33.思惑
「美しい……」
サラが綺麗にお辞儀をしながら国王が去るのを待っているのを、熱く見つめていたカーティスの口から漏れた言葉に反応する。
即座にカーティスに詰め寄った。
「っ、どうしてわたくしの所に来ないのよ!!」
「………」
「前はあんなにも、わたくしの側に居てくださったでしょう?」
「……はぁ」
するとカーティスは久しぶりに会えたのにも関わらずに、以前のように喜びもせずに鬱陶しそうに眉を寄せて溜息を吐いた。
「……僕は君と違って公務で忙しかったんだ」
「わたくしだって…!」
「アンジェリカ、今はそんな下らない事を話している暇はないんだ」
「………は?」
「僕はサラに挨拶してくるから、いいかな?」
「っ!?」
カーティスはまるで、此方など眼中にないようだった。
サラにチラチラと視線を送っている。
どうやらカーティスはサラの元へ行きたくて仕方がないようだ。
「すまないが、そこを退いてくれないか?」
「ちょっと待っ……!」
「サラ、待ってくれ!!」
まるで最初から居ないように、無理矢理退かしたカーティスは嬉しそうに笑顔を浮かべながらサラの元へと走って行ってしまった。
その場に取り残されて唖然としていた。
クスクスと笑い事が聞こえて、笑った奴等を鋭く睨み付ける。
再びサラを見れば、小さく会釈をしてからニッコリと微笑んだ。
そしてカーティスと会話しながらアンジェリカに背を向けて歩いて行く。
(なによっ…!力の無い異世界人の聖女が、わたくしの邪魔をするというの!?)
いつの間にか再びサラが現れたことに対する喜びは消え失せていた。
(鈍色の聖女のくせにッ!)
苛立ちに任せて、柱を蹴り上げる。
ギリギリと歯軋りをしながら苛立っていた。
声を掛ける者は誰一人いなかった。
しかしサラがいくら持て囃されようとも、聖女としての力は上である。
それは紛れもない事実なのだ。
(サラは鈍色の聖女……わたくしは最高ランクの純白の聖女なのよッ!?その内わたくしの存在がいかに大切か思い知るに決まっているわ!!焦ることはないの…きっと今だけよ)
この贅沢で特別な生活を手放したくはない。
国王や王太子と肩を並べる"聖女"の地位をどうにかして守りたい。
聖女でいる限り、ずっとこの場所にいる事が出来る。
どうにかしてサラを大結界の生贄として使い、身代わりにする。
そして自分は聖女として、この国で君臨し続ける方法を考えなければならない。
そんな決意を胸に固く拳を握りしめた。
*
「サラ……!」
「何でしょう…王太子殿下」
「僕の事はカーティスと呼んでくれたまえ」
「では、カーティス殿下と呼ばせていただきます」
「あぁ…今はそれでもいいよ。暫く城に滞在するんだろう?分からない事があったら何でも聞いてくれ」
「恐れ入ります」
「それにサラは随分と酷い目にあったんだね。それも記憶を無くすほどなんて…」
「村の人達が良くして下さいましたから」
「良かったら今度、詳しい話を聞かせてくれないか?僕は君の力になりたいんだ」
カーティスは嬉しそうに笑うと、此方に触れようと手を伸ばす。
すると黒いフードを被っていた子供が、庇うように前に立つ。
そしてあろうことかカーティスに向かって手を振り上げたのだ。
それに気付いて制止しようと手を伸ばしたが間に合わない。
ーーーパシッ!
隣にいた男がカーティスを叩く前に、間一髪で子供の手を掴んだ。
カーティスは驚いて目を見開いている。
まさか王太子である自分に手を挙げようとする者がいるとは思わなかったのだろう。
「…っ!?」
「……申し訳ありません!!ライン…ヨムを」
「はい…!」
ラインと呼ばれた男は、ヨムと呼ばれた子供を抱き抱えて後ろに下がる。
悲しげに眉を寄せて、丁寧に頭を下げた。
「カーティス殿下、ご無礼をお許しください…!」
「あ、あぁ…」
「ヨムは大切なモノを奪われて、誰も信用出来なくなってしまったのです。どうしても私の側に居たいと言うので、辺境の村から連れて参ったのです」
「それは、なんと酷い目に…」
「えぇ……ラインは私の護衛なのです」
ラインと呼ばれた人物は、足をジタバタ動かす子供を抱えながらペコリと頭を下げる。
「それでは部屋に着きましたので、本日は失礼させて頂きます」
「サラ…よかったら明日、ゆっくり話さないか?」
「明日でしょうか?明日は街に降りて教会で祈りを捧げようかと」
「僕も同行しよう…!」
「……ありがとうございます。カーティス殿下が御一緒して下さるなんて心強いです」
「…っ!美しい君の為なら何だって出来そうだ」
「カーティス殿下にライナス女神の加護があらんことを」
「あっ……サラ」
「……失礼致します」
カーティスの熱烈なアピールを、そつなく躱しながら二人と共に部屋へと入る。
パタリとドアが閉まる音が廊下に響く。
(……絶対に君を振り向かせてみせるからね)
カーティスはサラが入っていったドアに向かって、熱い視線を注いでいた。




