乗るなど活動的で、打たれ強い性格だったらしいが、煙草も吸い、特別な食事制限はしていなかったとか。彼女はワインの産地(南部プロヴァンス地方のアルル)で生まれ、赤ワインとチョコレートを好んで摂っていたという。
アルコールもカフェインも砂糖も摂りながら、ここまで長生きしたのは驚異的だが、個人的特性によるものも大きいだろう。もし、赤ワインではなく、ぶどうを、チョコレートではなく、カカオを、そのまま摂っていたら、もっと長生きしていたかもしれない。もちろん、煙草も吸わないでね。だが、そうすると、この人の場合、人生の満足度、生きる気力が減り、逆に長生きできなかったかもしれない。一般的に健康にいいことも、人によっては、そうでない場合もあるだろうからね。その逆もしかり。
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