38.綻び
次の日から街の教会に祈りを捧げて回った。
ある時は孤児達の世話を手伝い、そしてまた違う日に診療所へ向かう。
足の悪いご婦人や病人達の為に微笑みながら聖女の力を使い症状を和らげて、優しい言葉を掛け続けた。
何人も何日も。
存在を刻み込むように。
存在を刷り込むように。
「貴方にライナス女神の加護があらんことを」
憎き女神の名を使い、機械のように善行を重ね続けた。直ぐに"本物の聖女"と呼ばれるようになった。
それはいくら否定しても、変わらなかった。
王都で、アンジェリカから簡単に"聖女"の名を奪ってみせた。
あくまでも"辺境の街のシスター"として振る舞っているにも関わらず、だ。
どうやら今回のアンジェリカは聖女としての行いを、国民に施していなかったらしい。
以前は純白の聖女として積極的に活動を行っていたので、アンジェリカは影に隠れて楽が出来たことだろう。
今思えば、一緒に街の教会で祈った事など殆どない。
雑務などの面倒な部分は全て押しつけて、必要な部分だけ上手く摘んでいったのだろう。
そして最低限の行事だけは自分だけサボる訳にもいかず、仕方なく付いて回っていたのかもしれない。
けれど今回の聖女はアンジェリカ一人だけだった。
綺麗に着飾るだけでは聖女の仕事は務まらない。
居なかった事で随分と聖女としての勉強や仕事をサボり、周囲から反感を買っているようだ。
そしてアンジェリカが欲に溺れていたお陰で、最高の状態を生み出していた。
聖女の勉強を国民のためにと懸命に行い、教会での祈りを毎日欠かさず行っていた。
良い扱いを受けている御礼に…それと自分の居場所のために必死で応えようとしていた。
そのお陰で"聖女"としての動き方、やり方は皮肉にも体に染み付いていた。
純粋に国を救いたいと思っていた願いは血塗られたものになったが、どうやら前回の馬鹿な自分の行いも少しは役に立ったようだ。
そして何も知らない筈なのにも関わらず「女神様に教わりました」と言うことにより、注目が集まり期待が積み重なっていく。
アンジェリカの評価が下がれば、評価は上がっていく。
サラの名前が多く上がるにつれて、勝手にアンジェリカは荒れていき、人が離れていく。
「またアンジェリカ様は我儘ばかり……またカーティス殿下に宝石を強請ったらしいわよ」
「サラ様は毎日国の為に尽くしてくださるのに…それに何も見返りを求めないそうよ?」
「私、実際にアンジェリカ様を見たんだけど、凄く乱暴だし皆からよく思われていないわ」
「私は侍女に暴力を振るったって聞いたわ」
「本当に聖女なの?」
「何の為にいるのかしら…」
「サラ様は女神の声を聞けるんですって」
「素晴らしいわ!初代聖女様と同じね」
城内でも持ち上げられるのに時間は掛からなかった。
街でも本物の聖女が現れたと崇められて、王城での扱いは特別なものとなった。
サラは初代聖女と同じで"女神の声を聞く聖女"として短期間であっという間に地位を積み上げた。
それから完璧な聖女として振る舞い続けた。
最初に啜った甘い蜜の味を忘れられないのだろう。
アンジェリカの贅への執着が、今になってはとても有り難いのだ。
文句を言えば、自分の立場が更に悪くなる事は分かっているだろう。
今のところ手を出してくる気配はない。
皆は裏の顔を知らないまま、どんどんと依存していく。
笑顔を貼り付けながら期待に応えた。
(馬鹿みたい……こんな奴らに騙されていたなんて)
よく見れば、ボロばかりだ。
そこら中、穴だらけでこんなにも分かり易い。
異世界に来て周囲の人々に応えようと必死になっていた過去の自分を思い出す度に心は冷めていく。
内部に潜り込んで腐った根を洗い出していく。
ゆっくりとじっくりと吟味するように……。
悪を炙り出して情報を集めて、自分が少しでも優位に立てる状況を作り出していた。




