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15.魔王



「着きましたよ」


「サラ様……大丈夫ですか?」


「………」



プラインに名前を呼ばれて、瞼を開く。

何もない更地から、いつの間にか大きな扉の前へと移動していた。

そびえ立つ立派な城。


まだ皮膚の表面は静電気のようにビリビリとしていた。

暫くしたら治るだろうか。

手はまだ拘束されている為、乱れた髪すら整える事は出来ない。



「体が辛かったら教えて下さい…」



何も反応を示さないのが気になるのか、プラインが心配そうに何度も何度も声を掛ける。


(……確かに、過剰な優しさって煩わしいのね。アンジェリカの気持ちが少しだけ理解出来る気がするわ)


心の中で呟いたとしても何を思ってもプラインには伝わる事はない。

アンジェリカもこんな風に、心で毒を吐きながら此方を見ていたのだろうか。


プラインは異常なほどに心配をしている。

純粋な気持ちからの優しさではないのだろうが、怯えや不安が見て取れる。


それはサラの存在を誰かと重ねているからか。

それともただの罪悪感からか……。


いっそ責め立てられる事でも望んでいるのだろうか。


(無害なら、どうでもいいか…)


足の拘束は外されたが、軽々と米俵のように抱え上げられて魔族の一人に運ばれていた。

抵抗もせずに大人しくしていると、怯えていると都合良く解釈してくれている魔族達。


下でプラインがオロオロとしながら、後ろをついてくる。


歩くたびにグラグラと揺れる感覚……ふと、足がピタリと止まる。

床にドサリと下ろされて、ゆっくりと辺りを見回した。


一際大きく広い部屋の中。

ライナス王国でも、これに近い部屋があった。


(王座の間……)


いつの間にか皆が、跪いて首を垂れてる。

フラつく足で立ち上がって前を見た。



「魔王様、ライナス王国から聖女を連れて参りました」


「皆、よく無事に帰ってきてくれた」



軽く心地よい声が、耳に触る。

顔を上げれば、綺麗な黒髪の子供が豪華な椅子に腰掛けていた。


(………魔王って、この子供の事よね?)


小学生くらいだろうか。

明らかに幼い魔王に違和感を感じながらも、真っ直ぐ玉座を見つめていた。



「プライン…長期任務、本当にご苦労だった」


「は、はい……!」


「この計画はお前無しにはならなかった…感謝している」


「…!」


「リュカ、プラインに褒美をやれ」


「ありがとう、ございます…!」


「暫くは休んでくれ。ビスもお前の帰りを首を長くして待っている」


「っ、はい…!」



プラインはホッと息を吐き出した後、酷く安心した様子を見せていた。

瞳には涙を浮かべて嬉しそうにしている。



「お前らも辛かったろう……薬が抜けるまで、ゆっくり休むが良い。要望があればリュカに言え」


「はいっ…」


「ありがとうございます!」



そう言うと魔族は一瞬でその場から消え去った。

プラインは横を通り過ぎて、歩いて部屋から出て行った。


最後まで心配そうに此方を見つめながら。



「リュカ、口枷と手枷を取ってやれ…」


「………宜しいのですか?」


「…よい。異界から召喚されたばかりならば何も出来まい」


「分かりました」



リュカと呼ばれた男は、魔王の手足のように動いている。

偉そうな子供に従い動いているため、違和感は否めない。


ゆっくりと口枷が外された後に手枷が外される。

止まっていた血液が流れるのを感じながら、プラプラと手足を動かした。


(ここまで上手くいくとは思わなかったけど……)


自分の運の良さに喜びを感じていた。

正直、初日に魔王の元に辿り着けるなど思っていなかった。

口角が上がりそうになるのを堪えていた。


やはり、信じられるのは己の力だけだ。

絶対裏切らないのは、この世でたった一人……自分だけ。


『ライナス女神に祈りを捧げなさい』

『ライナス王国のために尽くしなさい』

『ライナス国民を慈しみ、愛しなさい』


以前、聖女のように振る舞って、全てを鵜呑みにして毎日毎日言われた通りに教会で祈り、国の為に尽くし、国民の為に力を使っていた。


今までやって来た事は果たして正しかったのだろうか?

答えは、否だ。


いくら女神や国や人の為に祈ったところで、自分自身は救われなかったのだから。


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