決戦、非日常、クリスタル
投稿忘れてましたが毎日書いてます。
金属音が響く。暫し、あたりは無音だった。
「……か、勝った!シュナが勝ったぞ!」
我に返って誰かがそう叫び、一拍遅れて会場にざわめきが広がった。シュナが勝った、あのちびで物覚えも歩くのも人一倍遅かったシュナが、決勝戦で優勝候補のガルドを打ち破った!
「お前、どうして……」
ガルドは大きな顔を真っ赤にしていた。自分が負けるなどと思ってもいなかったのだろう。年に一度の武術大会で、勝者のクリスタルはいつでも彼の手にあった。
シュナは答えずに、慇懃すぎるほど丁寧に礼をして踵を返した。いつもの彼とはまるで違っていた。栄えある勝利を喜んでいるようには見えない。ガルドは去っていくシュナの、肩を掴むことすらできなかった。
シュナはしばらく無言で歩き続けた。誰もついてきていないことを確かめ、村の外れに向かう。粗末な家々が立ち並ぶ村のさらに端には、馬小屋と見間違えそうなほど小さな掘立小屋があった。そこが彼の家だった。
「ただいま」
中へ入ると、身体にどんっと衝撃が走った。同じくらいの背丈の子供が抱き着いてきたのだ。
「おかえり、ユアナ!」
「でっかい声出すなよ、シュナ」
シュナ―もといユアナは眉を顰めて双子の兄を咎めた。本物のシュナはユアナに抱き着いたまま、不安げな溜息をついた。
「ユアナなら勝つと思ってたけど、やっぱり心配だったんだよ。…ところで、クリスタルは?」
「そんなもんあとでいい。それより準備は終わってる?」
「もちろん。いつでも逃げられるよ」
いたずらっぽくシュナが笑い、ユアナも同じように微笑んだ。今日でこの狭い村と決別できると思うと、底知れない喜びが腹の底から湧き上がってくる。行く当てはないが、村の武術大会の優勝者に一年間預けられるクリスタルを売れば、当面の生活費くらいにはなるはずだ。
「十五歳になったら、二人で村を逃げ出して父さんたちを探しに行こう」
それが、双子のたった一つの約束だった。