21.共闘
「貴方も神みたいなものでしょう?」
「あぁ……本質は違うが同じようなものだ」
女神も魔王もどれだけ偉いのかは知らないが、異世界人のサラにとっては関係のない話に思えた。
人と同じような姿形を取っているが、やはり別の存在なのだ。
只、女神よりもヨムドイトの方が人間に近いような気がした。
機嫌が良いのか顎を指で掬い上げて楽しそうに笑っている。
強制的に交わる視線…ヨムドイトの腕を掴むがビクともしない。
「まぁ、生半可な奴に闇の宝玉が力を貸すとは思えぬからな」
アンジェリカとライナス王国に裏切られて踏み躙られた後……魔法陣の中に飲み込まれながら、強い想いが積み重なった聖女達の悲しみと憎しみを引き寄せた。
恐怖、憎悪、痛み……言葉に表せない程の泥々に穢れた負の感情。
それは大結界を張るのに必要な闇の宝玉に知らず知らずのうちに溜まったものだ。
それを取り込んだ為、器は人間で聖女だが、中身はもう……人間とは言えないかもしれない。
女神から聖女の力を奪われたが、代わりにあるものを得ていた。
女神は恐らく、その事に気付かなかったのだろう。
それが女神の力に抗えるものだと気付いたのは、女神の力に絆されなかったからだ。
女神は聖女達から許しを得たのではない。
許されるように仕向けただけだ。
そして抜け殻のような聖女を元の世界に戻して無理矢理辻褄を合わせたに過ぎない。
けれど……今回それに引っ掛かる事はなかった。
だからこうして、此処に立っている。
そしてそれをヨムドイトに全てを受け渡した。
「そうね」
「これからどうする?何か策があるのか?」
「えぇ、今からじっくりと甚振る方法を考えるわ」
「ふむ、精々愉しませてくれよ?」
「絶望に喘ぐ様を嘲いながら見るの……貴方も好きでしょう?」
「ふっ…恐ろしい女だ。以前は無垢な天使のようだったのに」
「天使?愚か者の間違いじゃないかしら」
「狂ったお前は以前よりも、ずっと美しいな…」
「いきなり何…?意味がわからない」
「フフッ……我は今、最高の気分だ」
喉を震わせて笑うヨムドイトを睨め付けていた。
先程の雰囲気とはガラリと変わり"魔王"という言葉が相応しいように思えた。
*
(……一体、何が起こったんだ?)
以前の姿に戻ったヨムドイトと抱き合うサラを見て唖然としていた。
何故ただの異世界人と魔王であるヨムドイトが命を賭けた契約をしなければならないのか。
どうしてサラの言う通りに動くのか。
不思議で仕方なかった。
ヨムドイトに時間がない事は十分理解していた。
しかし最初の計画とは随分と違う道に進んでしまっている。
(異世界人……しかも聖女に頼らなければならないなど有り得ない!)
それにヨムドイトを"腑抜け"と侮辱したサラを捻り潰してやりたかった。
サラがヨムドイトに触れようとした時に、ヨムドイトを守ろうと足を一歩踏み出して、サラを引き止めようとした。
けれど、視線が「来るな」と訴えかけた。
二人は視線を交わしてから、あろう事かサラはヨムドイトと口付けたのだ。
そこから全てが変わった。
ただ一つだけ確かな事は、サラのお陰で魔王ヨムドイトの力が戻ったという事だ。
暫くすると唇が離れた。
何も言えずに二人を見ていることしか出来なかった。
笑い合う二人の間にあるのは狂気と歓喜。
腹の奥底がゾワリとするような恐ろしい笑い声が響く。
(闇の宝玉が無いのに……一体なぜ)
満ち溢れる闇の力に鳥肌が立った。
ヨムドイトの力が戻った事は喜ばしい事だが、"魔王"の力の源となる闇の力を受け渡したのは、確かに"聖女"と呼ばれた女からだった。
(何者なんだ…?)
果たしてサラの手を取る事が、魔族に利することになるのか。
それともライナス王国の初代聖女のように絶望をもたらすのか。
(私がしっかりしなければ…!)
ヨムドイトがサラに気を許しても、常にサラを疑わなければならない。
再び魔王ヨムドイトが傷付くことなどあってはならないのだ………絶対に。
「サラを仲間として迎入れる。リュカ、準備をしろ」
「……。はい」




