第16話 王女様救出 ※キャラ挿絵付き
冒険者登録して、空いた時間に素材の回収をしていて、これは今までとさほど変わらない日常だが、最近は薬草採取を中心にホーンラビット(うさぎの魔物)などの弱い魔物を討伐している。弱いと言っても動きが素早く、スピードや感覚の訓練になる。テネシア、イレーネの二人には物足りないだろうが、その分、訓練場で派手な稽古をしている。
「さて、今日は物品を町に搬入しようか」
山の館の庭に荷馬車を準備する。今日は週に一度の納品日だ。本当は全部【転移】でやれば荷馬車は不要だが、人目を避けるための措置だ。オーバースキルは騒ぎの元だからね。
「【転移】!」
荷馬車が一瞬にして、町手前付近に移動する。ここは転移用のスポットで人目を避けるため塀で覆っている。
「さて、町に向かうか」
護衛にいつもの二人を乗せ、荷馬車を走らせる。まだ人通りが少なく町に入るまでは気が抜けない。
「うわあ――! 助けてくれ――!!」
前方で馬車が襲われている。
「ありゃ、盗賊か? でも何か違うな」
「どうする、主」
「いくしかないでしょ」
「当然ですよね」
荷馬車を置いて、三人で近くまで【転移】する。そして道沿いの岩陰に隠れると。
「王女を出せ!」
「ふざけるな!」
暴漢と護衛の騎士が戦っているようだ。そのすきに怪しい影が扉に近づき、中の女性を引きずり出した!
「やばい! 【転移】!」
三人で怪しい男の後方に移動し、テネシアが剣で峰打ちする。そんな器用なことできたんだ。
「うぎゃ!」
その後もバタバタ倒していくが、敵も応援を呼んだようで、キリがない。あれをやるか。
「盗賊の衣服、所持品全てを【収納】!」
今回は剣だけでなく、防具、服、靴と身ぐるみ全部を収納した。文字通り丸裸だ。
「うわあ!」
全裸の男なんて、まったく見たくないが、心理的ショックは相当だったようで、戦意は完全に無くなっていた。
「【収納】【収納】【収納】【収納】【収納】!!」
気がつけば全員丸裸で、その場でうずくまっている。人間って裸になると弱いんだな。
「騎士様、捕縛をお願いします」
「あっ! そうだった。全員捕縛しろー!」
正直、美しくない勝ち方だと思うが、血が噴き出して死人が出るより、よっぽどマシだろう。しかしこいつら何者なんだ。暴漢達が捕縛された後、王女様らしき女性が馬車から降りてきた。
「お助け頂き感謝します」
「いいえ、大したことはありません」
「……不思議な力をお持ちですのね」
しまった! うっかり【収納】スキルを連発してしまった。王女様に見られていたのかな。うまくごまかせるか。すると王女様が
「私はメリッサです。ロナンダル王国の第二王女になります」
とにかく、拝礼してと
「私は商人のアレスと申します。ギルフォード商会の会長を務めております」
すると、王女様の顔色が明るくなり
「まあ、王都の商会ですね。知ってます。侍女達からも良い評判を聞いています」
「後日、必ずお礼をさせて頂きますので、連絡をお待ち下さい」
「はは――、有難き幸せです」
深く一礼し、この後、護衛を兼ねて町まで馬車で付き添ったが、王女と騎士に同乗するよう求められ、緊張しっぱなしだ。
「アレス殿は不思議な技をお使いになられますな」
カイルという王女の専属騎士が直球を投げてきた。
「ええ、まあ、あれは大したものではないんですが……」
「……お蔭様で一人も死ぬことなく事態が収束できました」
王女は何となく察してくれたようだ。
「そう言えばギルフォード商会の武器は出来がいいな」
カイルも話題を変えてくれた。空気を読んでくれて助かる。
「はい、品質には相当、こだわっております」
「うちの騎士団の連中も愛用してるのが多いぞ」
「それは有難うございます」
「今回のことでもっと評判がよくなるでしょう」
王女は熱いまなざしでこちらを見てきた。評判が良くなるのはいいけど、あまり大ごとにはならないといいけどな。
※イラストレーターのだぶ竜様によるデザイン画※
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