(1)
ーーーライナス王国には二人の聖女が居た。
一人目はサラ
一年前に異世界から召喚された少女は強力な聖女の力を持っていた。
その力を讃えて"純白の聖女"と呼ばれていた。
本物の聖女のように慈愛に満ちた行動で"女神ライナスの遣い"とまで言われる程だった。
二人目はアンジェリカ・カールソン
ライナス王国のカールソン侯爵の一人娘。
艶やかな美しい容姿を持っていたアンジェリカはオリーブの髪を持ち、エメラルドグリーンの瞳を持っていた。
その少女達は『聖女』と呼ばれ、崇められていた。
一人は『純白の聖女』一人は『漆黒の聖女』
一人の聖女は、国を守る為に異世界から召喚される。
魔族から国を守る大結界。
それは聖女の力がなければ張れないものだった。
今日は初めて二人で結界を張る日を迎えた。
聖女の修行を終えたのは……
*
ーーーーサラは突然、異世界に召喚された。
学校からの帰り道、いつもの道を歩いていると何かに引き摺られるようにして意識を失ったのだ。
ボヤけた視界…。
目が覚めると、仮装をした人達に囲まれていた。
何故か嬉しそうに声を上げた人々。
何が起こるのか理解出来ずに恐怖で動けなかった。
周囲をグルリと見渡して泣き出しそうになるのを必死に我慢していた。
作りものにしては精巧に出来ている建物と、仮装しているにしてはリアルすぎる衣服。
それに赤や青や緑という日本では考えられない髪の色に驚いていたのも束の間ーー
「ようこそ、ライナス王国へ」
赤髪の綺麗な青年が此方を見つめていた。
怯えながらも、その青年の手を取ると拍手が聞こえてくる。
震える足でなんとか立ち上がると、とても美しい美女がニコリと微笑みかけた。
「とても可愛らしい異世界人ね……大丈夫、怖がらないで」
「さすがライナス王国の聖女だね…」
「お褒めいただきありがとうございます、カーティス殿下」
煌びやかなドレスを纏っている大人びた少女が綺麗に会釈をする。
赤髪の青年はまるで御伽噺に出てくるような王子様のような立ち振る舞いをしていた。
二人はとても美しくて、制服を着ているサラには眩しく見えた。
「ここはライナス王国……」
「………!」
「女神ライナスに護られている素晴らしい国なのです」
「……僕達には君の力が必要なんだ」
「カーティス殿下の言う通りですわ…!貴女はわたくし達の救世主なのですから」
サラは二人に促されるまま歩き出した。
「申し訳ないが、詳しい話は父上の元に行ってからでいいかい?」
「父上……?」
「僕の父は国王なんだ」
カーティスがこの国の王太子であり、父が国王である事が伝えられる。
そして豪華な椅子に座っている男性の前に立った。
「異世界の聖女よ……名は何と申す?」
「…………サラ、です」
「聖女サラ…いい名前だ」
「サラか、綺麗な名前だね」
歓声が湧き起こり、戸惑っていた。
疑問が沢山あるのに、質問出来るような雰囲気では無かったからだ。
すると突然、神官の男が現れて額に手を当てて、次にオリーブ色の髪をした少女の額に手を当てた。
「素晴らしい……!サラ様は"純白の聖女"だ」
「え…?」
「サラ様は今までにないくらいに強い力を持っておられます!!」
「聖女って……」
「アンジェリカ様は"漆黒の聖女"となります」
「…………ありがとうございます」
「何という奇跡だ!こんなにも力の強い聖女が揃うとは!」
喜ぶ周囲とは裏腹に、心は不安で一杯だった。
「あの…っ!」
「……どうした?純白の聖女サラよ」
「此処はどこですか?家に、家に帰してください…っ!」
瞳からポロポロと涙が溢れた。
いきなり奪われた元の生活……父と母の顔が思い浮かんだ。
この問いに応えるものは誰もいない。
「………申し訳ないが」
「っ…」
その言葉で全て理解する事が出来た。
不安と絶望で、その場で泣き崩れた。
肩を震えながら顔を手のひらで覆い隠す。
そんな時、カーティスに優しく抱きしめられて目を見開いた。
「突然、辛かったろう……すまない」
「……う、っ」
「サラ様………わたくし達が居ますから」
安心させるように微笑んだ二人に涙を拭った。
カーティスとアンジェリカの手を取り立ち上がった。
その日から、ライナス王国で暮らす事になった。