24.アンジェリカside
ーーーサラが召喚された日
王城内にある豪華絢爛な部屋で、国王から説明を受けていた。
あの後、侍女達にピカピカに磨き上げられて、髪も肌も全て手入れされて純白の聖女の服に身を包んだ。
最高の気分で紅茶を飲んでいた。
侯爵家にいるときよりも、ずっと良い扱いと侍女の数に上機嫌だった。
(あの異世界人の顔、最高だったわ!何も知らないサラがこれから城の人達にどんな扱いを受けるのか…大体、想像がつくわ)
甘い言葉で味方になって、後々捨ててやるのか。
将又、初めから従わせるか。
(あぁ…楽しみ!!今頃、汚い部屋にでも案内されていたら最高に面白いわね)
これだけの差を見せられたら、妬み、恨み言の一つでも吐くだろうか。
それに悪く言っていた令嬢達にも、この現状を見せつけてやりたかった。
もう口出しすることは出来はしない。
憎しみに歪む令嬢達の顔を見たら、きっと心は晴れやかになる事だろう。
純白はいつも異世界人に受け継がれる色だ。
それが今では純白の色は自分のモノだ。
ライナス王国で初めての"純白の聖女"になった。
異世界人であるサラは鈍色という最低ランク。
国王や侍女達が頭を下げるこの現状は、心を深く満たしてくれる。
(ああ…皆がわたくしを必要としているのよ!)
「あぁ……アンジェリカ、君はなんて美しいんだ」
「カーティス殿下…」
「カーティスと呼んでくれ…君の瞳に映ることが出来て僕は幸せだよ」
カーティスが手を握り、嬉しそうに微笑むと手の甲にそっとキスを落とす。
カーティスはこの国の王太子で令嬢達の憧れの的である。
鮮やかな赤い髪と瞳……男とは思えない程に美しいカーティス。
仕草は洗練とされており、豪華な服に身を包んだカーティスが跪く。
何より特別扱いをしてくれるカーティスに直ぐに好意を持った。
柔らかい雰囲気に優しそうな性格。
その赤い瞳は"アンジェリカ''だけを映し出していた。
これから訪れる明るい未来に、感情が高揚していた。
ーーーそんな時だった。
「国王陛下……大変ですッ!!」
部屋に慌てた様子で、声を張り上げた侍従がやって来る。
「純白の聖女、アンジェリカ様の前だぞ…!」
「も、申し訳ございません……純白の聖女様」
許可を出すと、侍従は跪いたまま話し出す。
「鈍色の聖女様が…何者かに連れ去られましたッ!!」
「なんだと!?」
「サラ様が……っ!?」
思わず声を上げた。
サラが居なくなってしまえば、楽しみが一つ減ってしまうではないか。
比較出来る対象がいなければ詰まらない。
必ずライナス王国を救う、といわれている異世界人よりも特別な存在である自分を引き立てる存在が居なくなるなんて。
胸を押さえると、カーティスが「大丈夫だよ、アンジェリカ…」と肩を抱いて甘い声で囁いた。
カーティスの手に自らの手を重ね合わせて頷いた。
「サラ様はどこに…!?」
「最後に目撃されたのは城下の裏道に青年と一緒に入って行くところでした!その後、荷馬車が通ったと…」
「ーーッ!!」
「連れ去られたのなら、もう…この国には居ないかもしれません」
侍従は顔を青くした。
その体はガタガタと震えていた。
周囲にも不安が広がっていく。
いくら力が少なくても異世界人の聖女は、ライナス女神の導きで召喚された大切な存在である。
どんな聖女でも結界を張るのには役立つ。
只、事情を知らない人達にとって聖女は女神と同じように尊い存在なのだ。
「……天罰が下るわッ!!」
「恐ろしい…!」
「聖女様が居なくなるなんて…っなんて事を」
「もし、異世界人の聖女様が見つからなかったら…!」
その場に居た侍女達が声を上げる。
「皆、聞け…!まだ異世界人の聖女の存在は、民衆に発表していない」
「!!」
「急いで探せば大丈夫……そうだな?」
力の篭った国王の言葉に、皆が戸惑いながらも静かに頷いた。
「そ、そうですな…!」
「……まだ近くに居るはずだッ!!すぐ様捜索隊を出せッ」
思わぬ展開に爪を噛んだ。
やはりサラという"玩具"が居ないのは悔しい。
こんなチャンスは、二度とないかもしれないのに。
「あのっ…サラはこちらに来たばかりで不安だと思います!」
「アンジェリカ様…」
「できれば早く探し出してあげたいのです!わたくし、同じ聖女として不安で……」
「純白の聖女様の願いだ。聖女サラをすぐに探してくれ」
「かしこまりました!」
「ありがとうございます…っ」
涙を拭うフリをした。
自分が人に対する優しさや、慈愛の心が少ないのは自覚している。
何故、女神に聖女として選ばれたのかも分からない。
けれど誰よりも優れていると、美しく特別な存在である事を証明したかった。
(居なくなったら居なくなったで詰まらないじゃない……苦しむ顔が見たいのに)




