第1760話 経穴5
関連回 第852話 助産ヒーラー、第853話 助産ヒーラー2
「以上、アンチエイジング系と精神系のツボについて説明したが、
何か質問はあるかな?」
随時、ローレルが質問してくれたが、皆にも訊いておかないとな。
「はい」
おっ、助産ヒーラーのトレイシー君か。彼女は助産技術を持った貴重なヒーラーで、自分の療養所を経営する傍ら、ここでも働いてくれている。ヒールはともかく、助産について男性の僕は門外漢なので、彼女の助産技術に目を付け、以前、スカウトしたのだ。彼女はここで助産の仕事をしつつ、他のスタッフに助産技術を教えてくれ非常に助かっている。
「助産に活かせるツボがあれば、教えて下さい」
助産に活かせるツボか……あるにはあるが、説明を要するな。
「その前に妊娠初期に避けた方がいいツボを教えておこう」
パネルを提示する。
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肩井
合谷
太衝
三陰交
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「肩井と太衝は陣痛を促す作用があり、合谷は子宮収縮を促す可能性があり、三陰交は流産リスクを高める可能性がある。ちなみ肩井は首元と肩先の中間で、肩甲骨上部付近になる。押すと気持ちいいところだ。三陰交は足の内側くるぶしの頂点から指四本分ほど上がった、すねの骨の際にあるツボだ。ここは押すと痛い。特に女性はね」
「えっ、ということは肩のマッサージも良くないということですか?」
「軽いマッサージ程度なら大丈夫だろうが、ピンポイントで肩井に
強くグイグイ刺激するのは避けた方がいいということだ」
「三陰交は避けた方が良さそうですね」
「そうだね。但し、三陰交は婦人系の症状全般に有効だから、
妊娠中以外は積極的に活用するといい」
パネルを提示する。
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三陰交の主な効果
・婦人科系の不調:生理痛、生理不順、更年期障害の緩和
・冷え性・むくみ:足の血行を改善し、全身の冷え性を和らげる
・消化器系の不調:胃腸の働きを整える(下痢、便秘など)
・美肌効果:ホルモンバランスを整え、肌の調子を良くする
・夏バテ・熱中症対策::体温調節や水分代謝を安定させる
・妊娠・出産:安産や逆子のツボとしても使われる
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「三陰交は、妊娠初期は避けた方が無難だが、妊娠後期は安産のツボとなる。
逆子を治す効果もあるんだ」
合谷や三陰交を刺激しても、別段、流産リスクは高くならない、という説があり、かつ合谷や三陰交を使用して流産リスクが高まったという科学的根拠はないため、あまり気にする必要はないのかもしれないが、命がかかることで博打をしたくないので石橋を叩いて渡らせてもらう。
本題に入ろう。
「妊娠中におすすめのツボはこれだ」
パネルを提示する。
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膻中
太谿
神門
湧泉
三陰交
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「膻中はつわりのムカムカを軽減し、太谿はリラックスを促し、つわり、切迫早産の予防に効果がある。太谿の場所は内くるぶしとアキレス腱の中央で、三陰交に近い場所だが、ここなら大丈夫。神門は妊娠中の便秘に効果的。湧泉は自律神経を整え、疲労回復、便秘に効果がある」
さて、
「そして三陰交だが、妊娠後期であれば、体調不良、安産、お腹の張り、むくみなどに効果がある。但し、子宮収縮につながる可能性があるので、特に臨月が近づいてからや、切迫流産・切迫早産の恐れがある場合は避けた方がいい。やるなら基本的に療養所内だな。そして、いざ出産の時は、肩井、合谷、太衝、三陰交を刺激して陣痛を促進する」
「妊娠初期の禁忌のツボが、出産時には効果的なツボ
になるわけですね」
「そういうこと。そして、それはそのまま産後ケアのツボにもなる」
パネルを提示する。
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産後ケアに適したツボ
百会
肩井
合谷
太衝
三陰交
湧泉
足三里
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「出産後は、妊娠中に高い状態を保っていた女性ホルモンが急激に低下し、体内の水分調整機能に大きな影響を与え、これにより産後むくみが起こりやすくなる。ホルモンバランスの変動は一時的なもので、産後数週間から数ヶ月かけて徐々に落ち着き、それに伴い、むくみも自然と改善していくことが多いが、そのサポートをしてくれるのがこれらのツボだ。これまで説明してきたツボが多いが、むくみは足にきやすいから、足三里のツボ押しもするといい。これは膝のお皿の外側から指4本分下がった、すねの外側の骨のくぼみにあるツボだ。足三里は、免疫力向上や胃腸機能の改善に効果があるツボで、体内の老廃物排出を促進してむくみを解消してくれる。また産後は精神的に不安定になりやすいから、精神系のツボもメニューに加えた」
おっ、早速、ローレルが足三里をツボ押ししてるな。王家では義姉のルイーズが最近、出産したから、教えるつもりだな。そうか、それもあって、トレイシー君が気を利かして質問してくれたんだな。
足三里と言えば、松尾芭蕉が『奥の細道』の中で「三里に灸すゆるより」と述べ、旅の疲れを癒やすため足三里にお灸をすえていたとされている。当時は電車や車などの交通機関のない時代で移動はもっぱら徒歩。長旅には健脚が必要で、それをサポートする手段として足三里へのお灸やツボ押しは一般で広まっていた。疲労時に押すと、ズーンと心地良い痛みを感じる。
「体のむくみ解消には、ふくらはぎマッサージが効果的だ。足首から膝に向かって、下から上へ心臓に向かって圧をかけるといい。一人でやる場合は体育座りをして、足首に人差し指の横側を当て、そのまま圧をかけながら、膝方向にすべらせる。両手で両足いっぺんにやるより、片足ずつ両手で挟み込むようにやるといい。ふくらはぎは『第二の心臓』と呼ばれ、マッサージによって、そのポンプ機能を助けることで、全身の血液やリンパの流れがスムーズになる」
重力の影響で足の膝下は老廃物がたまりやすいから、体のメンテナンス法として、このふくらはぎマッサージは効果を発揮する。似たようなものとして足湯があるが、あれも体にいい。既に入浴療法で取り入れている。
次の質問者が手を挙げる。
「経穴療法はどれぐらいの時間やればいいのでしょうか?」
「状況によるが、症状が軽い場合は一カ所に付き1分程度。重ければ5分ぐらいかな。あちこち複数カ所、全身通してやるなら30分から1時間ぐらいが目安だろう」
「指圧で一回に押す時間はいかがでしょうか?」
「押して、すぐ離したら効果が薄い。ゆっくり、ぐっと押して5秒ぐらい
維持して、それから、ゆっくり離す、それを繰り返すといい」
パネルを提示する。
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・ゆっくり押す(急に押さない)
・押したら止める(5秒ぐらい)
・ゆっくり離す(急に離さない)
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「押して止める時間は感覚的なものだが、人を台にして背中をツボ押しする際は相手の呼吸に合わせるといい。息を吐くときに押し、止め、息を吸う時に離す。息を吸う時に背中を押されると息苦しくなるからな」
次の質問者が手を挙げる。
「お勧めのツボはありますか?」
「今回、教えたツボはどれもお勧めだが、あえてひとつ挙げるなら、合谷だな。いつでも手軽に押しやすい。そうそう、合谷を押すなら、ついでに裏合谷も押すといい。これは合谷の裏側の手のひら側になるが、真裏ということではなく、正確な場所は親指の付け根の膨らんだ部分(母指球)の真ん中あたりになる。反対側の親指で、ぐっと中に押し込むと痛みが出るところだ」
早速、質問者が自分の手で試す。
「うっ、ここは痛いですね」
「だろう。肉厚だから普段気付きづらいが、ピンポイントで指圧すると結構痛い。ここは夏バテに効くツボだが、それに限らず、疲労解消、腎の養生、アンチエイジングに効果を発揮する」
裏合谷は注夏とも呼ばれ、合谷とセットのツボ押しがお勧めだが、反対の親指と人差し指でサンドして同時にやることはお勧めしない。やってできないことはないが、ツボの位置を外しやすくなるからな。前世において裏合谷は知る人ぞ知る通のツボらしいが、自分が試し効果がありそうだったので情報開示した。肉厚で痛くなさそうなのに実は痛い、というのが個人的にツボだったのもあるけどね。ここが痛い人は疲労やストレスが蓄積している可能性があるが、表面上そうでなくても、内部にしこりのようにあるのかもね。
精神系の合谷に対し、アンチエイジング系の裏合谷、なかなかいい組み合わせじゃないだろうか。予防には無論いいが、不調が出だした際に、すぐさま盲目的に療養所や薬屋に駆け込むのではなく、先ず、生活習慣を改め、これらのツボ押しを試してもらいたいものだ。健康の基本はセルフヒーリング、自分でできることは自分でする。
次の質問者が手を挙げる。
「あのぅ、気って何でしょうか? 生命エネルギーとのことですが、
魔力や体力とは違うのでしょうか?」
「魔力や体力とは違う。僕らの本性は魂であり、心であり、精神だが、そこから発するものだ。気力、精神力と呼んでもいい。それと、気は僕らの体内だけでなく、この世界に遍在している。それを僕らは体内に取り込み、また自分の気を体外に出してもいる」
僕は、体力をHP、魔力をMP、精神力をSPと呼んでいるが、このうち、SPこそが根源的な力だと捉えている。HPもMPもSPの上に成り立つものだ。
「気の出し入れですか?」
「そう。正気を取り込み、邪気を出している。科学的には酸素を取り込み、
二酸化炭素を出しているが、それだけじゃないんだ」
「それだと人がいっぱい居るところは邪気が多いということですか?」
「そうなるね。だから、空気の入れ替えをする必要がある」
人が住まなくなると、家の老朽化が一気に進むのは、
空気の入れ替えをしなくなり、周囲の邪気がどんどん溜まるからだ。
そう言えば、現代の日本で使用されている「気」という文字は、戦前、「氣」だったが、GHQによる占領政策の一環で、「気」にされたという話があった。「気」と「氣」の漢字の違いは「米」と「〆」の違いにあるが、「米」が全方位に広がっていくイメージを抱かせるのに対し、「〆」は閉じ込めて終わるイメージを抱かせることから、日本人の弱体化を狙ったものだとか。
本件の真偽の程は不明だが、GHQが日本から漢字を撤廃しようとしたことは紛れもない事実であり、その延長上で、有り得る話として吹聴されたものであろう。それぐらいのことをしてもおかしくないと、実際、彼らは日本の古き良き伝統や文化を破壊した。
例えば、元々、11月23日は新嘗祭という祭日であった。これは日本最古の歴史書である『古事記』にも記されており、古い歴史を持つ宮中の恒例祭の中で最も重要な祭儀だ。新嘗祭の「新」とは新穀を、「嘗」は奉ることを意味しており、新嘗祭では各地の神社でもその年の新穀をお供えし、一年の実りへの感謝とともに国家国民の安寧をお祈りしてきたのだ。
そんな歴史と伝統のある祭日をGHQは好ましく思わず、「勤労感謝の日」に
改称させた。そして、この蛮行は新嘗祭だけにとどまらなかった。
四方節 → 元旦(1月1日)
起源節 → 建国記念日(2月11日)
天長説 → 昭和天皇記念日 → みどりの日 → 昭和の日(4月29日)
明治節 → 明治天皇誕生日 → 文化の日(11月3日)
春季皇霊祭 → 春分の日(3月20日か21日)
秋季皇霊祭 → 秋分の日(9月22日か23日)
また、皇室祭祀令に定められていた
神武天皇祭(4月3日)や神嘗祭(10月17日)
などの祭日は事実上廃止となった。
戦前は皇室の儀式や祭典の日を“祭日”とし、祝日とともに休日としていたことから、祝日と祭日を合わせて“祝祭日”と呼んでいたが、戦後、“祭日”は改称が行われたり、廃止となり、“祝日(国民の祝日)”に統一されたんだよな。つまり、GHQは制度上、祭りを消すことにより、皇室の儀式や祭典の日を日本国民から遠ざけ、皇室と日本国民の間の分断工作をしたのだ。
だが、皇室と日本国民の関係は分断されることはなく、皇室の儀式や祭典は代々受け継がれ、今も続いている。「勤労感謝の日」も趣旨として悪くないが、「新嘗祭」と比べたら、歴史と伝統の重みがまるで違う。比較にすらならない。別の日なら反対しないが、新嘗祭を押しのけてまでは役不足だ。
新嘗祭の行われる11月後半は、旧暦でいう1年で最も日の光が弱まる冬至に近い日取り。そして新嘗祭が行われる午後10時という時間は、もっとも太陽の衰える時刻とされている。皇統の皇祖神である天照大御神は太陽神であり、太陽の弱まる時期に太陽神のお恵みを祈願するのが新嘗祭だ。この時、祭祀を務める天皇陛下は神様に新穀を捧げ、自身も同じ食べ物を食することで神様のお力を戴き、民の幸せを祈願する。新嘗祭は最高神事であり、日本国民が神様と心をひとつにする日であった。
新嘗祭は収穫祭でもあり、しかも飛鳥時代から1500年以上続く世界最古の伝統ある収穫祭だ。かつて日本人は五穀豊穣を祝い、神様への感謝を盛大にしたのだ。だが、今はどうだろう。フランスのボジョレー・ヌーヴォーの解禁を祝ったり、フランスの収穫祭はお祝いしても、世界で最も伝統ある自国の収穫祭を祝うことをほとんどしなくなってしまった。各神社は頑張っているが、国民がもっと盛り上げるべきだろう。伝統や文化は残そうとする意志と行動がなければ残らない。もう戦後の呪縛から解放されないと。
呪縛と言えば、建国記念日もそうだな。これは元々、起源節であり、神武天皇が即位した日(紀元前660年2月11日)だ。神武天皇が即位した年を元年とする紀年法を「皇紀」というが、それに従えば、西暦2025年は皇紀2685年となる。これもGHQが廃止したが、そこには、日本人に栄えある歴史と伝統があることを忘れさせるため、皇室との繋がりを絶つため、そして、自分たちの歴史(西暦)が日本の歴史(皇紀)より短いことに対する嫉妬をはらすため、もあったことだろう。
その奥には、アジア人が優秀な白人より長い歴史を持つなどあってはならない、という偏狭で人種差別的な思想も透けて見える。ただ、今はもう関係ないので、かつてのように起源節と皇紀を使っていいだろう。それにより日本人は自分たちの歴史と文化を再認識することができる。
日本人はもっと自らの国の歴史や文化や伝統に誇りを持つべきだ。
どこの国の人だって、そうしている。誰かにケチをつけられる謂れはない。
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