第1331話 冒険者パーティー『不殺生』2
善いことをしたつもりが・・・
~マーク視点~
「さ~て、いい依頼は来てるかな~?」
今日は冒険者活動をする日、いつものようにレクサーと王都の冒険者ギルドに来てるが、今回からアマルナ王女が加わわるので、これまでと雰囲気が違う。アマルナ王女はおじい様から紹介された方で、某国から魔法研究所に転移留学されてるらしい。僕とレクサーもそれぞれの母国から連邦アカデミーに転移留学してるので親近感がわく。
転移留学とは転移スキルや転移アイテムにより、遠方の国から留学することだが、普通の留学と違い、留学先の国に住むことはなく、母国に住ながら日々通学するスタイルなので、親元を離れる心理的負担はまったくない。いわば二拠点生活だが、僕の母(ミローネ)もレクサーの母(サラ)もそうしてきたから、抵抗感なく受け入れられている。アマルナ王女もきっと某国と二拠点生活なのだろう。
「この掲示板で依頼を探すんですね?」
早速、アマルナ王女が興味を示す。
僕らと同じ留学生ということもあって、探究心は旺盛なようだ。
「そうです。ここで気に行った依頼書を見つけて、
受付に出すんですよ」
おっ、僕が答える前に、レクサーが先輩面して答えてるぞ。
僕も負けてられない。
「掲示板は仕事内容に応じて全部で五枚あります。討伐、護衛、探索(調査)、採取、雑用と。今回は探索(調査)をしようと思いましたので、その掲示板の前にいます」
これは昔、おじい様から最初に教わったこと。
「へぇ、探索(調査)ですか。私のFランクでも受けられるんですか?」
「大丈夫です。僕とレクサーはCランクで、パーティーとして受けますので」
この制度は本当に有り難い。僕とレクサーがFランクの時も
おじい様と同行して、Eランク以上の依頼を普通に受けられた。
今回は立場が逆で、なかなかいい気分。
冒険者ギルドでは討伐一辺倒にならないよう、冒険者がなるべくどの種目の依頼も受けるよう推奨しているが、実際はまだまだ討伐に人気がある。昔ながらの伝統もあるが、リスクがある分、高報酬なのが大きい。やはり一攫千金は魅力があるんだろう。
僕は王族であり、生活に困らない程度のお金は国から支給されるが、庶民は国からお金が支給されないため、自力でお金を稼ぐ必要がある。「王族の感覚を標準にしてはいけない。いつも庶民感覚を意識しなさい」と常々、おじい様がおっしゃっていたが、こういうところなんだろう。持つ者は持たない者の気持ちに寄り添わなければならない。
討伐、護衛、探索(調査)、採取、雑用の順番は
そのまま報酬の高い順、人気の高い順でもある。
既におじい様からお話しされているが、
改めて僕の方からもアマルナ王女に話しておこう。
「アマルナさん、おじい様からお話している通り、僕らの冒険者パーティー『不殺生』はその名の通り、不殺生を信条としていますので、討伐の依頼は受けません。だから、それ以外の四業務になります」
レクサーが続く。
「従来の冒険者はどんどん討伐して、どんどん上を目指すスタイルでしたが、
僕らはそうではないんですよ」
「よく分りました。私も不殺生を心がけます」
アマルナ王女もしっかり同調してくれた。おじい様が推して下さった方だから、
確認するまでもなかったが、これは本当に大事な点だからね。
「あっ、これいいんじゃない?」
レクサーが一枚の依頼書を手に取る。以前は見ながら検討していたが、その間に他の冒険者に取られたら元も子もないので、気になったら、すぐ手に取るようになった。こうすれば、横取りされることはない。前にそんなことがあったからね。条件が合わなければ掲示板に戻せばいい。
「何々~自然保護区〇〇エリアの探索(調査)、Cランク案件、いいじゃないか」
冒険者ギルドは広大な自然保護区を管理しているが、そこをエリア分けし、定期的に探索(調査)している。主な内容はどんな魔獣、獣がどれぐらい棲んでいるかだ
「〇〇エリアは奥の方だから、魔獣もいるだろうね」
レクサーの言う通りだが、僕らにはまったく問題ない。
「じゃあ、これを受けましょう。アマルナさんもいいですね?」
王女呼びはNG。
「はい」
アマルナ王女がしっかり返事をする。これまで冒険者の攻撃魔法を【結界】で防いできた経験があるから自信をつけているんだろう。それに僕もレクサーも【結界】スキルを保有している。全員【結界】スキル保有の冒険者パーティーなんて、まずないだろう。チートもいいところだ。
さて、受付にいこう。アマルナ王女の身分は秘密になっているから、王女呼びは避けている。もちろん、僕らの身分(王太子)もね。アマルナ王女のお国は極秘となっているが、おじい様から言われているので余計な詮索はしない。
――
――――
~アマルナ視点~
「ガオオオオオオ!」
バチン!
森の中を歩いていたら、いきなり大きな熊が襲ってきましたが、【結界】が自動発動し、防いでくれました。これが自動発動ですね。凄いです。危険を察知したら、私が意識せずとも結界を構築してくれる。聖王陛下から授かった【結界】はこんなことができるんですね。
「ガオオオオオオ!」
バチン! バチン!
諦めの悪い熊が攻撃を繰り返すがまったく効かない。
熊の爪が結界にぶつかるだけです。
「アマルナさん、大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です」
マークさんに余裕の表情で返す。やはり冒険者の攻撃魔法を受けた経験が活きてますね。いくら結界があると分っていても、実際の攻撃を受けると、メンタルに影響するもの。それを乗り越えるには慣れが必要なんでしょう。
こう言ってはなんですが、攻撃魔法に比べたら熊の爪や牙なんて大したことはありません。マークさんもレクサーさんも熊に襲われていますが、私と同じく【結界】で防いでいます。しかし、あれですね……
「なんか熊、多くないですか?」
十頭ぐらいの熊が集まっている。みんな家族なのかしら?
「そうだね。確かに多い。調査報告書に書いておこう」
魔獣が出ると聞いていたので、少し警戒していましたが、
ここまで見たのは熊と狼ばかり。何か変ですね。
「ガオオオオオオ!」
バチン! バチン!
熊の攻撃が続く。まったくしつこいですね。
「どうします?」
「いえ、どうもしません。このまま探索を続けます。前進しましょう」
なんと、マークさんが前進しようと言う。
「えっ、前進ですか?、前にも熊がいますよ」
「進路方向に立ちふさがる熊が悪いんです。このまま行きましょう」
マークさんが歩み出すと、
バチン! バチン! バチン! バチン!
【結界】に触れた熊が弾き飛ばされる。
「ガオオオオオオ!」
はは、怒ってますね。でも通せんぼする熊さんが悪いんですよ。的役の後、冒険者と話す機会があったんですが、自然保護区の魔獣、獣は討伐対象とのこと。一応、年間の討伐総数の上限はあるそうですが、襲ってきた場合は自衛優先であり、カウントされないらしい。
だから、もし私達が一般の冒険者だったら、ここの熊さんは討伐されていた
でしょう。出合ったのが私達『不殺生』で運が良かったですよ。熊さん。
――
――――
~レクサー視点~
「熊が125!? 狼が132!?」
「はい、数えたら、それぐらいいました」
冒険者ギルドに戻り、調査報告してるところ。
受付嬢さんが驚いているが、それはこっちも同じ。
「おかしいですね、う~む……」
受付嬢さんが神妙な表情となる。
「それなら他の冒険者達に注意喚起した方がいいですね。
よく調べて下さいました」
冒険者から見たら、魔獣じゃない獣は大した存在ではないが、これぐらいの数になると、そうも言ってられないか。獣が急に増えるなんて変だが、僕らの仕事はここまで。ここから先は冒険者ギルドの仕事。注意喚起すると言っていたが、それを聞いて冒険者の反応は二手に分れるだろう。危険と判断して近寄らないか、絶好の狩場と判断して近寄るか。
僕ら『不殺生』の立場としては、皆にも前者を志向してもらいたいが、こればかりは各冒険者の判断だからね。熊や狼の肉は売り物に適さないが、毛皮は需要がある。Dランクぐらいの冒険者なら、いい小遣い稼ぎになるだろう。
探索(調査)した自分達が言うのもなんだが、
「獣たちよ、早くその場を離れてくれ」だな。
しかし、これじゃ、僕らも殺生に加担してるようなものだよな……
今後は、この手の探索(調査)も止めた方がいいかな。
横を見ると、マークもしっくりしない表情をしている。
きっと同じことを考えているな。
おじい様から殺生は直接手を下さなくても、
それに協力すれば、共犯になると教わっている。
この件は後でおじい様にご相談しよう。
「こちらが今回の報酬になります」
いつもなら達成感を持って受け取るが、今回はそれがない。
この感覚は……罪悪感かな……
――
――――
~アレス視点~
レネアと念話中。
(レネア、訓練は順調か?)
(はい、自然保護区にどんどん猛獣を送り込んでますよ)
(ええと、そのことなんだがなぁ……)
レネアの【収納】レベル3(生物収納可能)、別名「消滅魔法」の訓練のため、自然保護区の外の猛獣を自然保護区の中へ移してもらっているが、どうやら特定のエリアに集中してしまっているらしい。先程、マーク、レクサー、アマルナ王女が僕のところへ来て、相談を受けた。
僕が原因というのも面目なかったので、「こちらで善処する」と言っておいた。三人とも殺生の加担行為になる心配をしていたので、取り急ぎ、今日中に僕が対応しよう。
レネアが自然保護区に移した猛獣を僕が再度【収納】し、家族単位で広範囲に散らばらせる感じかな。それと冒険者を襲ったら、討伐されてしまうので、それをしないよう若干の【精神支配】をかけておく。これをレネアに説明しておこう。
~説明後~
(……まぁ、そうでしたか、分りました。次回から分けて移します)
(うん、手間をかけるな)
命を救うために自然保護区に移したのに、それで命を奪うところだった。
連絡がなければ、知らぬ間に悪因果を積んでいたぞ。
これがあるから独り善がりは怖い。
はなから善行と思っているから悪行と気付かないし、気付かないから自己チェックと修正が遅れてしまう。だからこそ、周囲にアンテナを広げ、情報をキャッチし、自分の行為を多角的に見れるようにしておく必要がある。今回は孫達に助けてもらった。
他者からの指摘というのは本当に有り難い。自分の至らない点を気付かせて
くれる。いくら年を取ろうが経験を積もうが、この姿勢を大切にしよう。
上方いろはかるたの「お」、『負うた子に教えられて浅瀬を渡る』だな。
年齢や経験が多い方が絶対に上とは限らない。
最後までお読み頂きまして、誠にありがとうございました。もし拙作を気にいって頂けましたら、いいね、ブックマーク、評価をして頂けると大変有難いです。




