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第1777話 納税

 関連回

 第1091話 ギルフォード農場8~現在~

 第1168話 聖王城の来訪者

 第1173話 村から町へ昇格

 第1269話 税と不動産

 第1270話 税と不動産2

 ここはマクベ町のギルフォード農場近くの倉庫の中。

 収穫後の作物が積み上がっている光景は圧巻だが、

 それを横目に関係者立ち合いの下、納税手続きをしているところだ。


 この収穫物は農作業の付録と言えるが、ここが高級霊界ならきっと農作業だけで満足するだろう。だが、ここは現世、食わねば生きていけない。武士は食わねど高楊枝、という訳にはいかないのだ。だから付録が存在する意味がある。労働や商売で得るお金もそう。現世では付録が必要だ。


 付録を過度に意識せず、執着しないことが大事だが、

 得た分は知足安分のことわりの下、感謝して使わせてもらう。


「買取はこちらの分でお願いします」

「こちらですね。ちょっと確認させて下さい」


 行政長官のリミアがギルフォード商会の仕入担当と打合せする。

 いつものことなので二人とも慣れたものだ。


「今回もモノがいいですね」

「そう言って頂けると嬉しいです」


 納税なのに、なぜギルフォード商会が?

 となるかもしれないが、これにはちゃんと訳がある。


 農家の税は収穫した作物による物納であり、それを徴税官が徴収するが、現在、出来高の2~3割を納めることになっている。それが町村に集まり、領に集まり、最終的に国に集まるわけだが、その経路通りに作物を移動させたら、その間に作物が傷み、価値が落ちてしまう。


 だから、そうならないよう、出来立ての作物を一番良い状態でギルフォード商会に買ってもらい、大部分は現金で納めることにしているのだ。こうすれば納税が大幅に楽になる。せっかく現金という制度があるのにそれを活用しないのは有り得ないからね。


 ただ、全部売るとそれはそれでマズいので、町村、領、国において現物で持ちたい分をあらかじめ決めて置き、その分は現物を各所に直送することになっている。


 農家 → 町村 → 領 → 国


 原則的な税の流れはこの通りとなっているが、実際はこう。


 農家 →(町村・領・国)


 町村、領、国に対し、同時に行くようにした。しかも多くを現金の形にしてね。現金といっても、現物の現金ではなく、今はギルフォード商会の資金保管口座への振込なので、現金輸送するなんてことはない。国も領も町村もそれぞれ口座を持っており、それで楽々手続き完了だ。


 昔は原則通りだったものだから、小麦など長期保存に耐えられる作物だけが納税対象となり、農家の税負担が大きくなる傾向にあったが、今は商会がすぐ買い付け、現金化できるため、ほとんどの作物が納税対象となり、農家の税負担を減らすことができている。


 もともと農家は小麦以外の作物もつくってはいたが、納税できなかったり、できても低い価値で扱われたため、その分、納める割合が多くなり(取り分が少なくなり)、つくり損になることが多かった。


 でも今は違う。適正な価値で扱われる。そして、このことが庶民の食生活にも大きな影響を与えている。昔は小麦偏重の食生活(パンばかり)により、栄養が偏りがちだったが、今は季節ごとに様々な野菜が食べられるようになり、かなり食生活が豊かになった。これができるのもギルフォード商会の資金力の賜物だ。この時期になると、つくづく商会をつくり、ここまで規模を大きくして良かったと思う。小さな商会では、こんな芸当はとてもじゃないができない。


「この分を飛行船に積んでくれ」

「「「はい」」」


 商会の仕入担当者が買い付けた作物を、商会の物流担当者が飛行船に積むよう部下に指示する。これは本店の倉庫に収められるが、そこは収納スキルが付与されているので腐ることはない。そこから支店に運ばれ、数日後には店先に並ぶ。


 各支店も近隣に独自の仕入先を持っているが、契約は本部が一括して行っており、商品の質や価格などは統一の基準を設けている。だから、どこの店で買っても商品が同じなら、質や価格もだいたい同じになる。


「それでは、こちらは国で徴収します」

「承知しました」


 リミアの確認を受けて、今度は国の徴税官が作物を飛行船に積んでいく。国にも収納スキルが付与されている倉庫があるので、大量に作物をストックできる。既に10年分保存しているから、どんな大きな災害が起きても民を飢えさせることはない。有事に備えるようライナスに言ってきた成果が実を結んでいる。


 10年保存も急にやったわけでなく、毎年、少しずつ増やしたら自然とこうなった。今は自然災害も戦争もなく、平和な時代が続いているからね。やろうと思えば、もっと増やせるが、あまり増やして退蔵させてもマズいので、今ぐらいで抑えている。


「バンテ町長、領の取り分はこちらでいいですね?」

「はい、リミア長官」


 リミアとバンテが領と町の取り分を確認する。領の分はこのままここに置いておけばいいから移動する必要はない。これで一通り納税手続きは終わった。


 が、最後に――


「リミア長官、城の分を頂いて構わないかな?」

「はい、もちろんです。聖王陛下」


 領で徴収した分から、一部を城で頂戴する。城の食料用にね。城には住み込み、泊まり込みで働いている人が多く、基本三食付きだから結構な量となる。


「それじゃ、メリッサ頼むよ」

「わかりました。ここに置いてある分ね」


 メリッサが農作物に意識を集中する。うん、いい感じだ。


「【収納】!」


 城用の農作物がその場から消える。


「うん、できたね」

「ふふ、うまくいきました」


 メリッサは城の管理をしており、食料の管理をもそれに含まれる。そして、城の食料を回収する際は収納スキルを使うようにしてきた。収納スキルは僕の他、メリッサ、テネシア、イレーネ、ミア、レネア、タイタスが使える。彼らは僕と収納を共有してるので、その容量は相当な大きさとなっている。積み上がった農作物の山でも、一回で回収できる。


「わっ、凄い、消えた!?」

「王太后殿下のお力!?」


 僕と妃に特別な力があることは関係者の知るところだが、この場にいた数人の徴税官(若手)が驚いている。知っていても見たのは始めてっぽいな。百聞は一見に如かずか、ふふふ。


 昔は納税されると領主がまるで自分のモノであるかのように全部受け取り、そこから好き勝手に配分していたが、それでは不正が起きるのは当然だ。今は領に地方行政庁をつくり、そこが税を受け取り、そこから領主が配分を受ける形に改めている。領主の収入も俸給制にし、地方行政庁から支給される仕組みだ。


 僕は領主としてリミアのいる行政庁をチェックするが、実は行政庁も僕をチェックしてると言えるんだよな。でも、これでいい。上司が部下をチェックし、部下も上司をチェックするのが健全な組織だ。僕自身チェックされて困るようなことは何一つしていないからな。


 昔は領と領主がごっちゃのざる勘定だったが、今は領を法人、領主を個人と明確に区分し、会計と財産もそれぞれ別になっている。リミアは領の、メリッサは城の、会計と財産を取り扱い、管理しているが、重複せず、うまく機能している。


 実はこれ、国もそう。地方の行政改革をする際、合わせて国も、国(法人)と王家(個人)と明確に区分し、曖昧だったところをきちんと線引きした。これがスムーズにできたのも僕(地方)とライナス(国)が普段から十分コミュニケーションを取り、それが全体にとって望ましいことを共有してきたからだ。この手法が連邦事務局を通じて各国に伝播し、今はどの国もそうなっている。


 税には、農家からの物納の他、商人からの金納、土地所有者からの金納があり、この三本柱が基本となっている。以前はこれに加え、関税や通行税があったが、連邦体制になり、連邦内での取引で関税や通行税を廃止したので、事実上なくなっている。聖帝国との間の貿易も非関税だ。日本と違い、消費税も所得税も相続税も社会保険料もない。源泉徴収されることなく、働いて稼いだお金はそのまま全額貰えるし、物を買っても税の加算はない。貯めたお金は全額家族に相続できる。


 どうだい、控えめに言っても最高でしょ?

 税はシンプルでわかりやすいことが基本だが、それを忠実に実行している。

 

 ここでは日本のように複雑怪奇な税制度は存在しない。

 あれって誰得?って話だよな。

 多くの国民はあんな形を望んでいないんじゃないかな。


 この世界の税制度は僕が来る前からそうだったが、これに関してはこのままの方がベターだと思い、維持している。所得税は働いた分から税を取るのでは労働意欲を削いでしまうし、消費税は買う分から税を取るので消費意欲を削いでしまう。労働意欲を削ぎ、消費意欲を削いだら、経済が回らない。少し考えれば分かる話だ。


 今の日本では、働く度にかなりの金額を源泉徴収され、ものを買う度に10%の消費税がかかる。それ以外にも何かにつけ、いろいろ税がついてまわる。あれでは国が庶民の財布を狙っているようなものであり、庶民が財布の口を固くするのも当然のことだろう。その状態で経済が回るわけがない。


 それと社会保険料だが、国に取られて国に面倒をみてもらうなら、自分で貯め、自分の面倒は自分でみた方がいい。その方がすっきりして分かりやすいし、そもそも間に国が入る必要性を感じない。国にお金を預けても、余計なことに使われて、食い荒らされるだけだ。


 今のロナンダル王国なら、そんなことはないだろうが、それが永遠に続くかは保証できない。将来に禍根を残す可能性が少しでもあるなら、やらない方がいい、というのが僕の考えだ。僕がいる間はまだしも、いなくなった後のことまで永遠に責任を負えないからね。


 自分が責任を負えないことはするべきではない。

 

 これはすべての行動原理の基本だ。

 余計なカルマを積まない生き方でもある。


 相続税は少し思案したが、これは国が金持ちからお金を回収して、貧しい人に分配するという再分配の考えで、国がやるより富裕層が自らやる方が望ましいという判断に至った。再分配というと聞こえはいいが、はっきり言って国が富裕層からお金を奪い、庶民にばらまくものだから、あまり良い感じがしない。それより富裕層が自発的に買い物をしたり、人を雇うなどしてお金を使い、経済を回してもらう方が余程いい。税を徴収するにしても配るにしても経費がかかるが、この方法なら余計な経費をかけないで済む。


 それに本格的に相続税を導入するとなると、王家や貴族や富裕層への影響がとんでもないからね。「金持ちから金を取れ」というのは庶民受けするかもしれないが、彼らだって、その地位を得るため、維持するために人並み以上の苦労があったはずだ。だから彼らにヘイトを向けて正義のヒーロー気取りはしない。


 前世でもいたよな……やたら大企業を敵視する政治家たちが……。


 彼らの主張によると、日本を悪くしてるのは、大企業であり、自衛隊であり、アメリカ軍であり、天皇制であり、日の丸であり、君が代であり、これらを排除すれば、日本が良くなるかのようにうそぶいていた。そんなわけあるか。


 人並み以上の知性があれば、

 これがいかに馬鹿げた主張か分かるだろう。

 これらはすべて日本弱体化政策である。


 大企業に問題があることは確かだが、彼らが日本から去ったら日本の経済は瞬く間に崩壊する。資源のない日本で皆が飢えずに暮らせていけるのは彼らのお陰だ。自衛隊やアメリカ軍もそう。無くなったら、日本の防衛体制は崩壊し、外国から侵略され放題になってしまう。近隣に日本の領土を虎視眈々と狙う覇権主義国があるのに、その選択肢は有り得ない。そして、天皇制、日の丸、君が代が無くなったら、日本人のアイデンティティが消え、日本人が日本人でなくなってしまう。


 このような主張を恥も外聞もなく堂々する人物が議員バッチを付けていることに現代日本の問題が如実に表れている。チャーチルは「20才の時にリベラルでないなら情熱が足りない。40才の時に保守主義でないなら思慮が足りない」と言ったが、いい年をして理想ばかり追い、現実を無視して自分の見たいものしか見ないのでは害が大きい。


 こういう人たちは富の公平を掲げ、富の再分配を主張するが、それは努力してお金を稼いだ人からお金を取り上げ、怠けてお金を持ってない人にお金を配る面が多分にある。努力したくても努力できない社会的弱者に対してはある程度工面が必要だが、そうでない単なる怠け者にお金を配れば、努力する人のやる気が失せてしまう。そして、努力してもしなくても同待遇ということであれば、皆、努力しなくなってしまうだろう。そうして破綻した国が現にある。歴史に学ばないと。


 ある日、宇宙人が地球に来て、この星の富の偏在を憂い、強制的に皆の富を公平に配分したとしよう。この瞬間、金持ちも貧乏人もいなくなり、皆、同じ額のお金を持ったとする。これでメデタシ、メデタシ……ということなく、30分後には不均衡が表れ、一か月、一年と時間経過とともに格差が大きくなり、数年後には元の状態になるだろう。


 誰かが強制的に富を公平に配分しても、それは絶対に長続きしない。なぜか? それは人に「他人より多く持ちたい」という願望があるからだ。中には反対に「自分はそこそこで十分」「まったく持たなくていい」という人もいる。人はそれぞれ個性があり、考えがあり、ライフスタイルがあり、それを無視して、富の公平化(再分配)をしても徒労に終わる。


 苦労したアリは後で悠々自適に暮らし、

 怠けたキリギリスは後で悲惨な目に遭う。


 これは自業自得、因果の法則によるものだ。結果の平等にこだわる人がいるが、原因が違えば、結果が違うの当たり前。それを捻じ曲げようとしても、できるものではない。キリギリスが悲惨な目に遭っているところだけ切り取って焦点を当てれば、不条理に見えるだろうが、全体を見れば不条理ではない。


 一部切り取りの「可哀そう」は真実を見誤る。


 例えば、日本では外国人が不動産を借りる場合、日本人より審査が厳しいが、それを持って「可哀そうだ」は当たらない。外国人は身元保証が難しく、滞納したり、夜中に仲間を呼んで騒いだり、ごみの分別をしないなどトラブルが多い現実がある。そこをまったく見ないで「可哀そう」はないだろう。本当にそう思うなら、その人が自分の家に住まわせればいい。


 安全なポジションから好き勝手に言うのは無責任だ。十善戒には、不妄語(世を惑わす妄言を言わない)、不綺語(虚飾に満ちたことを言わない)、不悪口(人を傷つけることを言わない)、不両舌(筋の通らないことを言わない)があるが、これに該当すれば業を積むことになる。


 熊を駆除したら「可哀そう」というのもそう。被害の状況を知っているのだろうか。2025年の4~11月で負傷者217人、死者13人となっている。これはあくまで人的被害であり、これ以外に、自宅に侵入されたり、畑を荒らされたり、物を壊されたり、などの被害も加えたら、相当な数にのぼるだろう。


 別に熊に恨みはなく、山で大人しく生活するなら問題視しない。だが、人の生活圏に継続的に出没し、人の命や安全や財産を脅かすなら、その限りにない。「可哀そう」という気持ちは分かるが、駆除しないと、それこそ人が「可哀そう」なことになる。駆除される場面だけ切り取るのではなく、全体で判断しないと。


 熊と軽々しく共存というが、熊は体が大きく、力も強く、しかも動きも速く、人の手に負える生き物ではない。テディベアの人形や、プーさんやくまモンのキャラの影響で、可愛らしいイメージを持たれがちだが、実際は全然違う。獰猛な生き物で、腹をすかしていたら人も平気で襲う。


「外国人が可哀そう」「熊が可哀そう」も同じような構造かもしれない。

 そこには「一般の日本人は可哀そうではない」という思考が透けて見える。


 ちなみに、くまモンは熊本県のマスコットキャラクターだが、九州には熊はおらず、熊本県にも熊はいない。九州で最後に熊を確認したのは1957年で、環境省が2012年に絶滅宣言をしている。絶命した理由は九州の山は照葉樹林(人工林)が多く、ツキノワグマが好むブナなどの落葉樹林(天然林)が少ないため、餌の確保が困難ということもあるが、九州は雪が少なく、冬眠中の捕獲が容易だったことが大きいだろう。


 明治から昭和初期にかけて、熊は狩猟の対象として盛んに捕獲された。熊の毛皮は防寒着として、肉は食用として、さらに内臓は薬用として高い需要があった。特に熊の胆(くまのい)は漢方薬として珍重され、高値で取引されていた。


 これにより日本各地の熊は減少し、やがて保護政策に転じるが、九州はそうなる前に個体群が消滅したのだ。その代わり、天敵のいなくなったシカやイノシシの増加が深刻で、農林業への影響が問題視されている。


 つくづく野生動物の管理は大変だ。というか、そもそも人が管理できる性質のものじゃないしな。とにかく人里に来させないよう対策を取るしかない。それには、人が怖い生き物だと認識させる必要がある。人里に入ったら殺されるぐらい怖い存在だとね。餌付けなどとんでもない話だ。そういうのは「優しい」とは言わない。周辺住民を危険に晒しているだけだ。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。

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