25.戒め
「サラ様」
「……サラ様だわ」
「サラ様…!」
「皆、おはよう」
魔族達から次々に声をかける。
魔族の国で"サラ"の事を知らないものは居ない。
いつも黒いドレスに身を包んでいた。
ドレスといっても豪華なものではなくワンピースに近い。
楽な格好がしたいのに、ヨムドイトはドレスや宝石で着飾らせようとする。
初めこそ全てゴミ箱に捨てていたが、着替えがないと気付いてからは仕方なく一番シンプルで動きやすいものを着ていた。
ーーーヨムドイトと契約したあの日から魔王城で暮らす事になった。
最初は人間であり聖女でもあるサラを警戒する魔族が、此処に留まることに大反対していた。
けれど、ヨムドイトが力を取り戻した事を知ると、"魔族の敵"から一気に"英雄"になった。
ヨムトイドの指示により、数人の女性魔族とプラインが付くことになった。
身の回りの世話をしようとする魔族に断りを入れていた。
「自分の事は自分でやりたい」と言ったのだ。
そして、そんな姿を見たヨムドイトは「未来の我が妻の世話を何故しないのだ」と怒りを見せた。
怯える魔族達を庇いながら、毅然とした態度で言った。
「私は妻でも姫でもない……自分の事は自分で出来るわ」と。
以前、ライナス王国での扱いは、まるで一国の姫のようだった。
普通の学生だった以前の生活とは違い、周りは見た事ない程の贅に溢れていた。
浮かれていなかったと言えば嘘になる。
やはり特別な扱いを受ける事は、とても嬉しかったのだ。
けれど、それは純粋な親切心などではない。
贄になる聖女に向けての贖罪のようなものだ。
あの顔を見る限り、その事を"罪"だと思ってすらないだろうが。
そんな馬鹿な自分を思い出しては戒めていた。
そして大結界を張る少し前まで身を隠さなければならない。
ライナス王国に戻るのは全ての準備が整ってからだ。
それまでは、聖女サラは死んだ…もしくは居なくなったと思われていた方が都合が良いと判断したのだ。
ライナス王国の情報を集めつつ、存在を隠すのにこれ以上、役立つ場所など他にないだろう。
そしてプラインが居たことで、魔族の生活に直ぐに馴染むことができた。
やはり種族が違えば、気を付けなければならない事も多い。
プラインの育ての親を紹介されて、魔族の仲間になった経緯を聞かされた時に初めて、プラインの言葉や態度の理由が分かったのだった。
「怖くないのですか?」
「貴方は一体、何をそんなに怖がっているの?」
「僕は……また一人になるのが怖いんです」
「そう」
「っ、サラ様は一人になるのが怖くないんですか…?」
「……」
「魔族にも人間にもなりきれない僕は結局、中途半端な存在なんです!だからいつも不安で…!」
「居場所なんて不安定なものに縋って何になるの…?」
「え……?」
「いつ崩れるか分からないものに怯えてばかりいないで、貴方は一人で立った方がいいわ」
「一人で、立つ……?」
「貴方が捨てられたという事実は変わらない………そして、裏切られる事実もね」
プラインは激しい怒りを感じてか口をつぐんだ。
「っ…」
「永遠なんてないわ……変わらないものなんてない」
自分に言い聞かせるように呟いた。
以前はアンジェリカとの関係を取り繕うのに必死だった。
カーティスとアンジェリカが居てくれなければ、一人になると思ったからだ。
無意識に、積み上げてきたものを壊したくないからと全てを許していた。
アンジェリカにとっては邪魔者でしかなかった。
貶めて何も知らないからと庇うフリをして、恥をかくのを遠くから見て笑っていたのだろう。
アンジェリカは初めから欲を満たす道具くらいにしか思っていなかった。
嘲笑うだけの存在だったと気付いたのは裏切りの後。
無意識に二人に縋っていたのだろう。
本当は違和感に気付いてすぐに手を離さなければならなかった。
二人と離れる事が怖かったのかもしれない。
一人になりたくなくて懸命に愛想を振り撒いていた。
聖女として役に立たなければと、自分の価値を証明しなければいけないと思っていた。
今のプラインのように、自分を受け入れてくれる場所で孤独に怯えていたのだ。
優しいアンジェリカがそんな事をするわけないと、だから仕方がないんだ……そう自分を無理矢理納得させていたのだろう。
ーーーだから利用された。
生きてる限り不変なものなど有りはしない。
縋り続けて何になる?
(自分を犠牲にしてまで守る幸せなんて、幸せなんかじゃない)




