01.裏切
ーーー異世界に来て、一年経った。
今日はついに大結界を張る日だった。
(……上手くいきますように)
結界を張る作業は膨大な魔力を必要とする為、危険が伴うのだと聞いてドキドキする胸を押さえていた。
何人かの聖女は命を落とした事もあるのだと聞いた時、身震いした。
久しぶりに会ったカーティスに聞きたいことが沢山あったが、カーティスに話しかけようとするとアンジェリカが、すかさず間に入る。
「今日は頑張りましょうね……!!」
「はい…」
「いってきます」と小さく言った手を振った。
カーティスは複雑な表情を浮かべながら「……ごめんね」と呟いた。
そんなカーティスの心内を知る事は出来なかった。
その意味を問いかけようとするとカーティスは逃げるように去って行ってしまった。
モヤモヤとした気持ちは消えないまま、聖女の間へと足を踏み入れた。
外からは鍵が掛けられて、暫くは誰も部屋に入る事が出来なくなった。
アンジェリカと共に魔法陣の前に立つ。
「アンジェリカ様………緊張しますね」
「大丈夫ですわ……だってサラ様は、とても頑張っていましたもの」
「はい…!不安だけど、アンジェリカ様と一緒なら大丈夫ですよね」
「………そうね」
ここは聖女の間と呼ばれている神聖な場所だった。
大結界を張る為の場所で床には魔法陣が描かれていた。
普段は入れないように厳重に鍵が掛けられている。
大きく息を吸い込んで目を閉じてから力を込めると魔法陣が光出す。
魔法陣に引っ張られそうになりながらも、懸命に力を送り続ける。
力を送っていれば完成すると言われた魔法陣が、完全に光らない事に疑問を持ち、アンジェリカに声を掛ける。
「アンジェリカ様……?」
「あのね、サラ…」
「アンジェリカ様も、ちゃんと力を込めないと大結界は……」
「………どうでもいいわよ、こんな作業」
「えっ…!?きゃあ……ッ」
突然、魔法陣の中へ突き飛ばされて悲鳴をあげた。
何が起こったか分からずに戸惑いつつも、顔を上げてアンジェリカを見る。
するとアンジェリカは唇を歪めて笑っていた。
起きあがろうと腕に力を込める。
けれど、片足が魔法陣に飲み込まれて抜け出せない事に気付く。
焦りを感じてアンジェリカに助けを求めた。
「どうしよう…アンジェリカ様っ!たすけて…ッ」
魔法陣は明らかにサラを取り込もうとしている。
「……サラって、本当に気持ち悪いくらいに善人なのね」
「え!?」
「お人好しを通り越して……もはや馬鹿よ」
「………っ」
「この国の人達の言うことを全部信じて、ホイホイ言う事を聞くなんて異世界人って、皆こんなに阿保なのかしら」
「でもっ、国を救う為に…!」
「今、貴女がこうして持て囃されているのは膨大な魔力を持っているからよ?わたくしも強い力は持っているけれど……」
「な、なんの話をしているの…?」
「だけど、わたくしは聖女の力を失いたくないの」
「!?」
「歴代の異世界人の聖女はこの大結界を張った後、この世界から消えてなくなるんですって…」
「……ぇ」
「何でだと思う?」
「………な、んで?」
「ライナス王国の聖女に裏切られて魔法陣に取り込まれるから」
「ーーー!!!」
「異世界人なんて捨て駒よ……なのに本物の聖女だとか言われて調子乗ってんじゃないわよ!!貴女、少し鈍すぎるわ………それに純粋すぎて吐き気がしちゃう」
「…………」
「嫌がらせを受けても気にしないし……わたくしに嫌われているのに気付かなかった?」
片足を徐々に魔法陣に引き摺られながら、アンジェリカの話を聞いていた。
あまりの衝撃に震えていると、上から見下ろしていたアンジェリカは嘲笑うように言った。
「ふふっ…わたくし達に騙されてたのよ?」
「アンジェリカ、さま……?」
「貴女が呼ばれたのは、この国の犠牲になる為……結界を張るためにはライナス王国の聖女の力では足りないのよね。何人もの聖女を犠牲にしてたら毎回、大結界を張るのが大変でしょう?だから異世界人が必要なのよ」
「なに、それ……アンジェリカ様、何言ってるんですかッ!?」