31.別人
(……もう一人の聖女は、こんなにも)
この国にはない艶やかな黒髪と宝石のような瞳。
初めてサラが召喚された時、アンジェリカしか見ていなかったカーティスはボロ布から現れたサラがあまりにも美しく驚いていた。
こうして対面してみると、アンジェリカの華やかさとは違い、可憐で純真な姿はライナス王国の女性には珍しい為、自然と目を惹かれてしまう。
視線が絡むと、サラはまるで聖母のように柔かに微笑みを浮かべて此方に会釈をする。
サラから目を離せなかった。
(……異世界の聖女、サラが欲しい)
「……私の顔に何か?」
「いいや、何でもないよ」
そんな熱い視線を感じ取ったサラが問いかけると、カーティスが静かに首を振る。
頬を染める姿を見て目を見開いた。
そんなカーティスを睨みつけるが視線はサラに向いたままだ。
大きな咳払いの後、国王が口を開く。
「捜索隊を出していたんだが、なかなか見つからなくてな…すまなかった」
「捜索隊……?私を探していたのですか?」
「勿論だとも!異世界人の聖女は女神ライナスからの贈り物だからな」
「…そうなのですね。後ろにいる二人が何も知らない私を助け出し、救ってくれたのです」
「その者たちは…」
「辺境の村の者達です」
「そうか、何も力になれずに申し訳なかった。辺境の村にも捜索隊を派遣したはずなんだが……」
「……御心遣い感謝致します」
「辺境の村の民よ、異世界の聖女を助けてくれてありがとう!儂から御礼を言おう」
国王から声を掛けられて、跪いていた二人はさらに深く頭を下げた。
サラは国王に向き直ると不思議そうに口を開いた。
「それよりも陛下、"異世界"や"聖女"とは何のことでしょうか?」
「……!?」
「私は記憶を失っています。自分の名前以外、何も覚えておりませんでした」
「なので私は辺境の村でシスターとして働きながら過ごしておりました」
「…シスターだと?」
「はい」
国王は驚き声を上げた。
サラは自分が聖女として召喚されたことも全く記憶にないのだという。
何者かに連れ去られた時の恐怖とショックで記憶を無くし、倒れていた所を運良く助けられて、辺境の教会でシスターとして静かに暮らしていたのだという。
そしてサラを召喚した経緯や聖女の役割を国王が話すと、平然と聞き返した。
「陛下……本当に私は、聖女なのでしょうか?」
「そうだ。女神ライナスによって召喚された異世界から来た聖女だ」
「信じられません……ですが私が此処に来たのはこの事を知る為だったのかもしれません」
サラは祈りのポーズを取りながら、皆に聞こえるように呟いた。
「……女神様のお導きに感謝を」
サラの言葉に、ザワザワと周囲が騒ぎ出す。
「聖女サラよ…っ、まさか女神ライナスの声を聞いたのか!!」
「はい、陛下……何故私が、わざわざ辺境の村からここまで来たのか。それは女神様に導いて頂いたからです」
「おぉ、何ということだ!!」
国王が嬉しそうに手を合わせる。
初代聖女は女神の声を聞いたという。
稀に女神の声が聞こえる聖女が現れる事は周知の事実だ。
「それでは、女神様のお言葉を聞き届ける事が出来たので、私は辺境の村に帰らせて頂きます」
「もう少し…」
「ちょっと待って頂戴ッ!!」
「……?」
声を荒げたアンジェリカにサラは首を傾げる。
国王の言葉に被せるようにしてアンジェリカが割り込んできた為、批判的な視線が集まっている。
コソコソと咎める声が、辺りから聞こえ始めた。
「……アンジェリカよ、今は儂が話している。少し落ち着きなさい」
「陛下、此方の方は」
「純白の聖女アンジェリカだ」
「そうだったのですね…!ご尊顔を知らずに失礼致しました」
「…っ!」
「純白の聖女様にお会いできて光栄でございます」
サラは嬉しそうに腰を折る。
まるで初めて会ったかのような口振りだった。
(本当に記憶が無いの…!?)
それに純白の聖女であるアンジェリカが女神の声が聞こえないのに、鈍色の聖女であるサラが女神の声を聞き届けられるのなんて、どう考えてもおかしいではないか。
(女神の言葉を聞き届けたなんて絶対に嘘よッ!!)
サラが見つかったのはいいが、女神の声を聞けるサラと強い聖女の力を持っているアンジェリカ。
国王達は、果たしてどちらを犠牲にするのだろうか。
(……絶対にわたくしの方じゃない!!)
けれどサラを引き留めなければ、この場所で生き残る道はない。
それにサラがこのまま辺境の村に帰ってしまえば、犠牲になるのは確定してしまう。
どちらを選んだとしても立場は不安定だが、立ち回り次第では、まだまだ可能性はあるだろう。
その為には、サラには大結界の儀式まで居てもらわないと困るのだ。
それに異世界の聖女である事には変わりはない。
(考えるのよ!!どうにかしてこの女を使ってわたくしが生き残ってみせる!)




