18.協力
「えぇ……勿論」
「………」
その言葉に迷う事なく頷いた。
「何度でも言うわ……ライナス王国と純白の聖女を地獄に引き摺り込むの」
魔王を見据え、にこやかに微笑んだ。
「その為なら、協力は惜しまないわ」
「……」
「それに、闇の宝玉も取り戻せて一石二鳥でしょう…?」
「……」
提案に喜んで食いついてくると思いきや、予想外の反応を返されて拍子抜けしてしまった。
疑われるのは仕方ない事だが、魔族はライナス王国を恨んでいるのではないだろうか?
(思っていた反応と違うわね)
「ライナス王国を、潰したいとは思わないのですか…?」
「それは…」
「宝玉を取られたままで良いのですか?」
「……」
口籠もるリュカと何も言わないヨムドイトに痺れを切らしたのは此方の方だった。
笑顔は消え失せ、声を低くしてヨムドイト達に問いかける。
「いい加減に、黙りも飽きたわ」
「……」
「それとも……魔王というのは名前だけで、欲しいものの前で指を加えている、ただの腑抜けかしら?」
「貴様ッ…!!」
ヨムドイトを煽るように言うと、一瞬にしてリュカが移動して胸元を掴み持ち上げた後、刃物のように伸びた爪が首に食い込んだ。
「……やめろ」
ヨムドイトの静かに響く声…ピタリとリュカの腕が止まる。
リュカは顔を歪めて手を震わせている。
爪先が皮膚に食い込んで、タラリと白いシャツに真っ赤な血が滲んでいく。
怯えもせず、喚きも叫びもせずにリュカを睨みつける。
そして胸元を掴むリュカの腕に手を添えて、何事も無かったように言い放つ。
「気が済んだなら、さっさと離して頂戴」
「…っ」
リュカは無意識に一歩後退した。
その視線は冷たく、底知れぬ闇を抱えていると思ったからだ。
シャツの袖で適当に血を拭った。
体の中にある怒りと狂気は膨らんでいく。
「ーーハハッ!頭がイカれた聖女も居たもんだな」
「魔王様…」
「リュカ、下がれ」
「し、しかし…!」
「………二度も同じ事を言わせるな」
空気が震えるほどの威圧感をヨムドイトから感じて、目を細めた。
やはり紛れもなく魔王なのだろう。
リュカは唇を噛み締めてから悔しそうに、スッ…と側から離れた。
「手荒にしてすまないな、聖女サラよ」
「思ってもない事を口にしないで……気持ち悪い」
「ふっ…面白い女だ」
ヨムドイトは背もたれに寄り掛かりながら、静かに息を吐き出した。
「折角の申し出に乗りたいところだが…」
「………」
「残念ながら、お前の望みは叶えられそうにない」
「…それは何故かしら」
魔王とは思えない弱気な発言に眉を潜めた。
どうやら想像していたような傲慢で自信家な魔王とは少し違うようだ。
それとも、虚勢を張られるよりはマシだと考えるべきだろうか。
「闇の宝玉は長年、我の手から離れているせいで力の殆どを失っている」
「………」
「我の力は失われるばかりで戻ることはない…故にこのような姿になっているのだ」
闇の宝玉はヨムドイトにとっては必要不可欠なものなのだろう。
力が失われた事でヨムドイトは子供の姿まで退化しているのだとしたら…。
(それなら、大した問題じゃないわ‥)
つまりは、力が戻れば協力する意思はあるという事だ。
ならばヨムドイトにとって、持っているものは最大の力となり切り札となるだろう。
(うまくいきそうで良かったわ…)
明るい未来にクスクスと笑みを溢す。
「…何がおかしい」
「ふふ……それは力さえあれば、私の願いを叶える為に協力してくれるという事でしょう?」
「……そうだな。闇の宝玉があれば我が馬鹿な人間共を引き裂く事など造作もない。ライナス王国を消し去る事もな」
「貴方は宝玉を取り戻す為に。私は国と聖女を壊す為に互いに協力する…それで間違いない?」
「あぁ……闇の宝玉が手元に戻れば、お前の願いでなくともライナス王国は消すつもりだった」
「そう…」
その言葉を聞いて静かに頷いた。
ヨムドイトの言葉は、これ以上になく最高のものだ。
「裏切らない証明が欲しいわ」
「そんなものが無くても、魔族は絶対に約束を違えない」
「………"絶対"なんて無いのよ」
「何だと…?我が一度交わした約束を破るとでも?」
「いいえ……けど、私は相手が貴方じゃなくても同じ事を言うでしょうね」




