第1337話 聖王講義~ヒールは万能にあらず~
関連回
第226話 ガン治療
第232話 聖王治療
第654話 聖王講義~回復魔法~
第843話 療養所組合改革3~国内の改革~
第851話 聖王講義~ヒーラー~
「~~以上で説明を終わります」
パルムが組合員向けの事務連絡を終えた。
事務連絡
・検査アイテムの貸与(拠点療養所)
・更新手続きについて(集金代行サービス)
・新たな拠点療養所の紹介
・受信機のCM(組合加入促進)
内容は先日、僕と打合せしたものだから、
僕は横で聞き流す感じ。うん、しっかり会議運営できている。
ここは療養所組合総本部の会議室。目の前にたくさんのヒーラー(関連職含む)が集まっており、これから講義を始めるが、この映像は各国の療養所組合本部の会議室でも大型スクリーンで映し出されている。こうすれば、九つの連邦全加盟国で一斉に講義できるので効率がいい。
前回同様、講義で僕の姿と声が、向こうに流れるようにしたが、双方向でやり取りすることも可能。これなら距離が離れていても、療養所組合同士で簡単に連絡を取り合える。
今回の内容は非常に有益なので、ギルフォード療養所、王立療養所にも送り、スクリーンで観れるようにした。この内容はできるだけ多くのヒーラーに知ってもらいたい。後でレネア、メルーシャにも観てもらおう。魔法研究所の光属性(聖属性)の講義にも役立ててもらえるはずだ。
「聖王陛下、今回のテーマは何でしょうか?」
今回の司会(聞き手)は副スタッフ長のチークに頼んだ。毎度のことだが、
一人で一方的に話すより、合いの手があった方が話しやすいからね。
さて、始めよう。
「今回のテーマは“ヒールは万能にあらず“だ」
「ヒールの魔力は万能です」(キリッ)なんてことはまったくない。
パルムとチークから回復魔法をテーマにお願いされていたが、
今回は趣向を変えてみた。
「ヒールは万能にあらず……ですか、私達ヒーラーにとって、
身に詰まる重いお言葉ですね」
「うむ、この話を聞いてる諸君はヒーラーが多いだろうが、実は回復魔法ヒールは絶対的なものじゃない。先ずはその現実をしっかり認識してもらおう。どんな症状でもヒールで治せると過信したら、とんでもないことになるからね。今回、その症例について具体的に説明しよう」
「あの、ヒールで治せないって、よっぽどですよね?
例外で数は少ないんでしょうか?」
「いやいや、実は結構多い。見てもらった方が早いだろう」
【イメージオープン】でパネルを提示する。
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回復魔法が効かない場合
・栄養失調
・大量出血
・不衛生
・異物の侵入
・毒
・ウイルス、病原菌等の感染症
・ガン
・体内の詰まり(喉の詰まり、消火器系統の詰まり、便秘、血栓等)
・盲腸(急性虫垂炎)
・体の自然現象(生理、妊娠等)
・風邪
・アレルギー症(花粉症等)
・慢性疾患(生活習慣病)
・虫歯
・近視、遠視
・依存症
・生まれつきの症状(体の欠損、アザ等)
・老化に伴う症状(しわ、白髪、脱毛、骨粗しょう症、認知症等)
・精神的な症状
・霊的な症状(生霊、死霊)
・魂からの要請(カルマの解消、霊的成長を促すため)
□--------------------------
これまで何十年に及ぶ治療経験を通じて判明したものだ。
おそらく探せば他にもあるだろうが、思いつく範囲で出してみた。
「わっ! 結構、あるんですね!」
「だろう? ヒールはどんな症例にも効くものではない。
効くものと効かないものがあるんだ」
パネルの説明を始める前に、
今一度、ヒールの基本についておさらいしておこう。
「ゴホン、え~ヒール、回復魔法だが、怪我や病気で傷んだ体を元の状態に回復せさる魔法だ。これをよく覚えておいてほしい。知っての通り、レベルが上がれば回復力が上がる。どんな酷い状態でも元に戻せるぐらいにね。だから、これをもってして何でも治せると勘違いしてしまいがちだが、どんなにレベルが上がっても、基本の仕組みは変わらない。あくまで怪我や病気で傷んだ体を元の状態に回復させるだけだ」
前置きはここまで、ここからパネルに沿って説明を始めよう。
「先ず、栄養失調だが、これは怪我でも病気でもない。だから回復魔法を施しても治らない。この場合は栄養を補給するしかない。空腹で倒れている人にいくら回復魔法をかけてもダメだ」
考えたら当たり前の話だが、回復魔法で全身にエネルギーが満ちわたり、栄養も行き渡るように勘違いするケースがあるんだよな。MP(魔力)とHP(体力)に関連性はあるが、MP(魔力)だけでHP(体力)を元に戻すことは無理。この一点だけでも「ヒールの魔力は万能です」なんて言えないことが分かる。
「それから大量出血。怪我そのものは回復魔法で治るが、体外に出た血液は戻ら
ない。これもよく注意しておくように。対策としてはすぐ止血することだ」
この世界に輸血はないが、幸い、ヒーラーがいるので、早期に対処すれば、傷口をふさぎ、止血することができる。止血さえできれば、緊急度を抑え、その間にじっくり治すことができる。
「それから不衛生な状態、汚れによる皮膚炎とかね。回復魔法で皮膚炎を治せ
ても、不衛生な状態を改善しないと、すぐ再発するだろう」
いくら回復魔法でも、不衛生な環境まで変えられない。
それとは別に衛生状態を改善する必要がある。
ヒールで万事解決するわけじゃないんだ。
「それから、異物、毒、ウイルス、病原菌等だな。これらは外から入ってきた
厄介者だが、それを取り除くか、無毒化しないといけない」
【ヒール】で毒は対処できない。別途【解毒】が必要だ。なぜかと言うと【ヒール】は体に効くものであり、体から入った異物には効かないからだ。毒で傷ついた体には一定の効果はあるが、毒がそのままだと、すぐぶり返す。
「それからガン、これも回復魔法は効かない。細胞(体)が自分の判断でガン化
してるから、病気、怪我の範疇にならないんだ」
人から見れば異常(病気)だが、細胞から見れば自然現象のようなもの。
正常か異常かの判断は人間の主観によるものであり、それは絶対ではない。
人は病気や死をあってはならない異常と捉えがちだが、大局的な見地に立てば、それも絶対ではないからな。突き詰めると、この世で起こることはすべて自然摂理の下に起こることであり、すべて正常という見方だってできる。
「聖王陛下、ガンはたまに聞きますが、そのような場合、
どうしたらよろしいのでしょうか?」
ここでチークが質問したきた。台本通り。しかし、ガンか……
ガンこそ、僕が本格的にヒーラーの道を志し、王立療養所設立のきっかけになった症状だ。はっきり言って、この世界の一般療養所レベルではお手上げであろう。それで王立療養所をつくったんだから。このあたりははっきり言っておいた方がいいな。
「ガンと判ったら、即座に王立療養所に送るといい。
今回、検査アイテムを導入したから、判明しやすいだろう」
僕とメルーシャは【ガン細胞正常化】というスキルを持っており、これを使えば一発で治せてしまう。僕もメルーシャも前世は日本人だが、もし、このスキルを持って日本に帰ったら大変なことになるだろう。
数多くの人を救える一方、ガンで儲けている連中から目の敵にされること間違いなし。医師法では医師以外の医療行為を禁じているため、捕まる恐れがあるし、何なら刺客を放たれ、命すら狙われるかもしれん。僕なら返り討ちにできるだろうが、切った張ったの修羅の世界はご免こうむりたいね。それに、それらは向こうの世界にいる勇者、賢者のテリトリーだ。
ガンは日本の死亡原因の堂々たる一位(約25%)であり、三位の老衰(約11%)を大きく上回る。ちなみに間の二位は心疾患(約15%)で、上位三つで死亡原因の半分を占める。日本では老衰より、ガンと心疾患で亡くなる人が多いので、老衰で亡くなることは実は「あたりまえ」ではない。
老衰で亡くなることができたら「ありがとう」であろう。何しろ一割ぐらいしか老衰で逝けない。寿命と健康寿命の差がないピンピンコロリの大往生は決して簡単なことではないのだ。寝たきり、管付き、苦しみながら最後を迎えるケースが多い。それまで自堕落で不摂生な生活を続けてきた人は特にその傾向が強くなるだろう。
日本人にとってガンはまったく他人事ではない。一生を通じ、二人に一人はガンと診断され、診断された人の半分は亡くなっているんだから。ただ、客観的に分析すれば、日本は高度医療先進国であり、他の症状が改善された結果、ガンが浮かび上がってきたともいえるけどね。(それでもガンは多いが)
「それから体内の詰まりだな。喉、消火器系統の詰まり、便秘、あと血管の中の
詰まりである血栓、これも回復魔法では効かない。詰まりを取る必要がある」
基本的に異物は排除しないとな。喉が詰まって呼吸困難な状態の者に
回復魔法を施しても意味がない。
「それから盲腸。これは患部を取り除くしかない」
盲腸は急性虫垂炎と言われ、猛烈な腹痛が特徴だ。虫垂炎は排便や異物などが虫垂の入り口を閉塞する事により細菌が繁殖し、二次的に細菌感染を引き起こす事で腹痛や発熱を引き起こす。回復魔法で一時的に炎症を抑えても、患部を取り除かない限り再発する。
これも治せるのは王立療養所だけだな。しかも外科治療だから僕じゃないと難しいだろう。現在、スタッフ達に【透視】の訓練をさせているが、これにより各内臓にアプローチできるようになってもらおう。でも、患部除去には【収納】が必要なんだよな。う~む……アイテムでできるようにするかな。
「それから体の自然現象、生理、妊娠、あと、風邪もそうだ」
「えっ、風邪もですか?」
「風邪は人体のオーバーホールだからな。先程、ガンの話をしたが、実は正常な人でも、毎日、ガン細胞が体内に発生してるんだ。でも体内には免疫細胞が備わっていて、ガン細胞をやっつけてくれる。風邪を引くと、体温が上がるだろ? そうしたら免疫細胞を活性化し、ガン細胞等をやっつけてくれる」
キラーT細胞やNK細胞とかね。
これらは白血球の一種であるリンパ球に含まれる免疫細胞だ。
「そうすると、風邪って悪いものじゃないんですね」
「そうそう、苦しいが、熱でガン細胞を退治し、鼻水やタンを出して、体内の悪いものを排出する。あまりに高い熱の場合は熱冷ましを呑む必要があるが、多少の熱なら我慢した方がいい」
まだ毒を出しきってない段階で薬で無理矢理症状を抑え込んだから、
かえって長引くことになるだろう。
「ただ、風邪といっても、似たような症状は多いから、病原器やウイルスが絡む
悪性の場合はそれらを抑える薬が必要だ」
あと、これも言っておかないとな。
「大事なことなので、よく聞いてほしいが、妊婦に回復魔法は厳禁だ。回復魔法は元に戻す魔法だが、妊婦にかけたら、元の状態、つまり妊娠してない状態に戻そうと作用する。それは流産につながるから、くれぐれも注意するように」
王立療養所、ギルフォード療養所では常識レベルだし、経験を積んだ一般の療養所なら知っているだろう。だが、それ以外は知らない可能性もあるからな。幸い、この世界の妊婦はヒーラーではなく、産婆やメイドに依頼するから惨事になっていない。さて、次だ。
「それからアレルギー症だな。花粉症が有名だが、その他、特定の食べ物に対してのものがある。これらはある物質に対し、体が過度に反応することによって起こる症状だが、それ自体、体の自然現象なので、病気、怪我の範疇に入ってこない」
アレルギー症状を治すには少しずつ慣らしていく方法が効果的。
「こうして見ると回復魔法で効かない症状は多いんですね」
「だろう? だから回復魔法以外の療法が必要なんだ。薬とかね」
「なるほどですね」
実際のところ、療養所勤務の薬師は多い。薬師単独で開業してる場合もあるが、ヒーラーと薬師は補完性が高いからね。ギルフォード療養所も王立療養所も多くの薬師が働いている。薬師といえば、ミアの存在が大きいが、彼女は超一級のヒーラーでもある。ヒーラーをしつつ、薬師に力を入れていたことから察するに、彼女は早期からヒールが万能でないことを分かっていたのだろう。
さて、一息入れて講義を続けるとしよう。ヒールが効かない症状は他にもある。
今回の講義の目的だが、見当違いなアプローチを防ぐのと、ヒールの過信、ヒーラーの慢心を防ぐ狙いがあった。前世の医療従事者の中には、平気で患者を見下し、タメ口や命令口調する輩もいたからな。何様って感じで。
医療も商売であり、患者さんはお客さんだ。そのお客さんが来てくれるお陰で食べていける。有名大学を卒業しようが、難しい試験に合格しようが関係ない。そんなことより相手を思いやる気持ちを育めと言いたいね。そちらの方が人生において、はるかに大事なことだ。
そうそう、日本のガン治療だが、基本的に西洋的アプローチであり、手術療法、薬物療法(抗ガン剤治療)、放射線治療の三大療法が基本となる。だが僕の見立てでは、これらの効果に懐疑的だ。
まず手術だが、患部を切除する際、ガン細胞が周辺に拡散するというリスクがある。それがあるから健康な部分も含めて大きめに切除するわけだが、これで思いっきり肉体を損傷する。それにそこまでしても、やはりガン細胞の拡散を防ぐことはできず、他に転移し再発するリスクは大きい。
それから薬物療法、これは抗ガン剤投与により、ガンを殺す方法だが、抗ガン剤そのものが猛毒であり、投与した瞬間からどんどん体がやつれていく。それもそのはず、抗ガン剤はガンだけでなく健康な細胞もどんどん殺していくからね。単純に数だけでいったら、ガン細胞より健康な細胞の方をずっと多く殺す。
「肉を切らせて骨を切る」という捨身戦術があるが、まさにそれ。実際のところ、ガンではなく、抗ガン剤で亡くなっているケースは多いんじゃないだろうか。データ上ではガンで亡くなったことになってるけどさ。
一説によると、抗ガン剤で効果がある確率は3~4割らしい。裏を返せば、6~7割は効果がない。それに、効果があっても、数か月から数年以内に再発する可能性が高い。抗ガン剤を乗り越えたガン細胞は耐性がついて、より強力となり、次回以降、さらに強い抗ガン剤が必要という。何度も復活し、ターミネーター並みにしつこいのがガンだ。
そして放射線治療だが、エックス線、電子線、ガンマ線などの放射線を体に照射し、ガン細胞の遺伝子にダメージを与え、死滅させるもの。だが、この方法も健康な細胞への悪影響がつきまとう。一応、ガン細胞に効果があるよう調整されているらしいがどうだかね。放射線により健康な細胞をガン化させるリスクは排除できないんじゃないかな。
【マイ図書館】情報によると、2004年にイギリスの「ランセット」という医学雑誌で「日本ではガン患者全体の4.4%が、CTやエックス線の影響でガンになっている」という趣旨の論文が掲載されたとか。その論文によるとこれは世界最悪の数値らしい。ガン検診で放射線を浴び、それでガン細胞を増やしてるとしたら、洒落にならない。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。




