16.結界
言われるがまま、全てを受け入れていた。
きっと扱いやすかっただろう。
いつの間にか目の前にあった罠……それに気付く事なく上手く絡め取られていった。
立ち回りが上手いアンジェリカは、その間に他の道を見つけて横をスルリと通り抜け、欲しいモノを選び取っていった。
そして、いつの間にか蹴落とされたのだ。
あの時の事を思い出すだけで……もう。
擦れて傷ついた手首を見ながら、目を閉じた。
(今度は絶対に間違えない…)
勘が正しければ、今からが本当の勝負だ。
「………名はなんと申す?」
「……」
「おい、女ッ!」
「よい……リュカ」
何も言わないことに怒りを示すリュカ。
魔王が手を上げてリュカを制止する。
(子供の姿なのは流石に予想外だった。魔王って、もっと強そうなイメージだったけど……)
お互い、腹の探り合いをするように視線が絡む。
金色の瞳が妖しく細められる。
それを見て静かに口を開いた。
「……私は、サラ」
「俺はヨムドイトだ…ヨムとでも呼んでくれ」
「魔王様…っ!」
「異世界人に我々の世界のルールを強要しても仕方ないだろう?」
「しかし……」
「お前が煩いせいで話が進まないではないか……暫く黙っていろ」
「……はい」
リュカが一歩後ろに下がり腰を折る。
どうやら側近のような役割を果たしているようだ。
鋭い視線で此方を睨みつけている。
そんな視線を流して、改めてヨムドイトへと向き直る。
「サラよ…」
「……」
「我々の目的はただ一つ、ライナス王国から闇の宝玉を取り戻す事だ」
「……」
「しかし大結界があるが故に、我々がライナス王国に入る事は叶わないだろう」
異世界人の聖女が居なくなれば、贄に使って大結界は張る事は出来ない。
以前は異世界人一人が贄となり、張られた大結界。
けれど今、聖女としての力は殆ど持っていない。
今回のイレギュラーでライナス王国はどう動くのだろうか。
純白の聖女であるアンジェリカを使う可能性が最も高いだろう。
しかしアンジェリカが贄になったとしても、一人で大結界が張り切れる程の力があるとは思えない。
それを知っているのは今のところサラだけだろう。
あの国王達は果たしてその事実に気付いているのだろうか?
気付いていない可能性が高いが、力が足りないと分かっている場合、また次の聖女を異世界から召喚するのではないのだろうか。
「私を拐っても、またすぐに次の聖女を召喚するのでは……?」
「それはない…次の聖女を召喚出来るまでには最低でも一年以上は掛かる」
「一年…」
「光の宝玉も、ある程度力を溜めねば働かぬからな……」
ヨムドイトの言葉を聞く限り、異世界人を呼び出すのに使っているのは女神の持つ"光の宝玉"なのだろう。
そして、異世界に送り出した聖女が結界を張るまでの一年を国で過ごすのは、光の宝玉を聖女を元の世界に送り返したり、願いを叶えるのにも使用しているからだろうか。
聖女の修行とは言ってはいるが、その為の一年だとしたら辻褄も合う。
(出来るなら女神から光の宝玉を奪い取りたい)
そうは思っても、女神がいる場所は魔王とは違い、手の届かない場所だろう。
女神から光の宝玉を奪い取らない限り、この輪廻は続いていく。
女神と対峙するのは恐らく復讐を終えた後だろう。
聖女の力を授けた女神には敵うはずもない。
ーーーそれでも
(………地獄に落ちる前に、必ず噛み付いてやる)
ライナス王国を壊すのは、流石に一人の力だけでは無理がある。
どう足掻いても単純に力で捩じ伏せられてしまえば何もできない。
それに、基本的に聖女の力は人を助けて救う為のものだ。
残念ながら"壊す"には一番不向きな能力といえるだろう。
だが、魔族は破壊を得意とする種族。
本当にそうなのかは定かではないが、魔王と呼ばれるくらいだ。
何も力が無いという事は、まず無いだろう。
恐らくライナス王国から出てしまえば女神の力は届かない。
あの女神に対抗するために魔王の力を借りるのは、最善だと考えたのだ。
もしライナス王国に恨みを持っているのなら、利用し合えるのではないか…と。
「故にお前が此処にいる間には、大結界が簡単に張られる事はない。ライナス王国も成す術なしと言う訳だ」
「魔王様……宜しいですか」
「なんだ…?」
「……どうやらプラインによると、今回の聖女は全く力がないようです」
「…なんだと!?どういう事だ」




