40.把握
カーティスは必死で、周囲をしっかり把握していない。
アンジェリカがどれだけ不満や不安を抱えているかなど、どうでもいいのだ。
けれど不安定になればなる程、計画は順調に進むだろう。
いい状態に仕上がってくれて何よりだ。
丁寧にお辞儀をした後にカーティスを見つめながら笑顔を作る。
それに気を良くしたカーティスは、感極まった様子で語りかける。
「……ライナス王国の聖女の名に相応しいのは、やはりサラ!!貴女だッ!」
「カーティス殿下にそう言って頂けて、光栄でございます」
「謙遜する必要なんて無いんだよ?サラ‥僕は事実を述べているだけなのだから」
「ありがとうございます……けれど私など、純白の聖女様の足元にも及びません」
「いや…違う!あんな欲深い女は聖女でもなんでもないッ!」
(もっと、もっと吐き出せ…!!!)
ここまでカーティスが上手く動いてくれるとは思わずに、腹を抱えて笑いたいのを我慢していた。
そしてカーティスの言葉に困惑した顔を作り、静かに首を振る。
「……カーティス殿下」
「何だい、サラ?」
「純白の聖女様は、女神様に選ばれた素晴らしい方です」
「けれど君も見ただろう…?あれは聖女とは呼べないと皆が思っているんだよ」
「ですがカーティス殿下…」
「何度でも言おう!君こそライナス王国の聖女に相応しい」
「私は……聖女ではありませんから」
「いいや、僕は知っている。君は異世界から来た素晴らしい力を持った聖女だよ」
「…………」
「サラ、僕を信じてくれ!君は間違いなくライナス王国の聖女となり、この国を僕と共に支えるんだ」
「ライナス王国の聖女…?」
「君も、なりたいだろう?」
「……カーティス殿下」
「もう我慢できないよ!父上に口添えしよう…!サラと歩む未来しか考えられないんだ」
カーティスにとっては此方の気持ちなど関係ないのだろう。
勝手に一人で盛り上がっているカーティスの様子を冷めた目で見ていた。
悔しそうに顔を歪めるアンジェリカが思い浮かぶ。
プライドの高いアンジェリカが乗り込んでこないのが不思議な位だ。
チラリと様子を窺うと握りしめた拳が震えている。
どうやら珍しくこの状況に耐えているようだ。
(もう一押しかしら…)
「けれどカーティス殿下……大結界を張り終わった後、純白の聖女アンジェリカ様と御婚約されると伺いました」
少し前に情報収集と状況を把握する為に、柔かな笑顔を浮かべてアンジェリカの侍女や元侍女の元へ向かった。
侍女達の仕事を手伝いながら、数日掛けて仲良くなり上手く誘導しつつ話を聞いていた。
そして日々、アンジェリカの我儘に耐えており相当不満が溜まっていたのだろう。
聞いてもいない事までペラペラと話してくれるのだ。
『聖女の仕事もせずに贅沢ばかり』
『私達に命令ばかりで自分は何もしないで‥』
『こないだなんて、物を投げつけられた子もいるのよ?』
『もう誰も世話したいと思わないわよ』
どうやら攫われた後から、アンジェリカは女王様のように振る舞っていたらしい。
やはり以前は影に隠れていたから色々出来ただけで、居なくなればこんなものなのだろう。
そして最も重要な情報であるアンジェリカとカーティスの関係や、どんな状況にいるのかを聞き出す事に簡単に成功したのだ。
カーティスは少し前から、部屋を訪れなくなり、予定を入れてアンジェリカに会わないようにしていたようだ。
恐らく以前のアンジェリカが大結界の秘密を知ったのは大結界を張る一ヶ月程前だ。
その時からカーティスはサラを避けるようになり、アンジェリカは居なくなる事が決まっていたサラに対してやりたい放題であった。
今回はライナス王国から居なくなったことで、状況が変わっている。
アンジェリカが現段階で大結界の仕組みを知っているのかどうか。
それが一番知りたいことだった。
そして、この国に訪れたあの日から様子がおかしかった事を侍女の一人が教えてくれた。
国王に謁見した後、ずっと部屋を動き回りながらブツブツと何かを呟いていたそうだ。
余裕は無く初めて「部屋に入るな」と言われたらしい。




