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第1767話 番頭カイン4

 カインはミローネの息子であり、主人公の孫。

 ギルフォード商会の後継者としての道を歩んでいます。


 関連回

 第1523話 書籍『コモンスキル』

 第1511話 豪華客船

 第1658話 西の大支店

 第1679話 西の大支店2

 第1680話 西の大支店3

 第1681話 西の大支店4

 第1682話 西の大支店5

 第1703話 番頭カイン

 第1704話 番頭カイン2

 第1705話 番頭カイン3

~ハバロン視点~


 大海の青空の下、海風が頬を伝い、何とも心地いい。

 これまでこうしてのんびりしたことはあっただろうか。


 休みの日も頭のどこかで店のことを考えていた。搬入はできているか、シフトはきちんと回っているか、会計は混雑してないか、万引きやカスハラはないか、何かトラブルは起きてないか、あれこれ浮かんでは消えていたが、今は不思議とそれがほとんどない。完全になくなったわけではないが、それでもだいぶ頭の片隅に追いやった感じだ。


 空と海の青さで、頭の中まですっきりしたのかな。


「海の景色が綺麗ですね。あなた」

「ああ、そうだね」


 私たちは今、船の甲板から広い海原を眺め、その感慨にひたっている。普段、船に乗ることはあまりなく、ましてやこんな豪華で大きな船に乗るのは初めてだ。永年勤続表彰を受けた翌日、マティス店長に呼ばれ、


「豪華客船の旅を心置きなく受けて下さい。その間の仕事の手配は

 こちらでやるから大丈夫」


 と言われ、こうして長期休暇を取って旅行することになったが、

 とんとん拍子に決まってしまった。


 長期休暇は4週間で、これまでこんなに長い休みを取ったことはないが、

 店長から、


「今は産前産後休暇、育児休暇なんかもあるから、

 それぐらいどうってことないよ」


 と言われ、後押しされた格好だ。自分の若い頃はそういう制度はなかったが、時代は変わったものだ。いや、制度があるのは知っていたが、自分には関係ない気がしてね。他の従業員が取ってもあまり実感がなかった。


 今回は有給休暇の未消化分で休ませてもらっているが、店長から、


「有給休暇は積極的に取れとは言えないものでね。あくまで従業員から申請があった場合の休みなんだ。だが、今回は勤続40の永年勤続表彰の旅行があるから、例外的に取得を推奨させてもらう」


 と言われたのが決め手だった。

 店長にここまで言われて、休みを取らないわけにはいかない。


 これは間違いなく総帥が裏で動かれたお陰だろう。本当に総帥には感謝しかない。あのお方は有言実行であり、しかも、やることが早い。噂では聞いていたが、本当にその通りだった。


「あなたと二人きりでこんなにのんびり旅行できるなんて初めてだわ」


 妻が嬉しそうに微笑む。

 そう言えばそうだったな。これまで仕事に追われ、

 二人でこんな長い旅行はしたことがなかった。


「今回は思いっきり楽しもう」

「ええ、あなた」


 この旅で、これまで苦労をかけた妻に恩返ししないとな。

 この機会を設けてくれた商会に感謝の気持ちでいっぱいだ。 


 これまで何度も店長打診を要請されたが、今の職場を気に入り、打診を断り続けてきた。その申し訳なさもあり、せめて仕事で報いようと頑張ってきたが、気が付いたら40年勤めていた。これからも引き続き頑張りたい。まだ58、人生これからだ。


 私の務める西の大支店の食品フロアは、店内でもっとも繁盛しており、常に千客万来の状態だ。多くの商品を扱い、多くの従業員を抱え、多くのお客さんをお迎えする。私はそこのフロアチーフだが、サブチーフだけでは少し心もとなかったため、他のフロアのチーフの応援が必要と考えていたが、その任にカインさんが就いてくれることになった。彼は18と若いが優秀であり、こなしてくれるだろう。帰ったら、お礼しないとな。


――

――――


~カイン視点~


 今日から食品フロアのチーフ代行を務めているが、やることはいっぱいある。

 さて、エンジン全開、テンションを上げていこう。


「りんごの在庫はありますか?」

「はい、まだ大丈夫です」

「たまねぎはどうですか?」

「そちらも大丈夫です」


 僕の質問にここのサブチーフがテキパキと答える。ただいま、スタッフたちと朝のミーティング中。店は10時から営業開始だが、9時に出勤し、この間に打ち合わせや準備をするのが日課となっている。 


 店における正式な役職は店長、番頭、手代、丁稚となるが、それとは別に、フロアチーフ(フロア責任者)、各売場チーフ(各売場の責任者)があり、フロアチーフは番頭が、各売場チーフは手代が務めるケースが多い。ちなみにフロアのサブチーフは手代の最ベテランが務めるケースが多く、ここもそう。大手代と呼ばれる場合もある。ハバロンさんは番頭の最ベテランだから大番頭だ。実質、店の№2。


 いつもの非日用品フロアではなく、食品フロアだから、雰囲気がまるで違う。人が多く活気に満ちている。食料品といえば商会で扱う中心的商品であり、売上の核になる商品だから、当然と言えば当然か。


 緊張感がどんどん上昇する。だが、戸惑いはまったくない。ギルフォード商会では配置転換やローテーションにより、早期の段階から様々な売場を経験させるため、食品売場の経験も十分積ませてもらっている。それに食品フロアのチーフは一度ぜひやってみたいと思っていた。この仕事は店の花形プレイヤーだからね。 


「冬野菜は新規納入されました?」


 昨日入っているが、サブチーフは把握してるかな? 

 ハバロンさんから、彼は優秀だが、チェックは必要、と引継ぎを受けている。


「はい、納入されています」 


 良し、さらに細かく聞こう。


「どんな野菜が入っていますか?」


「葉物だと、白菜、ほうれん草、ブロッコリー、春菊、小松菜、水菜、キャベツ、

 根菜だと、大根、かぶ、れんこん、ごぼう、にんじん、になります」


 おお、ちゃんと把握している。

 優秀なのはその通りだな。流石、大手代、将来の番頭候補。

 僕よりはずっと年上だが、それでも30代後半ぐらいだろう。

 僕が言うのもアレだが、その年で大支店の大手代なら、相当なものだ。


「それらは店頭に並べましょう」


 店頭とは店先や店内の客の目に触れるスペースのこと。僕がハバロンさんから引き受けたのは1階の食品フロアであり、そこに置く意味は非常に大きい。1階にお客さんを呼び込めば、他の階にも来てくれる。1階は店の顔であり、ここの売上が他の階にも大きく影響する。


 他の商品と違い、食品はほぼ毎日、お客さんが買いに来る。

 そのお客さんの一部が他の商品を買ってくれるのだ。

 食品あっての他の商品。食品の売上が全商品の売上を左右する。


 おじい様はかねてより、店に「無駄なものを売るな」と言い、庶民(お客さん)には「無駄なものを買うな」と言い、その結果、衣食住、とりわけ食の比重が大きくなっている。おじい様は「インフルエンサー」を密かに自認しているが、実際、おじい様の影響力は大きく、国王以上に社会の広範囲に影響を与えている。


 無駄なものとは、買っても、使わないもの、役に立たないもの、不必要なもの、ためにならないもの、を指すが、その結果、店はお客さんにとって本当に必要なものを売るようになり、お客さんも本当に必要なものを買うようになった。店にとって決して楽なことではないが、この緊張感があってこそ、お客さんといい関係を構築できるのだろう。


 おじい様は受信機テレビで、庶民に向けて貯金を推奨しているが、同時に浪費しないよう呼び掛けている。ものを売る側の商会の人間が「浪費をするな」と公然と言うのは凄いことだが、だからこそ逆に、商会の信用が上がっている。


 今日からハバロンさんは4週間の休暇に入っており、その代行、フロアチーフを僕が引き受けた。非日用品フロアの方は部下に任せたので問題なし。そちらも随時見にいく。


 店頭に並べる商品は決まった。次は――


「サービス品はどうしてますか?」


 サービス品とは値引き商品のこと。夕方を過ぎて、売れ残った商品を値引きする場合もあるが、それとは違い、純粋にサービスとして安く提供する商品のことだ。いわば()()()値引き商品。値引きする必要がない商品をあえて値引きし、お客さんに特別感をいだいてもらう。


「かぼちゃ、じゃがいも、を出しています」


 えっ、かぼちゃとじゃがいも?


「かぼちゃも、じゃがいも、は日持ちしますから、無理に安くする必要はない

 んじゃないですか? 値段を戻して冬野菜と一緒に出しましょう」


「えっ、サービス品って、そういうものですよね。値引きしなくていいものを

 値引きするから意味があるんじゃないですか?」


 少し履き違えているなぁ。


「いやいや、それはそうだけど、もっと戦略的に考えないと」

「戦略的?」

「つまり商売ってこと。サービスの中にも商売あり」


 サービスはサービスだが、商売は慈善事業じゃない。


「でしたら、何をサービス品にしますか?」

「そうですね……」


 日持ちしない野菜といったら葉物だな。


「ほうれん草とブロッコリーはどうですか? 一般ではまだ冬野菜という

 イメージが少ないようですから、アピールもかねて」


 ほうれんそうもブロッコリーも時間が経つと劣化するので、

 早めに売りたい。酸化により貴重な栄養も失われる。


「わかりました。ただ、かぼちゃとじゃがいもの値上げをしたら、

 売れなくなると思いますが、それは宜しいので?」


 おっ、意趣返しの匂いがするね。サブなのに自分にチーフ代行を任せてもらえず、他のフロアの僕がチーフ代行で来たから、内心面白くないんだろうが、僕なりに外から客観的にこのフロアの改善すべき点を把握していたから、この機に実行させてもらう。


「値上げではなくて、下げていた値段を戻すんです」

「いや、理屈はそうですが……」


「かぼちゃとじゃがいもはどれぐらいの期間、

 サービス品にしていたんですか?」


「ええと、一か月ぐらいは……」


「あぁ、それはダメですよ。サービスはあくまでサービス。でも、それが続いたら、お客さんはそれが当たり前になってしまい、サービスでなくなってしまいます。適時、対象となる商品を変えていきませんと。とにかく、かぼちゃとじゃがいもは元の値段に戻して下さい」


「ですが、きっと売れなくなると思いますよ」


「そこは工夫しないとダメです。幸い、今は寒くなってきて鍋物が美味しい季節になってきました。売れないということはないでしょう。それに、そういう野菜こそ、売る側の力量が試されます。積極的にアピールしましょう」


 さて、ここが見せ場だ。プレゼンさせてもらう。一呼吸してからの――


「かぼちゃには、ビタミンA、C、Eなどの抗酸化ビタミンが豊富に含まれ、β-カロテン、食物繊維、カリウムも多く含まれています。これらの栄養素は、美容、アンチエイジング、風邪予防、高血圧予防など、さまざまな健康効果が期待できます。じゃがいもだって、ビタミンC、カリウム、ビタミンB群、食物繊維が豊富に含まれています。これらの栄養素は、免疫力の向上、塩分排出の促進、エネルギー代謝のサポート、腸内環境の改善など、様々な健康効果が期待できます。それをちょっと言うだけで全然違いますよ。ただ単に『いらっしゃい、いらっしゃい』だけではダメ、商品をアピールしませんと」


 食品は置きさえすれば黙ってても売れる面があり、それに甘えた商売のやり方が前々から気になっていた。僕の言ったことは情報管理アイテムを通じて、全従業員が商品情報として知ることができるものだが、それを活かしきれていないんじゃないかとね。


「いやぁ、よく覚えていますね。わかりました。やってみます」


「うん、そうするといいですよ。但し、説明する際は嫌味がないように、

 偉そうにならないように、常に下から丁寧に」


 これが実は人によっては難しい。せっかく知識があっても、偉そうに上からだと、かえって逆効果になりかねない。僕らは学者でも先生でもなく商人だ。話の内容以上に話の仕方が重要だ。相手を怒らせる内容でも、怒らせない話し方をすれば、怒らせることはないが、相手を怒らせない内容でも、怒らせる話し方をすれば、怒らせてしまう。


「商人としてお客さんに丁寧に接し、お客さん目線で常に考えましょう」


 商人にとって大切なことは商品についてよく勉強し、お客さんにうまく伝える

 ことだ。黙って、右から左に商品を流すだけでは僕らのいる意味がない。


「話を戻しますが、サービス品のサービスの意味は、店からお客さんへの感謝の気持ち『ありがとう』が基本にあります。だから、それが常態化して『あたりまえ』になったら意味がありません。だから、対象とする商品を適時変えるべきなんですが、そこはやはり商売、店側として早く売りたい商品、日持ちしない商品を選ぶべきです。それとサービスを外すことは悪いことばかりではありません。通常の価格を知ることにより、これまでサービスを受けていたんだと知ることができます。通常の価格を知ってこそのサービス価格です」


 ついでにこれも言っておこう。


「サービス品のブロッコリーとほうれん草についても言っておきましょう。先ずブロッコリーですが、何と言ってもスルフォラファンですね。これは強力な抗酸化作用を持つファイトケミカル(植物由来の機能性成分)で、体内の解毒力を高め、がん予防、生活習慣病の改善、アレルギーの抑制など、様々な健康効果が期待できます」


 スルフォラファンは、肝臓の解毒、抗酸化、抗炎症作用を高め、肝機能を改善

 する効果が期待できる。飲酒習慣のある人には特にいいだろう。


「それから、ほうれん草ですが、ビタミンA(β-カロテン)、ビタミンK、葉酸、鉄分を豊富に含み、貧血予防や免疫力維持に役立ちます。その他にもビタミンCやカリウム、カルシウム、食物繊維などもバランスよく含みます」


 すらすら話をしたので、皆が僕を見る目が変わる。ぜひ同じことをして、今度はお客さんが皆を見る目が変わればと思う。商売する上で知識は強力な武器になる。僕は若く、経験では他の番頭はおろか多くの手代にも勝てないが、知識は新商品を中心にどんどん仕入れてるので負けることはない。自分のフロアだけでなく他のフロアの商品のセールスポイントを押さえている。それと対人関係スキルも年相応以上にはあるつもりだ。


 知識や生き方について、おじい様から多くを習ったが、

 特にコモンスキルは大いにためになっている。


『優しさ』『空気を読む』『人の話をよく聞く』

『人間観察眼』『コミュニケーション』『相手の立場に立つ』

『根回し』『威圧』『スルー』『チェック』

『自己客観視』『自問自答』『内なる神様』

『イメージ』『クリエイト』『善悪の判断』 

『プラス思考』『縁結び』『リラックス』

『努力』『忍耐力』『器の大きさ』

『謙虚』『感謝』『幸せ』『周波数上げ』


 書籍『コモンスキル』を読みながら、これらを日々実践しているが、

 商人として人として役に立つものばかりだ。


 僕が若くても、その若さをネガティブに考えずに済んでいるのは、

 おじい様から肉体年齢と精神年齢は別物だと教わっているからだ。

 おじい様の言葉はしっかり耳に残っている。


「いいか、カイン、肉体が若くても精神は別だから、その気になれば、精神年齢をどんどん上げることができる。逆に言えば、その気にならなければ、いくら肉体が年を取っても、精神年齢は上がることがない。肉体は大人でも精神は子供のまま、なんてのもいるからな。それは本当に恥ずかしいことだ。生き恥を晒すと言っていいだろう。そうならないよう精神年齢を上げていきなさい。それが人生のあるべき指針だ」


 精神年齢か……これを知らないと、肉体が年を取れば、一緒に精神も年を取ると勘違いする人がいたりするんだろうな。商売では人の外見だけでなく内面を見ることが求められるが、それに通じる教えだ。自分も内面を磨いていかないとな。外見は変えることができないが、内面はいくらでも変えることができる。

 最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。

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