23.疑惑
「……貴方と協力はするけれど、貴方のモノになるつもりも、女になるつもりはない」
「まぁ、今はこのままでいいだろう」
「……最後に問おう。本当にいいのか?」
「いい加減うんざりよ。貴方が何を言おうと私の意思は変わらないわ」
「そうか」
「……」
ヨムドイトの言っている言葉の意味など分かりたくもなかった。
それを契約した後に言うのも、おかしな話だ。
やはりヨムドイトの考えを理解する事は出来ない。
「お前の望みは叶えられる……最高の闇と共に」
声を高らかに宣言するヨムドイトは上機嫌に笑っていた。
上手く使わなければ、計画は滅茶苦茶になってしまうかもしれない。
こうなった今では、諸刃の剣のように思えてならない。
「少し力が戻っただけで、随分とデカイ事を言うのね」
「これだけ力が戻れば十分だ」
「…そうかしら?」
もしかしたらヨムドイトに力を戻した事は、早計だったかもしれないと思っていた時だった。
「サラ、お前は魔族の事は何も知らないだろう?」
「……」
確かに本来ヨムドイトが持っている筈の力を知らない。
(ヨムドイトが力を取り戻したら、果たしてどうなるのかしら)
そこまでの力を持つヨムドイトだからこそ、あの女神は魔王を恐れて姑息な手を使ってでも闇の宝玉を奪い取りたかったのかもしれない。
そして宝玉を取り戻せないように、魔族がライナス王国へと入れない結界を張った…そう考えるのが普通だろう。
「それが虚言でない事を祈っているわ」
「フッ、それはお前の方だろう?」
「……何ですって?」
苛立ちをぶつけるようにヨムドイトの胸を掴む。
至近距離で噛み付くように吠えた。
「私が欲しいものは、只一つだけよ…!」
「……」
「この私が、私の手で全てをブッ壊すのよッ!!」
「ははっ、聖女とは思えないな」
純白の聖女としてのサラは死んだのだ。
余裕の笑みを浮かべているヨムドイトに見透かされているようで気分が悪い。
求めているのは、全てを奪い取る事。
それが許されない事だとするならば、何なら赦される?
泣き寝入りすることが正しさなのか?
己の欲を叶える為ならば神にですら唾を吐きかけてやろう。
血みどろの魔法陣に縋った少女達の恨みを晴らし、国を焼き、心が腐った王族と聖女に相応の罰を与える。
その為ならばクソみたいな思い出も、甘えも、優しさも……今まで積み上げてきたもの全てを投げ捨てよう。
そしてライナス王国の残骸の上に立って初めて、心から笑えるのだ。
「……まぁ、そう警戒するな。時間はまだある。ゆっくりと我に惚れるがよい」
「あは……私の記憶を見たでしょう?馬鹿にしてんの?それに、また騙されて捨てられるんじゃない?」
「サラは優しいなぁ…?我の心配をしてくれるのか」
「……」
「それに、契約書は我の手にあるからな」
「だから何だと言うの?」
「お前は最後まで裏切れないだろう…?勿論、我もだ」
「……!」
「もっと信用したらどうだ?」
「チッ…」
全て捨てたつもりでも感情とは厄介なもので、無意識に此方を振り回してしまう。
抑え込んでいる部分に簡単に踏み込んでくるヨムドイトに警戒心は強まるばかりだ。
絆そうとする目的はよく分からないが、その言葉を鵜呑みにする事はない。
ーーー以前のように。
あの時、カーティスが愛してくれているのだと信じて疑わなかった。
まるで絵本の王子様のように、愛を誓い幸せに暮らせると思っていたのだ。
国を守りながら、これからの未来を共に歩んでいくと思っていたが、婚約を破棄する前提で動いていた。
そんなカーティスに笑顔で騙されていたとも知らずに、幸せな未来を夢見ていたのだ。
そして浮かれながら魔法陣の前に立ち、簡単に地獄へ沈められた。
『ずっと僕の側にいてくれ…』
『サラ…もし大結界が無事張り終えたら、僕と結婚しくれないか?』
『僕にはサラしか居ないんだ!サラの事しか考えられない…』
『良かった……あぁ、サラ!愛しているよ』
カーティスの偽物の愛に踊らされていた。
愚かで馬鹿な女に見えた事だろう。
ヨムドイトの姿がカーティスと重なって見えた。
「サラ、お前の心が欲しいのだ」
「はぁ…」
「お前を我のものにするまで諦めないからな」
「……好きにしたら?下らない」
「我を本気にさせた事、後悔するなよ……純白の聖女よ」
「ーーー次に私をその名前で呼んだら、聖女の力でその顔を焼き潰してやるッ!!!」
「ハハッ、それは楽しみだな!」




