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第一章 呼び合うふたり① ー結衣の影ー  

日本人離れした長いブロンドの髪の毛と、整った顔に光る少し青みがかった瞳は、それだけでクラスから浮く原因になっていた。


 それに加えてのこの事件で、早紀は完全にクラスでの居場所を失っていた。


 一番の原因はののかだった。


 行事ごとにはことさらはりきるののかは、クラスの総合優勝を台無しにした早紀を必要以上に阻害した。


 ののかは女子の代表としクラスを取り仕切り、他クラスにも友達が多い。


 気に入らない生徒は、どこまでも数の力で排除する。


 そんな奴だった。


 そんなののかに逆らってまで早紀に味方する者はこのクラスにはいなかった。


 クラスは学年が変わってもそのまま持ち上がりなので、二年になっても事態が好転することはなかった。


「みんなおはよう」


 ののかが入ってきた。


 クラスのそこかしこから挨拶が返ってくる。


 いつも馬鹿みたいに騒いでいる男子生徒も、ののかにはきちんと挨拶をする。


 ののかの“教育”はクラス全体に行き届いていた。


 その挨拶に答えながら、くるくる巻いた髪の毛をわざとらしく手でかきあげて早紀の方をちらっと見た。


 その視線を無視するように、早紀は読んでいた本に目を落とした。


 休み時間は苦痛以外の何者でもなかった。


 することと言えば、本を読むことと、予習復習をすること、たまにトイレに行って時間が過ぎるのを待つことだけだった。


 他のクラスには陸上部の友達がいるのだが、その子たちにはその子たちなりのクラスでの人間関係があるので、わざわざ他のクラス出かけていって彼女たちの邪魔をすることははばかられた。


 囚人のような時間を過ごして、部活に向かう。


 それが早紀の日常だった。


「はい、みんなおはよう。早く席に着け。鐘はもう鳴ってるぞ」


 担任の畑中先生が、出席簿で肩を叩きながら入ってきた。


 まだ三十代と若い男性教師だ。


 結衣が在学中の頃も担任だったので、結衣のこともよく知っている。


 それが早紀には苦痛だった。


「はいじゃあ、早速だけど、物理の小テストをするからみんな筆箱以外は机にしまえ」


 ええーっというブーイングが全員から巻き起こった。


 そんな声は気にする風もなく、畑中はテストを配っていく。


「平均点以下は放課後補修な」


 補修だと部活に行く時間が遅くなるな。


 右手の中でペンをくるっと回しながら、ぼうっとした頭で早紀はそう考えた。






「学年模試の結果が返ってきましたよ」


 山口担任は教室に入るなり手にした結果通知をひらひらと降った。


 山口は年齢不詳の美女だ。


 吹奏楽部の顧問なのにいつもジャージを着ている。


「この中に全国一位の生徒が居ます! さあ、だれかなー?」


 山口は明るくそう言うと、眼鏡を右手でずり上げながら教室を見渡した。


しかし生徒たちはそれが誰か既にわかっていた。


 結衣の学校は圏内屈指の進学校だ。


 模試で全国上位をとる生徒も少なくない。


 そんな中にあってもその存在は別格で、校内の誰もが彼女を認めていた。


「はい、それは花園結衣さんです。おめでとう」


 担任が拍手をすると、教室が拍手で埋め尽くされた。


 結衣はいつものように静かに立ち上がり、教卓まで笑顔で歩いて担任から模試の結果を受け取る。


 それがいつもの行事だ。


「はい、みなさんも花園さんを見習って頑張りましょうね。花園さんはにはお話があるので、放課後職員室来てくださいね。それでは、次の人」


 結衣が自分の席に戻って椅子に座ると、隣の席の加奈子が話しかけてきた。


「全国一位おめでとう。そんなに何回も一位をとってたら飽きるんじゃない?」


 可笑しそうに悪戯っぽい笑みを浮かべる。


「でも職員室って、なんだろうね? 何度も全国一位をとってるから、表彰状でもくれるのかな?」


「えー? それはないでしょう」


 結衣は特に職員室に呼ばれた理由など気にならなかった。


 はやし立てられるのはめんどくさいな、そんなことばかりが心に浮かんだ。


 それを見抜いたのか、加奈子はくすっと笑った。


「ほんとに、早紀ちゃんのこと以外、自分にも興味ないよね。結衣は」


 最後の方は真顔で加奈子は言った。


「次、吉川加奈子さん」


 先生が加奈子の名を呼ぶ。


「加奈子、呼ばれてるよ」


 加奈子の真っすぐな視線に耐えなれなくなって結衣は加奈子を促した。


「わかってるよ。はーい」


 加奈子が席を立ってから、結衣はようやく手に持った模試の結果を開いた。


 全国総合一位。


 いつもの文字が並んでいた。


 職員室、めんどくさいな。


 部活に行く時間が遅くなっちゃう。


 特に何の感情もなく、ぼうっとそんなことを考えた。

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