17.欲望
「私には判りかねます……果たして力のない聖女を呼び出して何の使い道があるのか」
「女神ライナスは何を考えているのだ!これ以上、世界のバランスを崩し続けたら…っ」
「今回はライナスの民を使う可能性が高いかと…」
「はっ……馬鹿ばかりで嫌になる」
暫く二人の会話を黙って聞いていた。
どうやら国の奴らも糞なら、その国を守る女神も相当頭がイカれているらしい。
(……どうしようかしら)
取り敢えず女神の事を考えるのは後回しだ。
まずは戦う為の駒をキチンと揃えていかなければならない。
ヨムドイト達を引き込んで初めて、この復讐は成功するだろう。
初めて会った魔王を、どこまで引き込めるか。
どれだけ有用性を示す事ができるのか。
そこで立場や運命が決まる。
此処からが勝負だ。
「サラよ…我々にはもう時間が無いのだ」
「………」
「仕方ないが、お前を人質にしてライナス王国を…」
「………残念ながら、それは無理だと思います」
「何故だ…」
「私は鈍色の聖女でライナス王国の聖女は純白の聖女……私が居なくても大結界は張られる事でしょう」
「…!」
「それに召喚したばかりの異世界人…国にとって大結界を張る為に必要である聖女が消えても、ライナス王国から追っ手すら来なかった……そういう事です」
「ふむ…」
「闇の宝玉を取り戻したいのですよね…?」
「………そうだ」
本来は魔王が持っている筈の闇の宝玉。
「私なら宝玉がある部屋まで入ることが出来ます」
「異界から召喚されたばかりのお前が何故、宝玉のある場所を知っているのだ」
「…………」
「…本当に異界から来たばかりか?」
「……いいえ」
「!?」
魔王の言葉に首を横に振る。
異界から来たばかりではない。
憎き女神に、自らの命と引き換えに願いを叶えてもらい得た二周目の生だ。
下手に知らないフリをしてしまえば、ヨムドイトの信用は勝ち取れない。
辻褄が合わなくなれば、そこから綻びが生まれてしまう。
(ここは慎重に…少しでも疑われてはいけない)
「……私と、取引きをしませんか?」
「この我と、たかが異世界人が取引きだと…?」
「えぇ」
ヨムドイトは気に入らないのか不機嫌そうにしている。
それだけでピリピリとした圧を肌に感じる。
怒りを滲ませても余裕のある態度を崩さない‥崩してはいけない。
(恐怖心など捨ててしまえ)
あくまでも望むのは"対等な取引"だ。
お願いをしてヨムドイトに動いてもらうのでは、目的を達成する事は難しくなる。
あくまでも協力関係…ただ従うのではなく、互いの目的の為に利用し合う関係。
そこまで持っていく為には、どれだけヨムドイトの関心を惹きつけられるかにもよるだろう。
「私は、どうしても欲しいものがあるのです」
「……お前、我に会う為にわざと捕らわれたのか」
「ふふ…」
敢えて否定はしなかった。
今、手元に残っているのは、以前の十分一程度の力だ。
持っていた本来の力は、あの魔法陣の前でなければ戻らない。
聖女の力が無くなってしまえば異世界人というだけで何の役にも立たない。
役立たずの聖女に、果たして何が出来るだろうか。
いや、役立たずだと思われているからこそだ。
力を奪われたからこそ、死に際に得た力が輝きを増すのだから。
ニタリと笑みが溢れた。
その様子を見たヨムドイトとリュカは目を見開いた。
「……勿論、闇の宝玉を取り戻す事に協力しましょう」
「…!」
「貴方が私の手を取るのなら…ね」
「……」
「……」
「強欲な異世界人よ………何を望む?」
面白そうに唇を歪めたヨムドイトが問いかける。
大きく息を吸ってから口を開いた。
「ライナス王国と純白の聖女に……破壊と絶望を」
瞳は歪み、楽しそうな表情を浮かべながら、真っ赤な唇が弧を描く。
辺りは静まり返り、まるで時間が止まったようだった。
「……お前、自分が何を言っているのか分かっているのか」
ヨムドイトが真剣な表情を浮かべている。
純白の聖女とはライナス王国の聖女の事……そして何故、ライナス王国に呼び出されたばかりの異世界人であるサラが、ライナス王国の破壊を望むのか。
疑問は深まるばかりだろう。
ヨムドイトとリュカには言葉の真意を理解する事は出来ない。
だからこそこの話に興味を持つ。
得体の知れない内情を暴こうとするだろう。




