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47.歪み



アンジェリカの食事を持って地下室へと続く扉を開けた。

階段を降りながら、悶々とする気持ちを気の所為だと言い聞かせていた。


(私が苛々する必要はない。あんなやつ……好きにすればいいのよ)


ヨムトイドが誰と何をしようと勝手にすればいい。

ライナス王国を破壊する為に利用していて、ヨムトイドは闇の宝玉を取り戻す為に此処にいる。


けれど先程の自分の態度は誰がどう見ても…。


(誰にも心を許すな、誰も信じるな。私以外のもの全てを信用するな……全てが私を騙す嘘だ)


何度も念じるように繰り返した。

もう少しで何もかも上手くいきそうなのだ。

こんなところで自分の感情に振り回されてはならない。

自分の悲願を達成するために、心を殺さなければならない。


(最後まで、揺らいではいけない)


深呼吸を繰り返した。

もうすぐ望みが叶うのだから。


(……こんな気持ちは要らない、要らないのよ)


溢れそうな気持ちを奥深くに押し込んだ。



真っ暗で湿っぽい地下牢の中、憎しみを滲ませた瞳でアンジェリカの前へと歩いていく。



「純白の聖女様」


「ーーッ!」


「お食事をお持ち致しました」


「………ぁ」



アンジェリカは牢の端に体を抱え込むようにして座っていた。

目を真っ赤に腫らしたアンジェリカが、ゆっくりと顔を上げた。

もっと荒れていると思ったが、誰もいない地下牢の中で暴れるだけ無駄だと気付いたのだろう。



「アンタのせいよ…!」


「……」


「ーーアンタが現れなければ、全て上手くいったのにッ!!」



アンジェリカの擦り切れた声が徐々に大きくなっていく。

笑みを浮かべながら、ゆっくりと首を傾げる。



「申し訳ありませんが、意味が分かりかねます」


「……ッ」


「私を引き留めたのはアンジェリカ様ではありませんか…?」


「ッ!!分かってるわよ…っ!!」


「儀式が終われば、私は辺境の村に帰らせて頂きますので」


「……!!」



あれだけ引き留めておいて、矛盾しているにも程がある。

それだけアンジェリカの感情が乱れている証拠なのだろう。



「……アンジェリカ様」


「こんな国も、クソ男も大っ嫌いッ!!皆、みんな死んじまえ…ッ」


「………」


「っ、何とか言いなさいよッ!!」


「貴女にライナス女神の加護がありますように…」


「……煩いッ!うるさい!消えろ…消えろぉッ!!!」



食事が乗っているトレイを置いて、アンジェリカの前で丁寧にお辞儀をしてから地下室を出る。


食事は一日に二回。

その食事は全てサラが運ぶことになっていた。

地下牢を訪れる時にだけ、真っ暗な地下室に光が入る。


その日の夜も何事も無かったように地下牢を訪れた。

アンジェリカの暴言を聞き流して平然と対応していく。


(もう少しよ……)


儀式まであと五日、ここからどう追い詰めていくのか。


そしてその日の夜、国王に呼び出された。


次の日の朝、食事を運びながら憔悴しているアンジェリカに声をかける。



「アンジェリカ様、国王陛下からのお言葉です」


「……ッ」


「アンジェリカ・カールソン、四日後に迫った大結界の儀に参加するように命ずる」


「…っ、ぁ……!?」


「アンジェリカ様の聖女としてのお力が役に立つ時ですね」


「ーーッ!あなたが、貴女が代わりに結界を張ればいいのよッ!!」


「私は、力が弱いのでアンジェリカ様が選ばれたのでは無いのでしょうか?」


「…っ」


「それに女神様は私に"力なき者は大結界の贄になれず"と仰ったのですが…」


「ーーー!」


「アンジェリカ様は、その意味が分かりますか?」



柔らかい笑みを浮かべた。


また次の日も、その次の日も……壊れていくアンジェリカを静かに見つめながら食事を運んだ。

助けを求める声を無視して、吐き出す暴言を聞き流して、アンジェリカの為に女神に祈るフリをする。


これが贅と欲に溺れていた"アンジェリカ"の末路だ。


温かい食事をアンジェリカの元に届けて、手をつけていない食事を運んでいく。



「ウフフ…」



小さな笑い声が薄暗い地下室に響き渡った。


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