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第1771話 番頭カイン8

 続きです。

 ここはダルト王国の王城。

 国の中枢となる栄えある建物だが、ここが僕の家でもある。

 商会では番頭の僕が、ここでは第二王子だ。


「やはり、みんな揃うといいものだね」

 

 食事の間で家族四人(両親、兄上、僕)で同じテーブルを囲み、晩餐をしていたら、上座に座る父上が上機嫌に声を上げた。父上は国王だが、平民出身であり、今でもその意識は変わらず、格式ばったところはほとんどない。そんな父上を僕は好ましく思う。


「このところカインは忙しかったですからね」


 すかさず母上が答えてくれたが、確かにそう。この間、休日を除いて家族と晩餐を共にすることがなかったもんな。母上はともかく、父上には心配をかけたことだろう。遅番だと帰宅は9時過ぎになるからな。この時間だと定時(7時)の晩餐に間に合わない。


「すみません。仕事が立て込んでいたものですから」

「そんなに忙しかったのか?」

「はい、父上、ただ、自分が望んだことですので」


 これは本当のこと。ハバロンさんのためだが、同時に自分のためでもある。食料品フロアのチーフは是非にもやってみたかった仕事であり、密の濃い経験を積むことができた。自己客観視すると、僕は若くして出世してるから、中には面白く思わない人もいることだろう。そういう人たちの気持ちを改善するには仕事で頑張るのが一番だ。人は頑張っている人を悪く思わないものだから。


 実際、この期間中、店で最大人数を占める食品フロアの店員たちと交流を深め、我ながら株が上がったと感じている。その波及効果で他のフロアの店員たちも挨拶をよくしてくれるようになった。


 要領良く、楽してすいすい上にあがる人を人は好ましく思わないもの。嫉妬心もあるだろうが、そればかりじゃない。純粋にそういう状態を宜しく思わないというのもある。僕自身その気持ちがあるから、よく分かる。これは嫉妬心とは違う。


 人は根っこの部分で、楽に上にいくことを成長にならないと感じ、忌避する部分があるのだろう。楽に上にいきたいという気持ちを制御するようにその気持ちがある。楽をしたい、楽をするべきでない、一人の人間の中に相反する二つの気持ちがあり、やじろべえのように左右に揺れる。 


「ですが、忙しい時期は過ぎましたので、これからはゆっくりできます」


 ハバロンさんが休み明け、復帰したからね。行く前より表情が柔らかくなり、英気を養ったのが見てとれる。僕の方で気付いた点をレポートでまとめ、手渡ししたが、今後、活かしてくれると嬉しい。器が小さければ、年下の意見など聞けないだろうが、ハバロンさんにはその器があるはずだ。僕にしっかりお礼をしてくれた。


「そうか、それは良かった」


 父上が微笑む。

 現在、父上は兄上を後継者として仕事を教え、引き継いでいる最中だが、

 僕のことも気にかけてくれている。これは素直に嬉しい。 


 その様子を見て、兄上が口を開く。


「カイン、無理をするなよ」

「はい、兄上、無理はしないようにします」


 無理をするなよ、か……だが、そういう兄上だって、精力的に仕事をし、時には無理っぽいことをしている。たぶん、僕に言いつつ、自分に向けた言葉なんだろう。場の雰囲気を重んじ、一々反論しないが、僕は18、兄上は24,お互い多少の無理ができる年代だ。おじい様は「若い時の苦労は買ってもせよ」と言われているが、たぶん真実なんだろう。多少の無理ができるのが若者の特権、であれば使わない手はない。


「ところで、カインの方の引継ぎは順調なのかい?」


 父上が母上に訊ねる。兄上の方と違って、僕の方は判りづらいからな。兄上は王太子となり、父上について引継ぎを行っているが、僕はそういう形ではない。仕事中、母上と一緒の時間はまったくなく、商会に関する話題を城で少しするぐらい。むしろ商会に入る前の方が商会についてたくさん話をしてくれた。


「引継ぎ以前の問題で、それができる状態までカインに上がってもらう

 必要がありますから、簡単にいきませんよ。あなた」


 母上の言う通り。いきなりポンと重役にする訳にはいかない。

 それは僕自身がよく分かっている。


「じゃあ、当分、本格的に引継ぎはできないということか?」


「なんですけど、今、カインがしてることがもう引継ぎの一部になっているんですよ。だから、このまま上までこれたら、引継ぎの7割ぐらいは済ましたようなものです。今の経験が血肉になるんですよ」


「そういうものなのかい」

「ええ、私がそうでしたから」


 母上ご自身が末端から頂上まで上がった人だから説得力がある。特に母上の場合「あの」おじい様から引き継いだ訳だから、周囲のプレッシャーが半端なかっただろう。母上も相当優秀な方で仕事ができる方だが、おじい様は規格外だからな。


 だけど、おじい様自身がその状態を良しとしていなかった。規格外の自分が商会を動かすことを。だから、規格外の自分ではなく、規格内の母上が動かす組織へ改めていった。僕も規格内だから、これは僕にとっても有難い。


 規格内は努力や頑張りで到達できる可能性がある領域だが、規格外はそれで到達できる可能性がない領域だ。母上のようになれと言われたら、頑張って目指せるが、おじい様のようになれと言われたら、無理って裸足で逃げだしただろう。


 父上と母上の話は続く。


「商会は実力主義だっけ?」

「ええ、そうなんですよ。だから、本人の実力がないと上にいけません」


 これはまったくもってその通り。

 商会において年齢や性別や身分など個人の属性はまったく関係ない。

 仕事ができるかどうかの実力で昇進が決まる。


「実力ということは売上をあげればいいと?」


「いえ、それはひとつの指標に過ぎません。まわりとの協調性、指導力、

 業務の正確さ、お客さんの評判、アフター対応など、総合的に判断します」


「なかなか大変なんだな」

「ええ、その試練を乗り越えてこそ、後継者になれるんです」

「そうか、カインは頑張っているんだな」


 父上が優しい眼差しを僕に向ける。実はこのあたりの説明はこれまで家族の中ではあまりされてこなかった。というのも、この話をすると、必然的に僕は大変という話になり、反射的に兄上は……という話になりかねないからだ。兄上は世襲により、ポンと王太子に就任できたが、僕は実力で上までいかなければならない。


 ただ、避けていても、普段の生活で十分察することはできるだろうから、今さら隠すことでもないだろう。父上も兄上も僕が頑張っていることは十分知っている。だが実際のところ、兄上だって大変だ。王太子に就任しても決して楽ではない。結局、僕と同様に実力を付ける必要がある。


 昔、まだ僕が幼かった頃、国王を継げる兄上を羨ましく思ったことがあるが、そんな時、兄上にそれを言ったら、逆に僕の方が羨ましいと言われたことがある。こういうのを何といったか、そうそう、隣の芝生は青く見える、だった。でも成長した今なら判る。隣の人の芝生は青くないんだよな。


 人は皆、それぞれ課題を抱え、その対処に悪戦苦闘している。

 目に見えないところで頑張っているのだろう。

 目に見えるところだけで判断したら、物事を見誤ってしまう。


「それじゃ、マークももうしばらく頑張らないといけないな」

「そうですね、父上」


 頑張るというのは引継ぎのことだろうが、兄上のレベルなら、今すぐ国王に就任しても、こなすことはできるだろう。父上だって以前は「早く退任したい」というようなことを口にしていた。元々、父上は政治より研究(新製品の開発)が好きで、母上に政治を任せることが多かったが、ある時期から政治に真剣に向き合うようになり、今では研究を自重している程だ。


 そうはいっても、早く研究に没頭したい気持ちはあるはずで、それを抑えて政治をし、しかも兄上に丁寧に引継ぎしてるのだから立派だ。これって、ひょっとしてあれかな。引継ぎを意識するようになったから、逆に仕事をきちんとするようになったのかも……。


 他人に仕事を引き継ぐには、その前提として自分がしっかり仕事を把握しておく必要がある。自分が知らないこと、できないこと、わからないことは引継ぎようがない。そんな姿を見せたくないから、父上も頑張っておいでなのだろう。


 うちの家族はみんな努力家だが、

 つくづく努力っていいものだ。自分を鍛え、成長させてくれる。

 努力が尊ばれ、努力が報われる社会でないとな。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。

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