39.価値
カーティスのしつこいアピールも躱し続けた。
贈り物も、宝石も、金も、ドレスも……カーティスは全てを差し出そうとする。
其れらを全て断っていた。
「女神様に仕える身ですから」
柔かにそう言えば、カーティスは更に焦がれていった。
手に入らないから欲しくて堪らない。
中身が透けてしまえば、手に入らない玩具に夢中になる子供と一緒だった。
手に入るまでの過程を楽しんでいるのかまでは分からないが、この調子であれば、自分に好意を抱くまでカーティスは此方に食らいつく事だろう。
そして全てが手に入れば、もう興味がなくなるのだ。
今のアンジェリカが良い例だろう。
カーティスは手に入らないものに夢中になり、アンジェリカなど目もくれなくなった。
(あぁ、また来た……暇なのかしら)
今日もカーティスにしつこく付き纏われていた。
毎日毎日よく飽きないと思うほどに、心を傾けようと必死になっている。
こんな人が王太子なのだと思うと、国の行き先を憂いたくなる。
けれど、全ては犠牲の上にある幸せだ。
きっとカーティスが王となっても、何の戸惑いもなく異世界の聖女をあの部屋に放り込むのだろう。
カーティスを邪険にしたい気持ちを抑えながら、丁寧に対応していく。
つかず離れずの距離……餌をチラつかせながら焦らすのもなかなか面倒である。
「…サラ、今日も教会へ?」
「えぇ、孤児院の子供達の為にお菓子を分けに行くのです」
「あぁ、サラ……君はなんて慈悲深く美しいのだろう」
「ライナス王国に尽くすのは当然の事ですから」
「君と共にいると心が安らぐよ…」
「ありがとうございます」
カーティスから次々と口から出てくる歯の浮くような台詞。
恍惚とした表情で此方を見るカーティスに軽く頭を下げてから、スッと横を通りすぎる。
「ま、待ってくれ…!」
「何でしょうか、カーティス殿下」
腕を掴まれそうになり、違和感がないように腕を胸元へと持ってくる。
空を切ったカーティスの手のひらを見つつも、何事も無かったように振り返る。
ヨムドイトが出した条件を律儀に守っている事は気に入らないが、ここでヨムドイトにカーティスを殺されてしまえば計画が狂ってしまう。
少しならば平気だろうとカーティスの手を握った際に、部屋で寝ている筈のヨムドイトは何故かその事を知っていたのだ。
「……次はないぞ?」と、静かに言い放ったヨムドイトの目は笑ってはいなかった。
(…気を抜けない)
「カーティスと呼んでくれといつも言っているのに…」
「カーティス殿下はライナス王国を継ぐ尊いお方です。気軽にお呼びする事はできません」
「……っ!!君は本当に素晴らしい人だ」
「恐れ入ります」
「僕の理想そのものだ!」
褒めた事に気を良くしたカーティスは鼻息荒く此方に近付いてくる。
以前は、こんな男のどんな部分が好きだったのかと問いたくなってしまう。
アンジェリカとカーティスが心の拠り所だった自分にとって、好きだったかどうかも疑わしい。
今は見た目と肩書き、それ以外の価値は余り無いように感じた。
(……本当、嫌になる)
国王も宰相らもそうだが、最近此方を見る目が欲に満ちていて気持ち悪いのだ。
上手くいくのはいい事だが、やはり生理的に受け付けない。
今朝もヨムドイトが文句を言っていたが、確かに露骨である。
ーーーカタリ
小さな音に気づいて、耳を澄ませる。
カーティスと話していると壁の奥に人の気配がして、その姿をチラリと確認する。
オリーブ色の長い髪と純白の聖女の服。
そして、噎せ返るような薔薇の香り。
いつもアンジェリカが付けているお気に入りの香油の匂いだ。
(……アンジェリカで間違いなさそうね)
ライナス王国に来て暫く経つが、予想以上にアンジェリカの評判が悪かった為、とても動き易い状態で下地を作る事が出来たのだ。
そして今、タイミング良くアンジェリカが現れてくれたおかげで、次の段階に移行する事が出来る。




