26.純白
「でも……僕はサラ様に申し訳ない事をしました!貴女を平気で騙して利用したんです」
「別にいいじゃない」
「…!?」
「より賢いものが上に立つ…当然だわ」
「………サラ様?」
「もう捨てられた幼い貴方はどこにもいない。今はこんなに力があって知恵もある。どこにでも行ける足もね…」
「……」
「私に申し訳ない気持ちがあるのなら、協力して頂戴」
「え…?」
「貴方にしか出来ない事がある。私は貴方の力を必要としているわ」
「……僕の、力?」
「貴方は変われる……さぁ、私の手を取って?」
プラインは強く頷くと恐る恐る手を取った。
抱えている罪悪感…それを利用しない手などない。
プラインとは違って利用する事を申し訳ないとは思わなかった。
城の内部で働いていたプラインの情報は大いに役に立った。
この世界で生まれた人間でもあり、魔族と共に生活をしている特殊な存在。
プラインは同じ境遇にいるサラに共感と救いを求めているのだろうか。
けれど目的は破壊、プラインは共存を求めている。
行き着く先は全く違う道である事は確かだった。
*
「またそんな面倒な事をしているのか……」
「……ヨム、邪魔よ」
「また魔王様を呼び捨てに…!」
部屋で洗濯物を畳んでいた。
魔族達とは違い、聖女の魔法しか使えない為、自分の身の回りの事は全て手作業だ。
暇があれば直ぐに現れるヨムドイト。
煩わしくはあるが、復讐を成し遂げる為に最も必要な存在だ。
無駄に邪険にする事も出来ない為、適当にあしらっていた。
魔族の王として崇められていヨムトイドは魔王と呼ばれるに相応しい男だった。
残虐で、享楽的で、圧倒的な力と存在感で見る者の心を惹きつけるのだ。
「我が許したのだ……将来、妻になる女だぞ?」
「魔王様、まだそんな戯言を!」
「……はぁ」
「サラ、白い服は着ないのか?お前には白がよく似合うというのに…」
今畳んでいる服は黒ばかりだ。
以前、白い服をよく好き好んで着ていた。
聖女の服も白と金色が使われている。
まるであの女神を彷彿とさせる色を見ると嫌悪感が湧いてくる。
此処に来てからは黒しか着ていない。
大好きな色だった白は、大嫌いな色に変わってしまった。
その言葉を聞いてピタリと手を止めた。
そしてヨムドイトを鋭く睨みつける。
「貴方のそういう所が大っ嫌い」
ヨムドイトは気を引きたいが為に、こうした下らない事を言って煽り楽しんでいる。
洗濯物を畳み終わるとヨムドイトを無視して、そのままテラスに出た。
魔王城からはライナス王国の大結界が遠く見渡せる。
ライナス王国を見て考え込んでいると、探す声が遠くから聞こえる。
「ーーーサラ様、サラ様はいらっしゃいますか‥っ」
「…プライン、そんなに慌ててどうしたの?」
「サラ様…っ!」
プラインが慌てた様子で駆け込んで来る。
その肩は上下に動いており、焦っていることが伝わってくる。
「はぁ、はぁ……ビスが!ッ、怪我をしてしまって!」
「ライナス王国の兵にやられたの?」
「はい、魔族の子を庇って…!それでっ」
どうやら攫われた日から、ライナス王国が捜索隊を出しているようだった。
あの女神を信仰しているからか、必要性があるのか……それともアンジェリカの頼みだからかは分からないが、ライナス王国の兵が大結界の外にも彷徨くようになった。
ビスはプラインの育ての親だった。
ビスはライナス王国でいう騎士団や警備隊のようなものを率いている。
故に魔族達を率いて侵入者を排除する為に、いつも最前線で戦っていた。
ビスは魔族が住む場所に入ってくる人間を追い払う為にいる。
以前から何度もビスの体を治療しているが、生々しい傷跡が体を覆い尽くしている。
「今行くわ…」
プラインに連れられて、早足でビスの元へと向かった。
「ビス、怪我を見せて」
「ほらビス、サラ様が来たわ…!」
「サラ様!もう大丈夫だよ、ビス」
「あぁ…!サラ様」
ビスは魔族が集まる中、地面に横たわっていた。
腹部には黒々とした血が流れている。
すぐにビスの側に駆け寄った。
「……少し、痛むと思うけど我慢してね」
「ゔぅ……サ、ラさま」
「喋ってはダメよ」
怪我に手を当てて深く息を吸い込む。
眩い光が少しずつ少しずつ傷を修復していく。
幸い、聖女の力は魔族に対しても有効なようだ。
気持ち次第で薬にもなるし毒にもなる。
怪我を治すことも出来るが、魔族を傷付け殺す事も同じ力で出来てしまう。




