35.嫉妬
「ほら、サラ……此方へ来い」
腕を引かれて、膝の上へ。
ヨムドイトと口付けている姿を見て、プラインは再び頬を赤くしながら恥ずかしそうに顔を背ける。
魔族にとって毒にもなる聖女の力を取り入れる事で闇の力を中和して、プラインが開発した魔族が人間になれる薬でヨムドイトの力を無理矢理抑え込んでいる。
聖女の力とプラインの作った薬を合わせる事で、魔王でありながら一時的に大結界に阻まれないようにする事が出来たのだ。
けれどヨムドイトにはプラインの作った薬の効果も半減してしまい、聖女の力も多く必要だった。
それに聖女の力を取り入れ過ぎれば、ヨムドイト自身が傷付いてしまう。
大結界の綻びのある場所で色々と実験して、今の形で落ち着いたのだった。
徐々に大結界の中でも問題なく動けるように、量を調節しながら慣らしていった。
今、ヨムドイトの力は完全に打ち消されており使う事が出来ない。
本当に、ただの子供と同じ状態である。
毎日の積み重ねが実った結果だろう。
これが今出来る最善の方法だった。
「……!?」
そんな中、違和感を感じてヨムドイトの胸を押した。
唇を離して眉を顰めながら吐き捨てる。
「……舌を入れる必要はないわ」
「サラは愛いな」
「次やったら捻り潰すわよ…?」
頬を膨らませながらヨムドイトは拗ねた素振りを見せる。
見た目だけは可愛らしい子供だが、中身は只の魔王である。
違和感は拭えない。
そんなヨムドイトを冷めた目で見ていた。
真剣に色々と考えて動いているのにもかかわらず、この男はそれを分かっていて平気でペースを乱すのだ。
ゴシゴシと口元をタオルで拭きながら、ヨムドイトの上から退いた。
体に触れようとするヨムドイトの手を弾き返すのも忘れない。
ヨムドイトは再び舌打ちをすると、ごろりとベッドに寝転がる。
そして眠たいと言わんばかりに大きく欠伸をする。
「……さて、我は眠るとするか」
「少々お待ちください…!すぐに用意しますから」
「このままでよい」
「でもリュカ様に…!」
「プライン、アイツの言われた事を鵜呑みにするな。用があれば呼ぶ」
「は、はい!」
「お前も休め」
ヨムドイトは体を伸ばしてから、此方を見て口を開いた。
「寝ていても一日二回は必要だぞ?サラ……忘れるなよ」
「はいはい、分かっているから安心して」
「……」
「……サラ様」
余計な力を使わないように、闇の力が漏れないように。
そして万が一、余計な事をして正体がバレないようにヨムドイトは大人しく眠りについてもらう。
部屋にいるヨムドイトやプラインの事を聞かれたら適当に誤魔化せばいいだろう。
ヨムドイトとプラインに対しては、そこまで不信感は持たれていない。
今のところ、注目は全て"サラ"の元に集まっている。
「プライン、ヨムの事は任せたわ。全て作戦通りに頼むわね」
「は、はい!任せてください」
「魔族やビスの為にがんばりましょうね……?プライン」
「……!」
「ヨムも私も貴方が頼りなの」
「はい!」
「ビスもプラインの帰りを待っているわ」
「そうですね……!頑張りますっ」
プラインはほんのりと頬を染めると嬉しそうに頷いた。
ヨムドイトと違って単純で扱い易くて何よりである。
魔族の元にいる時に、何度もプラインの親代わりであるビスの怪我を治した甲斐があったというものだ。
プラインは何の疑いもなく信頼を寄せている。
今回も迷わず付いてきてくれたのだ。
実際、細かい所に気が回るプラインのお陰で助かっている。
そんな中、部屋にヨムドイトの声が響く。
「あぁ、サラ……必要な事だとしても、あの男に体に触れさせるなよ」
「は……?」
「嫉妬で頭がおかしくなりそうだ」
「何言ってるのよ…触れないでどうやってカーティスを落とすというの?」
「………焦らせ」
「意味の分からない冗談はやめてくれない?」
「冗談などではない。我は本気で言っている」
「……」
ピリピリと肌に刺さるヨムドイトの圧に押し黙る。
今は力が抑えられているが、ヨムドイトが本気になれば一瞬で消されてしまうだろう。
こうして軽口は叩けても、やはり踏み込んではいけない一線がある。
ヨムドイトが見せる執着は時折、予想以上に強く行動を縛り付ける。
「……でなければ今すぐに、あのカーティスとかいう男を殺す」




